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4月8日その1 2年生になる

 人生とは驚きでいっぱいだ。





 県立小山原(おやまはら)高校1年2組。登校時間も近づき、人も増え始めたその教室で、俺は春休みにあった瀕死体験を親友に報告していた。

 あの時の体験は、不思議なことに俺の中でトラウマとなることは無かった。あの時は現実に死に掛けるというよりも、夢の中で死ぬ、みたいな感覚だったからかもしれない。数日経ってもその体験は恐怖というよりも、自分が普通とは違う体験をした、みたいな優越感を俺にもたらしていた。

 とにかく、親友に春休みの間何か変わった事は無かったか、と聞かれた俺は待ってました、とばかりに温めていた瀕死体験を親友に話したんだ。

「と、いうことがあったんだぜ」

 両手をいっぱいに広げ、まるでヒットラーのように熱弁していた俺は、こう物語を締めくくる。けっこう目立つ格好だったけど、4月の始業式、今年から2年になる俺らは1年の教室で過ごすのはもうこれで最後だ、ということで他の皆はそれぞれの友達と話しており、俺の奇行を気にする奴は誰もいなかった。端的に言えば、シカトである。

 ……それはそれで寂しい気がする。

「で、オチは? というか嘘だろ、その話。エイプリルフールはもう過ぎたぜ」

 俺の席に勝手に座り、机にひじをつきながらいかにもだるそうに答える尚。小林尚こばやししょう、コイツは小学校からの親友だ。きっとコイツなら俺の話を信じてくれると思ったのだが、現実は非情だった。くそ、もうジュースおごってやんないからな!

「いや、嘘じゃないって、俺は、本当に、UMAに襲われて、天使に助けられたの!」

「じゃあ聞くけどさ、そんなことがあったんなら何で俺にメールくれなかったんだ?

 それに何かしらUMA騒ぎがあったなら絶対ニュースになるだろ。

 事実春休みが終わる直前に強力なUMAがシャッター通りしょうてんがいに出たってニュースになってたし」

 俺の必死の主張にもかかわらず、非情な突っ込みをする尚。既に机に乗っているのは顔だけになっている。

 俺はコイツのエイプリルフールの嘘(実は俺、ロリコンなんだ。というメール)を信じて、

そんなお前でも親友だよ、という思いをこめて、恥を忍んで買ったそういう系の本を送ってやったというのに……

 ちなみにその後尚から、バーカバーカこのロリコンめ、というメールが届いた。

「いや、春休みお互い忙しくて会えなかっただろ。だから会ったときのお楽しみということで メールしなかったんだよ」

 尚の目の前の席に勝手に座りながら、とりあえず一つ目の質問には答える俺。こっちの質問はすでに答えを用意してあった。

 問題は……

「なるほどなぁ。でも何でニュースにならなかったかは答えてないよねぇ」

 ニヤニヤ笑いながら俺を追い詰める尚。あの合宿のときにもこんなことがあった気がする。

でも正直、机に顔だけ乗せてニヤニヤ笑うとか気持ち悪いと思う。まあ、奴は変人だし仕方ないか。

「え〜と、それは、そのぉ……」

「それは?」

 顔を上げ、身体を立てて言葉に詰まる俺を催促する尚。その表情は嘘といって早く楽になれよ、と言っている。しかしこれは事実なんだ。誰がなんと言おうと。

 俺は覚悟を決めて姿勢を正すと、合宿に起きた出来事の顛末を話し始めた。

「いやその後自転車と荷物が案外近くに見つかったんで、学校に帰って……

合宿場(きねんかん)では俺を勝手に買出しに行かせたことがばれた部員全員が帝王(こもん)に正座させられていて……

帝王にUMAに襲われたって言ったら意外にも退魔課に電話してくれたんだが、そんな天使のような〔力〕を持った人はうちにはいないし、登録されている能力者にもいない、UMAの発生もこちらでは確認していない、

なんて言われたらしくて、嘘つくなくそ野郎って言われて不眠で正座させられたんだ。だから一般には広がらなかったんじゃないかなぁ、なんて……」

 自分でも嘘くさいと思う事の顛末である。案の定、尚はニタァと笑ったと思うとため息を吐いて、

「はいはい、分かったよ。大変でしたねぇ。UMAに襲われて」

 また机にひじを突いてそんなことを言った。まあ自分でも、事実だが、嘘くさい話だと思うし、鬼に襲われている間はどうも現実感が無かった。ちなみに剣道部や俺の親の間では自転車で転んだことをごまかすために俺がついた嘘、ということになっている。事実は小説よりも奇なり、とはこういうことを言うのかもしれない。

 まあ、誰に話しても信じてもらえない、ってのは分かった。もうこの話を他人にするのはやめよう。尚の反応を見て、俺はそう思うのであった。



「ところでさぁ」

 俺の思いを感じとったのか、伸びをしながら尚が話題を変えてくる。

「勇人、お前何組になると思う?」

「うん、負け組にはなりたくないな」

 尚がいきなりこれからの人生の展望を聞いてきた。いくら話題を変えたと言ってもこれは変えすぎではないだろうか。小学校から付き合ってきたが、尚はやはり変な奴である。

 それでも俺はお前の親友だからな! と、尚に顔を極端に近づけながら熱い視線を尚に送っていると、尚も顔を離しながら熱い視線を俺に向けて、

「俺もお前も理系選択だから同じクラスになるといいな!」

 なんて言ってくる。まったく、嬉しいことを言ってくれるじゃあないか。その台詞に感動した俺はさらに顔を近づけながら、

「ああ、次も一緒のクラスだと僕、友情を超えた愛がめばえちゃいそう」

 なんて返してみた。するとやはり俺の親友である。彼は俺の顔を押しのけると、席を立ち、最高の笑顔を浮かべると親指をたて、そのまま下に向けると、席に向かっていってしまったんだ。

 ……よし、今回は俺の勝ちだな。


 尚がいなくなったので、しばらく周りの奴らと話していると、チャイムが鳴った。席に着きしばらくすると、1年の時担任だった先生が入ってくる。

 彼はひょろりとした顔に似合わないとても表情豊かな英語の授業(とくにvとthの発音にうるさい)をすることで有名である。委員長が号令をかけると、先生は話を始めた。

「あ〜、1年このクラスでやってきたわけだが、あ〜、結局行事では学年で1度も1位になれなかったな。」

 すると先生は顔をくしゃくしゃにしてとても悲しそうな顔をする。悲しそうな顔なのにクラスから笑い声が漏れる。俺も先生の表情の変化に笑ってしまう一人であった。

 結局、俺は先生の話をろくに聞かず、その表情に笑っただけで1年最後の話は終わった。なんか、もったいないことをしてしまった気がするが、それはあれだ、笑わせてきた先生が悪いに違いない。

 そしていよいよ2年の新クラスの発表になる。先生がクラス分けを発表するたびにクラスのあちこちから歓声やため息が聞こえる。正直先生の話より、こっちのほうが盛り上がっている。実際、俺も先生の話よりも、こっちの方が楽しみであった。

「え〜、2年6組加藤、小林、島田、田島、原田、矢口」

どうやら俺は6組のようだった。尚も一緒である。俺は唐突に尚との間に何かしら運命を感じていた。もしや、尚は俺の運命の相手!?

 尚のほうに視線を向けると彼もこちらを向いて親指を立てている。なので俺も精一杯可愛くウインクしてみる。うふ。

 するとなんと彼もウインクを返してきた! まさかまさかの展開だ。奴も運命を感じているとは……

 どう返していいか分からないでいると、奴はしてやったりといった感じの笑顔を向けてきた。……完敗であった。もっと修行する必要がありそうだ。

 え〜と、気を取り直して。あと同じクラスになったのは……

 委員長の加藤さんに、筋トレマニアの島田、野球部の原田と陸上部の矢口さんか。委員長以外はあまり話したことがないな。まあ、これから友達になればいいか。それよりも新しいクラスに美少女がいるか気になる。

 今年こそ彼女を作るんだ。それも尚が嫉妬するような可愛い子を彼女にするんだ。俺はひそかにそう決めていた。今年の俺の目標である。

 新しいクラスに学年1可愛い篠原さんがいるといいなぁ、でも委員長も矢口さんもそれなりに可愛いし、俺けっこう運がいいなぁ。なんて事を考えていると先生のクラス分けの発表も終わる。クラスメイトが移動を始める中、俺もすっかり座りなれた席を離れ、意気揚々と新しいクラスへと向かうのであった。


場面がやっと変わりました。これからもがんばって話を進めていこうと思います。

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