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4月8日その4 忠告と告白と

ホームルームでは、ほそちゃんがその癒し系な話し方でこれからの予定を話してくれた。

しかし、クラスの皆はほそちゃんの話などろくに聞かず、ひそひそと雑談ばかりしてる。

ふと左をみる。そこには皆の雑談の原因がすっと背筋を伸ばしてほそちゃんの話を聞いていた。

クリス・ジェファーソン。春休みの合宿の夜、俺をUMAから救った天使の様な女の子。

あの時はもうかかわら無いだろうと思っていた少女は、カナダから来た転校生として俺の隣に座っていた。

そういえばUMAに助けられたことのお礼を言っていなかった。

放課後にお礼を言わなくてはいけないな。

「それでは皆さん、自己紹介でもしましょうか」

ほそちゃんが気をきかせたのか、予定より早くクラスメイト同士の自己紹介をするように告げる。

クラスの男子の雰囲気が変わった気がした。

男子の雑談がすっと止み、クラスが獲物を狩るような緊迫感に包まれる。

「では、番号順に……赤石君から前に出てどうぞ」

男子の気合が明らかに違う。女子の自己紹介は1分かからずに終わるのに、男子の自己紹介はあのほそちゃんが止めに入るほど長い。

そんな皆の気迫に圧倒されたのか、健二や尚の自己紹介は予想外に短かった。

そして俺も、壇上に上がった瞬間に感じた殺気に負け、無難な自己紹介しかできなかったのである。

俺とあろうものが失態であった。

殺気に負けず面白い自己紹介をしてこそ、真の男だろうに……

皆の自己紹介が終わると、ほそちゃんはクラスメイトを見回してうんうんと頷き、

「これから一年よろしくお願いしますね。それでは皆さんさようなら」

こう、ホームルームを締めくくったのであった。




ホームルームが終わると、クラスメイトはクリスさんの元へ集まり始める。

皆身体を動かしながら、必死に自己アピールしたり、質問したりしていた。

しかし、俺はそんな輪に入る気にはなれず、とりあえず人が集まってきた俺の席を離れて、廊下に出たのであった。

廊下に出ると、尚が話しかけてきた。予想外である。

コイツはクリスさんの元に行ったと思ったのに……

「お前クリスさんのとこ行かないの?」

廊下の壁に寄りかかりながら、純粋に疑問に思って尚に聞く。

すると尚は深刻そうな表情をしながら俺に顔を寄せ、眉をひそめながら、

「なぁ、もしかしてお前をUMAから助けた女の子って、あの子か?」

なんて質問を質問で返してきやがった。

からかおうとも思ったが、尚が真面目な顔をしているのでやめることにする。

「ああ、そうだけど……。だから言ったろ、嘘じゃないって」

もしかして俺の話が本当だったと思って謝りにきたのだろうか。

それならわが親友ながら殊勝な奴である。俺が妙に感心しながら頷いていると、尚はもっと深刻そうな顔になり、こういったんだ。

「おい、それならあの子、やばいかもしれないぞ」

「どうしてだよ。確かに〔力〕がある人間は珍しいけど、それで差別するなんて古いぞ、お前」

非難の意味をこめて口調が強くなってしまう。

確かに昔は能力者に対する差別は激しかった。一部地域では命を奪うほどの迫害がおこなわれたらしい。でも今はそんな古い思想は流行っていない。

しかし今でも能力者が自分の能力を隠す事は多いそうだ。

やはり差別感情などは残っているのだろう。

でも、能力者だからって人を差別するのは俺は間違っていると思った。

その能力によって俺たち一般人は救われているのだから。

「違うって。あの子犯罪者かもしれないって事!」

「は? それってどういうことだよ?」

「彼女、退魔課(せいふ)の能力者リストに未登録だったんだろ、ってことはやばい連中かもしれないじゃないか」

尚は顔をさらに引きつらせながらそう主張する。

この国の能力者は全員行政の登録管理下に置かれることになっている。

もちろん、能力による犯罪を防止するためである。しかし、UMAの発生が減ってきた現代、UMA自体よりも能力者による犯罪のほうが社会問題として表面化してきていた。

外国から来た能力者も、もちろん政府によって把握されている。

そんな中で自分の能力を登録しないってことは……

「……やばい連中なら高校に転校してきたりこないだろ。きっと何か退魔課で問題があったんじゃないか? いや、きっとそうだろ。俺たちがあんま気にしてもしょうがないぜ」

「……そうだな」

尚にはそう言ったものの、俺としてもクリスさんに対する不安はぬぐえなかった。

能力者として未登録、という時点で俺たちからすればかなりのパチモンである。

でも、だからこそ彼女に何かを期待している自分がいることにもう俺は気づいていた。

「お前これからどうする? 今日はお前も部活休みだろ、一緒に帰ろうぜ」

尚が話題を変えてこれからの予定を聞いてくる。

もう、俺の予定は決まっていた。

「あ〜今日はクリスさんにお礼言ってから帰るよ、悪いけど校門で待っててくれないか?」

「勇人……」

尚が苦い顔をする。それでも俺が譲らないと分かると、気をつけろよなんて言って尚は先に校門へと向かっていったのだった。




とりあえず廊下でクリスさんが出てくるのを待つ。教室からは幾人かの生徒が何回か出てくるものの、なかなかクリスさんが出てこない。

教室の様子も廊下側の窓も教室のドアも閉まっているので確認できない。

出てくる生徒に、クリスさんは? なんて聞いても、中で話している、の一点張りでまったく参考にならなかった。

暇なので素数を数えながら待つことにする。数を数えるたびに数えるのがゆっくりになり、ついに頭の中が意味不明になってしまう。

痺れを切らして教室に突入しようとした決めたとき、やっとクリスさんが教室から出てくる。

が……

「げっ……」

「何がげっ、なの田島君? 失礼だと思うんですけど」

彼女は委員長を含むクラスの女子数人と一緒だったのである。思わず気後れしてしまう。

数人の女子の前でその中の一人の女子に話があるなんていうのは恥ずかしいじゃないか。

どうしよう、どうしようなんて考えているうちに、がやがやと話しながら彼女たちが行ってしまいそうになる。

ええい! ここは言うしかない! 俺は覚悟を決めこういったんだ。

「クリスさん、ちょっと話があるんだが……」



その時時間が止まる。



女子の話が止まり、

俺の方を見ながらえ〜、とかうそ〜、とか初日から〜とか身の程考えたら〜とか言っている。

……おい、最後の奴出て来い、でなくて俺のほうも大パニックである。

まずい、これはまずい方こくはくにとらえられた!

「いや違う! 違うんだ!」

そう違うんだ。

たしかにクリスさんは可愛いし綺麗だし正直俺の好みのストライクだったりちょうど彼女ほしいなんて思ってたりしたけど違うんだ。

もうあたふたしてどうにもならなくなっていた俺だった。

そして委員長がいやらしい笑みを浮かべながら俺を追い詰めるようにこう言ったんだ。

「じゃあ教室でふ・た・り・で話してきたら? 今教室には誰もいないよ」

また女子の中からまた甲高い声があがる。え〜理恵(委員長の名前だ)いいの〜なんて言っている。

委員長はそんな女子の声を大丈夫だから、なんて言って両手で静めると、俺とクリスさんを教室に押し込んだのであった。



もし私の小説を楽しく読んでいただいている方がいらっしゃいましたら、感想、評価等をいただけると、とても勇気づけられます。

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