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4月8日その2 新しい友達

2年6組の教室にたどりつくと、そこでは既にいくつかのグループが出来ていた。

俺は教室の黒板に掲示されていた座席表に近づくと、その前に集まっている奴らの後ろから背伸びするように見る。

どうやら俺の席は入り口から数えて3列目の一番後ろのようだ。なかなかいい配置である。

思わずほくそ笑みながら尚の配置も見ると、奴は3列目の1番前であった。

かなり悪い配置である。なんとなくざまぁみろ見たいな気分になって自分の席に向かう。

とりあえず、自分の席についてみる。周りでは既にいくつかのグループが出来ていて入れる雰囲気にない。尚の奴は何をしているのかまだ教室に来ていない。

所在無くきょろきょろしていると、長身の顔立ちが整った男子生徒に声をかけられた。

「よお、え〜と田島勇人たじまゆうと、でいいんだよな」

人懐っこい笑顔を浮かべたそいつの髪は耳を完全に覆っており、学ランのボタンは第二ボタンまで外れている。

両手は勝手に俺の机に手を突いており、首からはなにやらドクロを模したデザインのネックレスをかけていた。

……なにやらちゃらちゃらした感じで係わり合いになりたくない感じである。

「そうだけど……君は?」

若干身体を引きながら、なんだかぶっきらぼうな感じに答えてしまう。答えてしまってまずいと思ったが、言ってしまったものはしょうがない。

怒らせたかな、なんて思っていると、そいつは笑顔を急に安堵の表情に変えて

「よかったぁ。あ、俺は石川健二いしかわけんじよろしくな」

なんて言って机に突いた手を自分の身体に戻し、手を差し出してくる。どうやら見た目ほど悪い奴ではなさそうだ。

席に座りながら差し出された手を握り、握手をするとそいつは安堵の表情をうれしそうな顔に変える。

「いやぁ、1年の時から君が友達と面白そうな話をしていて仲良くなりたいな、なんて思ってたんだよ。いや、どうにも君がいい奴でよかった。これからよろしくな」

どうやらけっこういい奴のようだった。1年の頃から俺を気にしていたとはなんだかうれしいじゃないか。

「ああ、これからよろしく。俺のことは勇人でいいよ。え〜と……」

「ああ、俺のことも健二でいいよ。あ〜よろしくな勇人!」

「ああよろしく、健二!」

初対面の奴をいきなり名前で呼びすてにするのは恥ずかしかった。

でも、2年になっても楽しくやっていける気がしたんだ。



しばらく健二とお互いのことについて話をする。

健二は生徒会の書記だということだ。思わず、顔に似合わず真面目なんだ。

なんて失礼なことを言ってしまった。

しかし、すぐに謝ると健二は気にしなくていいぜなんて笑って許してくれたんだ。

やっぱりいい奴である。

そのほかには、部活は少林寺拳法部だそうだ。俺は少林寺拳法なんてまったく知らないので、なんか技を見せてくれと頼んだが、そんなに上手じゃないから、なんて笑顔で断られてしまった。

その後、健二に俺のこと(春休みのことは話さなかったが)を話していると、

なんと尚の奴が委員長(かとうさん)と二人で教室に入ってきたんだ。

尚の奴は両手を広げながら何やら笑っているし、委員長も楽しそうに尚のほうを見て笑っているではないか!

まさか尚が女子と一緒にあんな楽しそうに来るなんて……

と、勝手にジェラシーの炎を燃やしていると、席を確認した二人が俺を見つけ、笑いながらこちらに近づいてくる。

これは一言申さなくてはいけない。もちろん尚に。

いったいなんて言えば尚を効率的に傷つけられるだろうか……

「あれ、君はもしかして小林君?」

「ああ、え〜とあんたは?」

やはり委員長と来たことをからかうべきだろうか……

いや、それは奴も予想してるに違いない。もっと別の……

俺は頭を抱えながら自らの思考の中へ沈んでいく。

「あ、俺石川健二っていうんだ。できたら友達になってくれないか?」

「いいぜ。あ、俺のことは尚でいいから。俺も健二って呼んでもいいか?」

「ああいいよ。じゃあよろしく尚!」

「よろしく健二!」

ここは過去ネタでえぐるべきか? となると奴が中学の時に好きな女子に告白する場で屁こいて振られたってのが有力だが……

委員長もいるしな、下ネタはまずいか。だとすると……

髪の毛をかきむしりながら尚の恥ずかしいネタを記憶から探す。

「あ、石川君、生徒会以来だね。」

「あ、加藤さん。よろしく。ところで勇人がさっきから黙ったまま変だけど……」

「ああ、気にしなくていいよコイツ、変だから。な、委員長」

「え〜、ま〜少しは変だと思うね。確かに」

「そうなのか……」

ふ〜むやはりこれでいこう!

去年の中心街であったお姉さんに尚がナンパしたらオカマさんだったって話。

これならいける!!

俺は席から立ち上がると、俺が出来うる最大の不適な笑みを浮かべ、尚に声をかけた。

「ふっふっふ、おい聞け尚」

「みなさ〜んこういう時はシカトですよ〜。つーん」

「え、尚いいのか?……まあいいか。つーん」

「え〜と田島君ごめん。つーん」

「な、いつの間にそんな高等コンビネーションを!くそう、いじめ、かっこわるいんだぞ!」

思わぬ展開にビックリしてしまう。まさか健二と委員長まで奴の仲間になるとは……

結局俺は三人が無視を続ける中一人勇敢にいじめかっこわるいと訴え続けたのであった。

……嘘です。土下座して会話に入れてもらいました。三人には大笑いされました。

……覚えてろよ!!



しばらくすると予鈴がなった。なので四人は自分の席についたのだが、驚いたのは委員長がおれの右隣だということだった。

まあ番号的に考えれば不思議なことではない。

でも俺はさっき委員長に土下座して大笑いされたばかりである。

男としてなんか気まずいじゃないか。

左を向くが、そこには誰も席についていなかった。

初日から休みとか何を考えているんだ左隣の奴! 学校に来たら文句言ってやる!

なんて馬鹿なことを考える。なんか体の右側がむずむずするが、気にしない。

なるべく右を向かないように黒板をじっと見ていると、先生が入ってきた。

「え〜とですねぇ、もう知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、今日から皆さんの担任になる細山です。よろしくお願いします」

そういって先生はぺこりと小さくおじぎをした。

クラスのみんなから歓声があがる。細山先生−−通称ほそちゃんは50すぎの男性教師である。しかし160センチに満たないであろう身長と、その独特の柔らかい物腰、そしてあふれでる限りない優しさによりみんなの癒し系先生の座を獲得した超人気の先生なのだ!

まさかほそちゃんが担任とは思わなかった。これで篠原さんがクラスメイトなら完璧なのだが、彼女は別のクラスのようである。

「ほそちゃんなんて、ラッキーだね」

唐突に委員長が体を寄せて話しかけてくる。

「ああ、そうだな。いやされる毎日が続きそうだ」

ビックリしたことを悟られないよう前を向きながら答えた。

続けて委員長が話す。

「そんなにさっきのこと気にしなくてもいいよ。私も調子に乗りすぎたかもね」

そんなことを言われるなんて予想外だった、さすが委員長である。

俺の気持ち程度ははお見通しらしい。

でも素直に答えるのも何だかしゃくなので、

「覚えてろよ」

なんて答えてしまったんだ。

それでも委員長はどこか楽しそうにどうせ忘れるでしょなんて言って、前を向いたのだった。

……またも完敗である。いや、委員長には一生かなわないのかもしれない。

「それでは皆さん。クラスが変わっていろいろと話したいこともあるかもしれませんが、そろそろ始業式なので体育館に向かってくださいね」

ほそちゃんが微笑みながら皆にそう促す。その声に従い、クラスメイトがのそのそと廊下に出始める。

なので俺も尚をどう貶めようか考えながら、あごに手をあて教室の外に出たんだ。




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