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4月8日その3 転入生現る

始業式は新一年生以外で行われる。

新一年生は明日の入学式から学校に通うようになるのだ。

体育館に着いた俺はほそちゃんの指示に従い、クラスの番号順に整列しながら尚の貶め方を考えていた。

やはり自己紹介のときに過去ネタでえぐってやろう。多分奴も俺の過去ネタでえぐってくるだろう。だったら死なばもろともである。

いつもの通り尚を貶めた姿を想像して、ほくそ笑む。

しかし今度はここでふと疑問が生まれた。

俺と尚は、小学校の頃からの親友、のはずである。なのに俺ら二人はいつも相手を貶めることばかり考えている。これは果たして仲がいい、のだろうか?

唐突に生まれた疑問に頭を悩ませているうちに始業式が始まる。

話など疑問のおかげでまったく聞いていないが、傍から見ると真面目に動かないで話を聞いているように見えるので、万事オッケーである。

やはり俺と尚は、喧嘩する位に仲がいいのだろう。そんな結論に至った時、周りが急にざわめくので俺も体育館の正面に目を向ける。校長のズラでも取れたのだろうか。奴は地毛だったはずだが。




そこには天使がいた。




一瞬何も考えられなかった。

壇上には、校長先生の隣に、黄金色の髪をした美少女が静かに立っている。

今は俺の高校の制服を身にまとっているものの、

今壇上に立っているのは、確かにあの時俺を助けた天使だった。

あのときの夜の出来事が走馬灯のように思い出される。

俺をあの夜助けた天使は、俺の学校の、校長先生に、外国からの転入生として紹介されていた。

俺は彼女の〔力〕を思い出し、知らず知らずのうちに両手を強く握り締めていた。

周りは彼女の美貌に驚いたのか、とても騒がしかった。

でも俺はその美しさに魅せられたのではなく、何か別な理由。

自分でも良く分からないごちゃごちゃした理由で彼女から目が離せなかったんだ。

彼女が校長先生と共に壇上を降りる。

皆の視線が彼女に集まる中、俺は彼女とはっきり眼が会った気がした。

……俺はどんな顔で彼女を見つめていたのだろうか。




始業式が終わり、生徒が次々と体育館を出て教室へ向かって行く。

生徒たちは皆、あの天使のような女の子の事について話しているようだった。

いろんな奴が俺に興奮した様子で話しかけてきたけど、俺は生返事しか返せなかった。

その中には尚もいたかもしれない。

でもそんなことは気にならなかった。

意味も無く足早に教室へと向かってしまう。

俺の中ではまだあのごちゃごちゃとした感情が渦巻いていて、何も話す気になれなかった。

そんな中教室までたどり着く。まだ中には誰もおらず、静かだった。

自分の席に着くと、そのまま乱暴にいすを引き、机に突っ伏する。

大きな音がしたけど、誰もいない教室はまたすぐ静かになる。

しばらく机に突っ伏していると少しあのごちゃごちゃした感情が落ち着いた気がした。

教室に生徒が戻ってくる。無音だった教室に音が戻ってくる。

「田島君、大丈夫? 何かおかしいけど……」

委員長が席に着きながら話しかけてくる。

大丈夫か、と聞いてくる委員長に優しさを感じて、俺はすっと気分が落ち着いた感じがした。

「ああ、大丈夫だよ。あの子に惚れちまったかも」

身体を上げ、笑顔を浮かべながらちょっとおどけて答える。

そんな俺に彼女はちょっと笑うと、

「多分無理じゃない? 田島君、正直あんまかっこよくないし……」

なんてのたまいやがったんだ。

確かに俺はかっこよくは無いが、女子に言われるとへこんでしまう。

しかしこのまま言われっぱなしでは男が廃るというものであろう。

それから俺たちは先生がくるまで軽口を叩き合ったのであった。



ほそちゃんはゆっくりとドアを開けると丁寧に後ろを向いてドアを閉め、ひょこひょこと教卓の前に現れた。

彼は、やはりゆっくりと生徒たちを見渡す。そしてにこにこと微笑みながら、

「皆さんも始業式で聞いたように、海外からの転入生のクリスさんが私たちのクラスに加わることになりました。それではクリスさん、どうぞ」

ドアが静かに開く。教室の雰囲気が荘厳なものに変わった気がした。

誰も身動きしない。

そんな中、彼女は美しい金髪をたなびかせながら、教卓の横まで歩き、ゆっくりと俺たちの方を向く。

「カナダからきました。クリス・ジェファーソンです。よろしくおねがいします」

彼女がゆっくりとお辞儀をすると、誰かが息を呑んだ音が聞こえた気がした。

それくらい彼女は神秘的で、優雅だった。

「それでは、クリスさんは四列目の一番後ろ、あの空いた席に座ってくださいね。

それでは最初のホームルームを始めましょう」

ほそちゃんの声が教室の荘厳な雰囲気を破った。

彼女はほそちゃんの指示に従い、ゆっくりと俺の左隣に座ったんだ。

「よろしくおねがいします」

彼女が挨拶をしてくる。

その姿はどこまでも優雅で、それでいて完成された彫刻のようであった。

俺は不思議と体育館で感じたような感情はわかず、普通に

「俺は田島勇人。よろしく」

なんて挨拶することができた。

しかし、まさか俺の隣にくるとは思わなかった。

朝、隣の席が空いていたのはそういうことだったのかと、一人合点する。

そういえば朝、左隣の奴に文句を言おうと決めたんだっけ。

彼女には悪いが、俺の文句の餌食になってもらおう。

俺はその天使のような顔が困ったようになるのを想像し、

自分でもわかるいやな笑みを浮かべながら、

「なんで朝からこなかったんだ? おかげで恥ずかしい思いをしたじゃないか」

と、文句を言ってみた。

すると、彼女は表情一つ変えず、ゆっくりとこちらを向くと、あの夜に聞いたのと同じ調子で

「……。なにかいいましたか?」

なんて言い放ったんだ。

……どうやら敵はかなりの強敵のようだ。

俺は隣のクリスさんを自らの天敵とインプットしたのであった。






あの子が俺のクラスに転入してきたことについては自分でも変なくらいに驚かなかった。

と、いうより俺はどこかで期待していたのかもしれない。

「平凡」な俺が「特別」になれるきっかけがくることを……



今回も難産です。どうすればもっと面白くなるかなどをアドバイスしていただけると幸いです。

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