ビレーの町、討伐ギルド
──もしラルクたちに見つかったらどうしよう?
シュンはそう懸念したが、杞憂に終わって二人は石の壁に囲まれた町へと到着する。
「ここは?」
シュンが隣のリアに問いかけた。
「ビレーの町よ。大きな都市へ行くまでの中継地点というところかしら」
「ああ、なるほど」
とシュンは答える。
日本だってすべての町が大都市というわけではなかったのだし、と彼は受け入れた。
町は自由に出入りできるようで、彼らを呼び止める者はいない。
人口は千人か二千人くらいだろうかとシュンは思った。
住宅は木造の平屋が多く、店は住宅を兼ねた二階建てが多い。
彼の目からすれば異国情緒あふれているが、異世界なのだから当然だろうなと彼はひとり含み笑いをして、すぐに引っ込める。
「今日はここで泊まって、ギルドに登録するわよ」
とリアが段取りを彼に話す。
「ギルドってモンスターギルドですか?」
シュンが登録できそうな組織で最初に浮かぶのはそれだ。
もう一つはスキルを活かした物作り系のギルドだが、何となく違う気がしていた。
「ええ」
リアは一度うなずいてから捕捉する。
「正確には討伐ギルドね。モンスターギルドだと、モンスターの生態を研究しているギルドと区別がつかないから」
「研究系のギルドがあるんですね」
彼女の言葉にシュンは感心した。
「あなたの世界にはなかった? 生き物を研究する組織とか、学問とか」
「ありましたね」
リアの問いになるほどと思いながら彼は返事する。
もっとも彼が知っているのは「生物学」くらいだったが。
「こちらでも同じと考えてくれたらいいわ」
「わかりやすい説明ありがとうございます」
リアの説明に納得し、シュンは感謝する。
「あなたも褒め上手よね」
彼女はくすっと笑う。
「でしょうか」
シュンは首をひねった後、彼女のあとについていく。
二人がやってきたのは木造の二階建てが並ぶエリアで、緑色のわらの屋根の建物だった。
中に入ると年季の入った木の臭いが、シュンの鼻を刺激する。
赤色の布がかけられたカウンターにリアは行き、斜め後ろに立つ彼を指さす。
「彼を討伐ギルドのテイカーとして登録したいんですけど」
「はーい」
受付のヒューマンの女性は笑顔で『計測水晶』を取り出し、シュンに差し出した。
「じゃあ魔力を測定しますね。使い方はご存じですか?」
彼女の問いにこくりと彼はうなずく。
美人相手だとどうしても緊張してしまい、とっさに言葉が出てこない。
シュンが『計測水晶』に手を触れて魔力を流すと、白い光を発する。
「えっ!? 白!? うそ!? ヒューマンなのに!?」
受付嬢はよほど驚いたのか、大きな声をあげてしまう。
たちどころにシュンはギルドの中にいた人たちの注目を集めた。
「白だと?」
「嘘だろう?」
「あのガキが?」
「王クラスの魔力ってことか?」
多くの者は半信半疑という顔でシュンに視線を向けた。
「あ、ごめんなさい」
自分の失態を悟った受付嬢はあわてて謝る。
「まあ覚悟はしていたから」
リアは答えてからちらりとシュンを見た。
「でしょう?」
「そうですね」
彼は苦笑気味にうなずく。
ヒューマンとしてトップクラスの魔力量だと聞かされていたので、もしかしたらと予想はしていた。
「見たところまだお若いですよね。もしかしたらすごいスキルをお持ちなんですか?」
食い気味に受付嬢はシュンに話しかけてくる。
「ええっと、よくわからないスキルなんです」
彼は困って反射的に答えた。
「そうなんですか?」
「まだ解明されていない強豪スキル持ちだと思っていればいいわよ」
リアが上手くかわす。
「なるほど」
受付嬢はシュンにとって意外なほどあっさりと納得する。
「スキルは謎が多いって、ギルド関係者ならさすがに知っているから。堂々としていればいいのよ」
リアは小声でシュンに耳打ちした。
「そうなんですね」
彼は少しだけ気が楽になる。