旅立ち
祖父を埋葬してひと晩が経過し、次の日の朝。
シュンとリアはいつも通り二人で食事をすませた。
「ご飯を食べ終えたらさっそく出ましょうか」
彼女の提案にシュンは疑問を返す。
「え、荷物とか倉庫とかはどうするのですか?」
旅に出るならそれなりの準備は必要になるだろうし、倉庫の管理などはどうするのだろうか。
「魔匠神ならストレージというスキルを使えるの。あとでストレージがどんなスキルか見せるわね」
「はい」
ストレージならゲームの収納系の魔法なりスキルで聞いたことがある。
なんて思いながらリアの言葉にシュンはうなずく。
ご飯を食べ終えて二人で食器を洗い終えて、二人は家の外に出る。
「約束通り見せてあげる」
リアは倉庫の前に立って右手をかざす。
「ストレージ、発動」
すると手のひらから黄金の輝きが出現し、倉庫を包んで消してしまう。
「私が所持している保存空間に建物ごと収納できたのよ」
「す、すごい」
まさか建物ごと入るとは思っていなかったシュンは、仰天して目を見開いた。
「一応知識としてはあるんだけど──超越スキルはやっぱり規格外ね」
リアは自分の手をまじまじと見つめる。
彼女も昨日祖父から継承したばかりなので、スキルを扱う実感や経験は不足しているのだろう。
「すごいですね」
シュンが感心すると彼女は苦笑した。
「魔匠神の知識によると、あなたのスキルも超越スキルの卵である可能性が、とても高いみたいよ?」
「えっ、そうなんですか?」
彼はそこまで考えが回っていなかったため、ぎょっとして彼女を見つめる。
「ええ。現在空位になっているスキル──『製造神』『開発帝』『建設神』のいずれかが有力候補だろうと思えるわ」
「そんなスキルが」
明かされた情報にシュンは少し感動した。
「どうやったら至れるのかわかっていないものばかりだけど、大丈夫?」
心配するリアに彼は微笑んでみせる。
「ええ。超越スキルは規格外だと教わった時点で、そうだろうなと思っていました」
「そっか。あなたにとって大切なのは元の世界に帰れるかどうかでしょうしね」
リアの言葉にシュンは遠慮がちに小さくうなずいた。
「どうしたの?」
彼の態度に彼女は疑問を抱く。
「よくしてもらっているのに、帰りたいと思っていいのかなと。何の恩返しもできていないのに」
と言ってシュンはうつむいた。
お世話になりっ放しで何にも返していないのにハイさよならは抵抗がある。
せめて何か役に立ちたかった。
「そんなの気にしなくていいのに──と言ってもあなたは気にするのでしょうね」
リアの彼を見る目はとても優しい。
「ええ」
シュンは隠せないと首を縦に振る。
「じゃああなたができることをできる範囲で、少しずつやってくれたらそれでいいわよ。あなたじゃなきゃできないこと、いくらでもあるから」
とリアは言う。
「はい」
具体的なことは何も言われていないなとシュンは感じたものの、とりあえずうなずいておいた。
「とりあえず次の目的地を決めましょうか?」
「ですね」
シュンが同意するとリアは彼に問いかける。
「行ってみたいところってあるかしら?」
「ええっと、俺はこの世界のことよく知らないので」
どんな国があってどんな場所があるのか、彼は何も知らない。
彼が知っているのは自分を召喚したラルクたちのことと、リアたちのことくらいなのだ。
「そうだったわね。じゃあ東の大きな都市に行ってみない?」
とリアは手を叩いて提案する。
「東ですか?」
シュンは目で理由を問いかけた。
「東に出ればあなたのことを知ってる人たちの勢力圏から離れられるし、大きな都市だったらいろんな人と情報が集まるわよ」
リアは返答する。
「なるほど」
ラルクたちの目から離れられ、さらに情報収集もできる場所に行くというのは納得できた。
「ではそれでお願いします」
「ふふ、これからもよろしく」
二人は笑顔で握手をかわし、東を目指して出発する。