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3月27日その3 UMA現る

 そいつは俺のことを後ろから飛び越して現れた。奴は二メートル以上も飛び上がったというのに、地面に音もなく着地する。

 巨大な「何か」が正面にいきなり現れ、反射的に足を止めてしまう。足を止めるとそれまでの疲れが急に大きくなって襲いかかってきた。急に目がかすんで、頭がぼんやりする。呼吸は荒く、浅く、体は錆び付いたかのようだった。

 咆哮の主が今、俺の正面に立っている。人とよく似たその姿に、やっぱり犬じゃなかったんだ、とぼんやりとそんなことを思った。それでも正面から漂う圧倒的な存在感に、逃げなくてはとだけ思う。

 しかし、俺は現れたそいつの姿を直視した瞬間、そいつのあまりの異形に動きを止めてしまっていた。

 俺の身長の二倍は軽く超える巨大な体躯。この世の物とは思えない赤黒い肌。人などたやすく引き裂いてしまいそうに思われる丸太のような太い腕。その口からは鋭い牙が何本も生え、生臭い香りが俺のところまで漂っている。その身に纏っているのは獣の皮でできたと思われる腰巻きだけであった。しかし、それがいっそうそいつの荒々しさを引き立てる。

 そして何よりそいつの容姿の中で異彩を放っていたのは、髪の代わりに頭から生えている1本の大きな角だった。



 そいつは鬼の姿をしていた。



 俺は鬼などゲームや漫画でしか見たことはないが、実在したらあのような姿なのだろう。

それはつまり、そいつが何者であるかも示していた。

UMAユーマ……」

 UMA、未確認動物(Unidentified Mysterious Animal)

60年ほど前から出現しだした謎の動物。まだ何なのかも分かっていない地球上の全人類の敵。その姿は様々であるが、すべてのUMAに共通している点がある。

 それは、人種、宗教など関係なく人類が考え出した怪物どもの姿をとり、それら怪物たちと同等の能力を備えるということ。

 また、夜に何処からか現れ、人間の命を絶つか自身の命が絶たれると文字通り消滅してしまうことである。

 そして彼らUMAを全人類の敵たらしめる最大の特徴が、彼らUMAは非生命体の干渉を受けず、またUMA自身も干渉する事ができないということであった。

 生命を絶つ為だけに存在する怪物、それが今俺の前に存在する「鬼」であった。

「……はぁはぁ……何だってこんな田んぼの真ん中に!」

 荒い息を整えながら思わず口走ってしまう。そう、近年UMAの出現は都市部が中心であり、またその出現数も減少傾向にある。俺の住んでいる街の中心部でも月に二回UMA騒ぎが起きれば多い方だったんだ。

 なのに何でこんなところにいるか。なんで俺はこんなところで命の危機にさらされなくてはいけないんだ!

「グガァァァァァ!!」

 鬼が俺を威嚇するかのように咆哮を上げる。

「ひぃっ!」

そのあまりの迫力に体がすくんでしまう。情けないとかは思わなかった。なぜならUMAを実際に見るのは初めてだから。ニュースで時折その存在が報道されても、実物の映像はなく、後はゲームやドラマ、小説のネタになるような存在という認識しかなかった。UMAはそれまどの俺には関係ない「物」だった。こんな、こんな「怪物」だとは思わなかったんだ。

「ウオォォォ!!」

 鬼が俺の命を奪わんとその右手を振り上げる。そのまま俺に向かって勢いよく張り手を繰り出す。

「うわぁ!」

 意識はぼぉっとしていたが、体は生命の危機に反射的に動き、田んぼに飛び込むことでその攻撃をかわす。後ろでうなる様な風切り音が聞こえた。

 勢いよく田んぼに飛び込んだ俺は、そのまま田んぼに倒れ込んでしまう。俺はUMAに襲われているというのに、俺の意識にはまるで実感がなかった。体はひどく重く、息もほとんど出来ないのに、意識はふわふわとして夢の中にいるようだった。

「グルルルル……」

 鬼がゆっくりと田んぼに入ってくる。その巨体は相当の重さがあるはずなのに、田起こししたばかりのふかふかの田んぼには、足跡一つついていなかった。それを見て、今自分の前にいる存在がUMAだと改めて思い知った。

「ゴオォォ」

今度はゆっくりと、鬼の巨大な手が俺ののどへと伸びる。

「……はぁはぁ……うぁ……」

俺の顔を全て覆うような巨大な手を見て再び逃げなくては、と思う。だが疲労で鉛になったような身体はゆっくりとしか動かず、荒い呼吸は意識を保つことさえ難しくする。

そして俺の意志に反して、ほとんど動かない体は鬼の万力のような手に捕まることになった。なのに俺の意識は、それをどこか他人事のような目で見つめていたんだ。自分の事なのに、どこか夢を見ているような感覚。

「かっ……っく……かはっ」

 もともと空気が足りないのに、もっと苦しくなる。身体は空気が欲しくて、鬼の腕を体中を使って外そうと暴れ続ける。しかし、そんな抵抗は無意味だ、といわんばかりに鬼の腕はびくともしなかった。頭の中に血が集まっていくような感覚が段々と強くなる。息がしたいのに出来ないという矛盾がさらに俺を追い詰める。

 それなのに俺のふわふわな意識は、

「買出しに行って死ぬなんて、かっこつかないな」

なんてことを考えていたんだ。

やっと敵が出ました。敵の名前のセンスの無さ(それにパクリ)は許してください。自分でもダサいと思ったのですが他に思いつきませんでした……。

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