落とし物捜索依頼
依頼者の家はわらぶき屋根の木造住宅で、町の中心部からかなり離れたところに立っていた。
リアが木のドアを叩くと若い女性が姿を見せる。
金髪のショートヘア、安物のぶかぶかの服にロングスカート、整っているが生気の薄い表情から薄幸の美女とでも言うべきだろうか。
「青いブローチを落としたって依頼を出したのはあなた?」
「はい、そうですけど。引き受けてくださるんですか?」
リアの問いに答えた女性の表情は少し表情が明るくなる。
「ええ。それで話を聞きたいのよ。どんなものか、どこで落としたのかという情報をね」
「もちろんです。どうぞ中へ。狭い家ですが」
案内された家は靴をぬぐ場所がないのはリアの家と同じだった。
入ってすぐ左手がリビングダイニングで、安物のソファーにリアとシュンは並んで腰を下ろす。
コップにお茶を淹れてもらったが味は薄い。
家の中に物は少なく寒々とした印象をシュンに与える。
「それでお話をうかがうわ」
と改めてリアは切り出す。
「ええ。なくしたと気づいたのは一週間ほど前でした」
女性はゆっくりと語り出した。
「機織りの仕事をしているんですけど、それから帰ってきてご飯を食べて、寝る前に着替えようとしたところで気づいたんです」
「……それだけじゃ手掛かりはないわねえ」
リアの言葉に女性はしゅんとなって肩を落とす。
酷なようだが、職場と自宅のどれかと言われてもさすがに困る。
「青い石は安物ですが、彫り師だった父が誕生日に自分の手で私の好きな花を彫ってくれた、記念の一品なんです」
女性は泣きそうな顔になった。
「大切な思い出の品なんですね」
「はい」
シュンの言葉に彼女は大きくうなずく。
なくしたのは気の毒だし、探し出してほしいという願いもわかるが、果たして見つかるか。
「頑張ってみますが、お話をうかがっただけだと難しいでしょうね」
リアははっきりと言った。
いたずらに希望を持たせないほうがよいという判断だろうか。
女性はぎゅっとスカートを握り、疲れたような笑みを浮かべる。
「覚悟はしています。自分で探しても見つかりませんでしたから……でも、それだけじゃあきらめきれなくて」
あきらめきれない思いが表情ににじんでいた。
何とかしてあげたいとシュンは思う。
「手は尽くすけど、期待しないでね」
リアは冷淡な言い方をして立ち上がり、彼に目で合図する。
「見送りはけっこうです」
彼もあわてて立ち上がったあと、彼女は依頼者に告げて家の外に出た。
「思っていたより難しそうね」
とリアは言う。
「俺が探し物を見つけられるアイテムを作れたら、話は早いんですが」
シュンは無念そうにつぶやく。
「そのアイデアいいわね」
リアは勢いよく顔ごと彼を見る。
「え、そうですか」
シュンは思わぬ反応にきょとんとした。
「ええ。物作り系のスキルには特殊な能力を付加できるものがあるの。まだ試したことはなかったわよね」
リアの言葉に彼はうなずく。
「言われてみればそうですね」
彼が試してきたのは銃と防具が中心で、特殊能力なんて考えたことがない。
「次の段階に進んだということで、やってみればいいんじゃない?」
「ですね」
リアのすすめに彼は同意する。
困って依頼してきた人に便乗して実験するのは気が引けるが、現状何の手掛かりもないのだ。
上手くいけば儲けものだと思ってもらおう──とシュンは考えて試してみることにする。
「ええっと……探し物を見つけるためだから」
方位磁石のように探し物の現在地を示すものか、あるいはレーダーのようなものがいいだろうと彼は考えた。
「スキル発動」
しゃがんで小さな石を二つ掴み、スキルを発動させて出現したのは四角い箱型のレーダーである。
「落とし物はどこだ?」
彼が聞くと白い点が少し離れた場所で点滅した。
「行ってみたほうがよさそうですね」
とシュンが言ってリアはうなずく。




