3月27日その4 殺されかける
とても書くのが難しかったです。
意味不明かもしれませんが、これが今の私の文章力の限界でした……。
鬼の万力のような力は弱まることは無く、むしろどんどん強くなっていく。俺のふわふわな意識も段々薄れ、徐々に頭の痺れとともに真っ暗な感覚で全てが塗りつぶされていった。
五感は既にほとんど働いていない。薄っすらと残ったふわふわな意識と、それ以外のほとんどを埋め尽くす真っ暗な感覚が俺の全てだった。
もう、死んだ。と思った。それほどまでに鬼の力は絶対的で、俺の力は貧弱だった。
頭の中にいろいろなことがよぎっては消えていく。
――〔力〕のない人間にはUMAは倒せません。だからもしUMAに会ったら一目散に逃げるのですよ。もちろん、夜中に外にでてはいけません。
小さい頃、小学校の先生からこういわれたっけ。あの頃は自分は「特別」だと信じていた。いつか自分は秘められた〔力〕に目覚めるんだ、そして世界を救うんだ。UMAを倒す退魔課の人たちの活躍をニュースで見て、本気でそう思っていた。
でも現実はこうだった。
結局俺は「平凡」な大多数の人間だった。テレビでは「平凡」な人間がある時突然〔力〕を得て「特別」になったという話が実話から虚構までいつでも流れているのに。
誰が、いつ「特別」になるのか分からない世界。そこで俺は命の危機にさらされてまで「平凡」だった。このまま死ぬしかない、UMAに襲われ死亡したとある高校生A。それが俺だった。
どうして何も起きないのか、どうしてこんなに苦しいのか、どうして俺は死ななくてはいけないのか、なんで俺は「平凡」なのか、「特別」になりたい、死にたくない、消えたくない、いやだいやだいやだいやだ…………
ど……「特別」……う。
混濁する思考の中俺が最後に思ったのは何だったのだろう……
意識が沈んでいく。もう何も分からなくなる直前、突然辺りが強烈な閃光に包まれた。何か苦悶の叫び声のような声が聞こえ、体が唐突に自由になる。
「がはっ……ひゅーーひゅーーゲホッ」
田んぼに叩きつけられたようだったが、それよりも俺には空気が必要だった。うまく働かない身体を必死に動かして呼吸をする。
身体に空気が行き渡っていくにつれて、暗雲が晴れるように真っ暗な感覚が消え去っていく。その間にも苦悶の声は止まず、鬼が何かと戦っていることだけは理解できた。
「はぁはぁ、いったい何なんだ」
ようやく五感が戻ってくる。体は重く力が入らなかった。それでも先ほどより少し落ち着いた呼吸で辺りを見回す。真っ暗だったはずのあぜ道は、何かの光で照らされていた。
そこには天使がいた。
俺には天使としか見えなかった。純白のワンピースを身に纏い、金糸のようなセミロングの金髪をたなびかせながら宙を舞う少女。
そう、宙を舞っていた。彼女は背中から一対の巨大な光の翼を生やし、宙を舞っていたんだ。鬼は少女が一撃で粉砕されてしまいそうな攻撃を繰り出そうとする。しかし、華麗に宙を舞う少女には届かない。
彼女は時折、彼女の正面の空間から光の矢を作り出す。そしてそれを手を一振りするだけで鬼に向かって発射する。それが当たるたびに鬼は苦悶の叫びを上げ、鬼の身体のどこかが欠けていく。いつしか、鬼は矢をかわすので精一杯になっているようだった。
まさに圧倒的だった。鬼は戦うことさえ許されていない。
「あれが〔力〕なのか……」
――〔力〕人類が目覚めたUMAに対抗しうる唯一のもの。UMAが現れるとしばらくして〔力〕に目覚める人間が現れた。
それまでは、神通力や、魔法、超能力と呼ばれ、架空の物、異形が扱うものととされてきた〔力〕。並みの生物では倒すことはかなわず、人類が開発してきた兵器も効果が無いUMAだが、人類が目覚めた新たな〔力〕により撃退される。各国では、〔力〕を持つ者を集め、組織することによって〔力〕持たない者をUMAから守っていた。
UMAを倒すことを許された「特別」な人間。今宙を舞っている天使がそれだった。
「ギャァァァ!」
鬼がいっそう大きな声を上げる。天使が放った光の矢が鬼の胸に突き刺さっていた。鬼は片方しか無い手を空に高々と突き上げ、そのまま蜃気楼のようにあっけなく消えてしまった。
あれほど俺にとって絶対的だった鬼が、天使によって簡単に消し去られる。それを俺は無様に寝っ転がって見つめていた。
「消えちまった……」
UMAは消滅する。昔から言われていた常識であったが、見るのは初めてだったので、妙に感心してしまう。それと同時に、どこか虚無感のようなものを感じていたのはどうしてだろう。俺は死にかけたのに、あまりにもあっけない気がした。
天使がゆっくりと地面に転がっている俺の近くに降りてくる。彼女の光の翼は強い光を放っていたが、不思議とまぶしいとは感じなかった。自然と俺は、翼の光に照らされた彼女の顔をまじまじと見てしまった。
思わず息を呑んでしまう。天使のような姿をした彼女は顔の造りまで天使のように美しかった。
整った眉に水晶のような大きな瞳、すっと通った鼻筋に小さなかわいらしい口。しみ一つない真っ白な肌は彼女の神秘性をさらに引き立て、まさに神話の中の天使のようだ。
そんな中でも、丸みを帯びた顔立ちが彼女の中に幼さを感じさせ、ああやっぱり人間なんだなぁなんて思っていた。
天使のような女の子はさっきから田んぼに転がったままだった俺に近づくと、立ったまま俺を見下ろしてこう言ったんだ。
「あなたに、ちからはないのですか?」
びっくりした。
てっきり大丈夫とか、そんなことを聞かれると思っていた。〔力〕が無いのか、と聞くことは俺に〔力〕があると思ったのだろうか、俺を助けたのは〔力〕があると思ったからなのか、〔力〕が無くては助ける価値も無いというのか。いや、そもそも俺は助けられたのか。
俺は天使に助けられたと言うのに、〔力〕を持つ「特別」な彼女と、無様に転がっている「平凡」な俺に言いようの無い怒りを感じ、力が入らない身体に鞭打って立ち上がらせると、
「無いよ、『平凡』で悪かったな!」
こう言い放ってしまっていた。
しかし彼女は俺の言い方に驚いた様子も無く、
「そうですか」
と短くそれだけ言って光の翼を消すと、再び真っ暗となったあぜ道の向こうに消えていってしまった。
「俺、助けられんだよな……」
しばらくその場に突っ立ったままだった俺は我に返ると無意識のうちにそうつぶやいていた。あの女の子が何の目的で鬼を倒したのか分からないが、おそらく俺は助けられたのだろう。
そういえばお礼を言ってないことに気がついたが、彼女は多分退魔課の人間だろうと思う。あとで電話とかをすればいいのだろうか。この場合どうしたらいいのだろう。俺は何をしたらいいか分からなかったが、とりあえず学校に戻ろう、そう思って辺りを見渡す。
学校は遠くに黒い影のようになって見えた。これは自転車を取りに戻ったほうが早いかもしれない。俺は鬼に追われて走ってきた道をゆっくりと後戻りし始めるのであった。
やっと天使が出てきました。
これで3月27日は終了です。