防具を整える
「ジュウのほうは問題なさそうだから、今度は防具を作ったらどうかしら」
とリアは提案する。
「そうですね」
シュンはうなずいてから言う。
「何かを作るためにはいちいち素材が必要になるのが、このスキルの弱点と言えそうですね」
一度作った銃を消せるのは便利だが、再度作るためには新しく素材が必要だったことを彼は指摘する。
「それとも素材に戻すことはできるんですか?」
「自分で気づくなんてすごいじゃない」
彼がふとひらめいて問いかけると、リアは微笑んで褒めた。
「そのうち教えようと思っていたんだけど、スキルが成熟すれば素材に戻すことはできるようになるはずよ」
そして答えてくれる。
「あ、そうなんですね」
初心者だからできないだけなのかとシュンは解釈した。
「ひとまずは防具を作るところからか……」
彼は考えたところでふと思いついて、リアにたずねてみる。
「もしかして扱える素材もスキルの成熟度で変わったりするのですか?」
「その通りよ。気づけるなんてすごいわね。大した呑み込みの早さだわ」
リアは手放しで褒めてくれた。
「リアさんだってすごい褒め上手ですよね」
とシュンは答える。
彼女が褒め上手なおかげで彼はモチベーションを維持できていた。
本当にすごいのは彼女ではないか──彼は本気で思っている。
「ありがとう。祖父の教えよ」
リアは微笑んで言い、倉庫を指さす。
「防具の素材を倉庫まで取りに行きましょう。鉄のかけらを使っていいわよ」
「ありがとうございます」
防具のよさはシュンにとって死活問題になるだろう。
敵を近づけなければいいと思うほど、彼は豪胆な性格ではない。
倉庫に並ぶ鉄のかけらをリアから受け取り、シュンはスキルを発動させる。
「スキル発動」
できあがったのは鉄の胸当てと呼べる代物だ。
「うん、いいんじゃない? それならあまり力がなくても装備して歩けるものね」
あまり重いものは不利になる場合があるとリアは話す。
シュンはまさに自分の体力に自信がないからこそ、軽そうな装備をイメージしたのだった。
「あとは小手とかすね当てとかあったほうが安心かな。リスク的な意味で」
とリアに言われたのでシュンは素直にそれらも作る。
「うん、似合っててかっこいいわよ」
リアの笑顔と誉め言葉のセットが、彼には照れ臭かった。
「ありがとうございます」
シュンは礼を言ってから彼女に聞く。
「この後はどうしましょうか? スキルが成熟するように、練習したほうがいいですよね?」
スキルの成熟度によって扱える素材が増えるなら、ぜひともあげておきたいと彼は思ったのだ。
「そうなんだけどね。そろそろモンスターと戦う練習もはじめたほうがいいかな」
リアの答えは少しだけ彼にとって意外だった。
「モンスターとですか」
「素材を集めるのにモンスターと戦うことってあるからね。そうでなくても襲われるリスクはあるし」
彼女の説明にシュンはうなずく。
不安もあるし、緊張もするがモンスターのほうから襲ってくることが珍しくないなら、たしかに練習しておいたほうがいい。
「わかりました。頑張ります」
「私もついていくし、この辺は大したモンスターいないから平気よ」
リアは彼を見上げて微笑む。
シュンは小さくうなずいて銃をかまえる。
「さっそく回ってみましょう」
善は急げかなと思いながら彼は彼女のあとをついて、森へと入った。
「どんなモンスターがいるのですか?」
とシュンはたずねてみる。
どうせ言われてもわからないだろうと思うものの、沈黙が続いて気まずくなることを避けたのだ。
「この辺だとグリーンスパイダーと、ルージュアントかな。虫系モンスターよ」
「虫か」
リアの言葉にシュンは小さくつぶやく。
「虫は苦手?」
「一種類を除けば見たりするのは平気です」
とシュンは答える。
ゴからはじまる名前を生き物だけが彼は苦手で、見るのもいやだった。
「へえ、虫が苦手で戦うのもいやって人もいるんだけど、シュンは平気なのね。じゃあ大丈夫かしら」
リアはそう言いながら彼らは背の高い木が並ぶ森へと入っていく。