継承スキル
二人がかりで祖父をベッドに寝かせた後、リアは彼の手を握る。
「ワシの持つスキル『魔匠神』は継承スキルと言って、素質のある者に受け継がせることができるスキルの一つ」
はぁはぁと肩で息をしながら、祖父は話しはじめた。
「そして後継者がリアじゃ」
シュンはそうだったのかと納得する。
「もう少し先だと思っていたし、その間リアに経験を積ませるために、シュンの面倒を見させていたのじゃが……」
予想よりも早く寿命が来てしまったということか──彼は理解した。
「幸い継承スキルは先代の知識を受け継ぐことが可能じゃ。シュンの手助けになる情報は、リアから話せばいい」
「おじいちゃん、わかったから休んで」
苦しそうに息を切らせながら懸命に話す祖父を、リアが心配そうに制止する。
孫娘の気づかいに祖父は首を横に振った。
「どうしても自分で話したいことがある」
と答えてからシュンを見る。
「シュン、元の世界に帰りたいなら超越スキル持ちを探しなさい。魔法、召喚、時空の三つの持ち主であれば、君の悩みを解決できるじゃろう」
そう言って血を吐き出し、リアが白い布で受け止めた。
「君は自覚がないままに何らかの呪い、制限をかけられているかもしれん。だが、超越スキルなら対抗できる。打ち消すことができるじゃろう」
「超越スキルなら?」
祖父の言い方に何かを感じたシュンが聞く。
「ああ。超越スキルに対抗できるのは、超越スキルのみ。例外がないわけではないが、重要な基本ルールだと思うといい」
祖父はうなずいてから話す。
そして目を閉じて懐を探り、黒い竜の意匠のペンダントを取り出した。
目を開いてリアに手渡して言う。
「剣帝を探すといい。このペンダントを見せ、ワシの関係者を名乗れば手を貸してくれるじゃろう」
リアがペンダントを首からかけると、祖父は彼女の手を握る。
「ワシのすべてをお前に託す」
「うん。私がやっていくよ。だからもう、無理しないで」
リアは気丈にも泣いていなかった。
直後、二人の体から黄金の光が放たれる。
シュンが目を凝らして見ていると、黄金の光は祖父からリアへと流れ込んでいるようだった。
それを見て安心したように祖父は再び目を閉じる。
二度と開くことはなかった。
「おじいちゃん」
リアは寂しそうにぽつりと言う。
シュンは何も言えなかった。
あまりにも突然すぎる事態の展開に、起こったことを理解しようとするだけで精いっぱいだったのだ。
「リアさん」
シュンはおそるおそる彼女に話しかける。
彼女はこちらを見ながら目じりを白い袖でぬぐう。
「泣いてばかりいられないわ。私は新しい『魔匠神』になったんだから」
立ち上がった彼女は彼に言った。
「おじいちゃんが『魔匠神』の知識は、少しずつ蓄積されているところだからもう少し待ってね?」
「もちろんです」
とシュンはあわてて答える。
超越スキルの知識となれば膨大な量になっても不思議ではない。
「ただ……」
彼は思わず声を漏らしたが、あわてて口を閉ざす。
今すぐ知りたいことではなかったのだ。
「ただ?」
リアは聞きとがめ、彼女の強い視線にうながされてシュンは言う。
「リアさんたちの目的は知らなかったなと。教えてもらってもいいのでしょうか?」
「ああ。そのことなら答えられるわ」
彼女は微笑む。
「私たちの目的はスキルの謎を解き明かすこと」
「スキルの謎を?」
シュンにとっては意外する答えだった。
彼女も彼女の祖父も、スキルに対してそのような考えでいるとは思えなかったからである。
もっとも彼はすぐに自分が鈍感だっただけだろうと思いなおす。
「スキルに関してはわかっていないことがまだまだあるのよ。私たちはそれを研究したいという願いを持っているの」
リアの説明にシュンはそうなのかと感じる。
「だからあなたの目的と私の目的は一致しているの。超越スキル持ちと知り合いになるという点でね」
「そうなんですね」
彼女に言われてシュンはハッとなった。
「だから私に対して遠慮しなくていいのよ?」
彼女がくすっと笑い、彼は自分の悩みが見抜かれていると気づく。
彼が持っていた悩みはリアの世話になりっ放しでいいのかというものだった。
「目的が一致しているなら、これからもよろしく──でいいのですか?」
「もちろん」
二人はそっと握手を交わす。