時間切れ
この世界で何をするのか──シュンは考えたが、彼が欲しいものは今のところ一つしかない。
日本への帰還方法だ。
学校での彼の立場は最底辺と言っても過言ではなかったし、母親との折り合いもよくなかった。
それでも父親なら心配してくれるだろうし、母親だってもしかしたら──と彼は思う。
ただ、まるで実の弟のようによくしてもらっているリアには言い出しにくい。
いつまでも世話になっているわけにはいかない──そんな思いもあるのだが。
リアの視線に気づいたシュンは言った。
「今日もスキルの練習でいいですよね?」
「ええ。あなたの魔力なら、一日中スキルを使い続けても魔力切れにならないだろうから、いくらでも練習できていいわね」
リアはニコッと笑って応じる。
それを聞いたシュンはふと疑問を抱く。
「魔力の回復量ってどれくらいなんでしょうか? 使いすぎたらひと晩寝ただけじゃ回復しないなんてことはありませんか?」
「ひと晩寝たらだいたいは回復するわよ。黒の上位クラスとなれば別でしょうけど」
リアは心配しすぎだと教えてくれる。
「黒だと回復に時間かかるんですね」
「もっとも黒なら魔力を早く回復させるスキルや手段を持っているはずだけどね」
シュンが納得したところで、彼女は捕捉した。
彼はぽかんとして彼女に聞く。
「あのう、スキルって一人ひとつというわけじゃないんですか?」
「複数持っている人もいるし、超越スキルは強大なスキルを補助するためのスキルを覚えることもできるのよ」
リアの答えになるほどと彼はうなずいた。
超越スキルと呼ばれるくらいなのだから、文字通り他のスキルを超越しているのだろうと解釈する。
「複数のスキルを持てる人はうらやましいですが」
自分には無理だろうなとシュンが残念がると、
「生き方や修練次第で覚えられるわよ?」
リアはそんなことないと訂正した。
「もっとも異世界人の場合はどうなのか、私じゃわからないから断言はできないけど」
「そうですよね」
リアの言葉にシュンは少し落ち込む。
「おじいちゃんならもう少し詳しく知ってても不思議じゃないけど、教えてくれないのよね」
彼女は彼に申し訳なさそうになってため息をつく。
「何で教えてくれないんでしょうね?」
シュンは不思議に思い首をひねった。
彼女の祖父は彼を拾って面倒見ることを許してくれたどころか、食事を用意してくれて素材も自由に使わせてくれている。
決して意地悪から言っているわけではないだろうと思うのだが。
「何でも教えたら私やシュンのためにならないんだって」
リアは言ってから再びため息をついた。
「私はともかくシュンは特殊な事情持ちなんだから、融通を利かせてくれてもいいのに」
「いえ、お世話になりっぱなしですから」
シュンは慌てて首と手を振って、充分だと答える。
世話を焼いてもらって当然という意識を持つことは避けたい。
リアはとても親切なので、自分で自分を戒めるくらいでちょうどいいだろう。
「強いわね。異世界人ってけっこうたくましいのかしら」
彼女はシュンを見てまぶしそうに目を細める。
彼は照れて右頬をかきながらそっと目をそらす。
「リアさんが親切にしてくださるおかげですよ。俺が勇気や希望を持てるのは」
「ふふ、上手ね」
リアは世辞だと思ったらしく笑う。
シュンは訂正しようと口を開きかけたが、もしかしたらものすごく恥ずかしいことを言うかもしれないと気づき、ためらった。
二人がいい雰囲気になりかけたところにリアの祖父がやってくる。
「あらおじいちゃん!?」
祖父が血を吐いてることに気づいた彼女は悲鳴をあげた。
「リア……時間切れだ」
「そ、そんな。あと半年は大丈夫だったはずじゃ!?」
ふらついた祖父を急いで支えながらリアは嘆く。
「そのはずだったが、どうやら計算を間違えていたようだ」
祖父は苦痛に顔をゆがめながらシュンを見る。
「君のためにもなるだろう。すまんがつき合ってくれないか」
何の話かさっぱりわからないまま、シュンはうなずいた。




