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5月12日その1 3つの悩み

 才能とは誰が決めるんだろう。「平凡」とは何が決めるんだろう。「特別」だとなぜ思うのだろう。

 俺にはまだ、何もわからない。



「はぁ……」

 連休が明けて2日目の学校生活は、ため息と共に始まった。ため息をつくのはもちろん悩みがあるからだ。今のところ大きな悩みが3つ。

「〔力〕と才能、か」

 1つ目の悩みは金曜日に出来た。どうやら、退魔課の人たちは俺をUMAと戦う助っ人として雇いたいらしい。俺はもちろん驚いたのだが、強力な〔力〕を持つ退魔課以外の人々を特別協力員として雇うことは珍しいことではないらしい。

 俺の場合は、強力な〔力〕と、いうより戦闘に関する才能をかった、ということらしいが。君と同じ高校生だって私たちと共にUMAと戦っているのよ、なんて言った光山さんの笑顔を思い出す。

 そりゃあ、全国探せばそんな高校生もいるかもしれない。春休み見た、クリスさんの圧倒的な〔力〕を思い出した。案外、彼女がそんな高校生だったりしてな。でも、だからって俺が彼女のようなことが出来るかどうかは別だ。

 俺の〔力〕は木刀を光らせるだけだ。そんな力でUMAに対抗するなんて出来るのだろうか。いや、実際俺はUMAを一匹倒してる。でもあいつはかなり弱そうだった。初めて見た鬼や、公園で退魔課の人たちが倒していた怪物のようなUMAと比べれば一目瞭然だ。あんなUMAを光る木刀と、光山さんのいう才能だけで倒していけるのだろうか……

「でもなぁ……」

 退魔課に雇われる。そんな普通では絶対経験できないような出来事に心惹かれてるのも事実だった。だってそうだ。女子は知らないが男だったら自らの〔力〕でUMAを倒すなんてことに憧れないはずはない、と思う。まあ、少なくとも俺はそうなわけで。

 それに、これが何かのきっかけのようにも感じていた。今まで「平凡」に過ごしていた俺が「特別」になるきっかけ。これをきっかけに俺は退魔課のエースとして活躍して、今までの「平凡」な日常とはおさらばする。そんな期待もあった。

 そう、変わろうと行動しなきゃ変わらないんだ。自分がなりたいと思う自分に。俺は「特別」になりたい。だったらこのチャンスは絶好の物だと思う。

 

 あなたに、ちからはないのですか?

 

 最近はいつもこうだ。煮詰まってくるとクリスさんのあの言葉がよみがえってくる。

「もう、〔力〕は手に入れたよ。だけど……」

「たじまくん、おはようございます」

「うわあ!」

 いきなり背後から声がして飛び上がってしまった。振り返ると金髪の天使のような少女が一人。ああ、俺の悩みのもう一つの原因がやってきてしまったようだ。彼女は俺が飛び上がったことを特に気に留める様子もなく、無表情で教科書を机の中につめ始めた。

 クリス・ジェファーソンさん。彼女はうちの学校の生徒会選挙に立候補している。役職は生徒会長。対する対抗馬は完璧会長こと現職の杉山陽介。まあ、それだけならよかった。学校生活を面白くするイベントとしては満足な物かもしれない。

 でも、それに自分がかかわっているとなると話は別だ。俺はクリスさんの後見人として生徒会選挙に参加している。まあ、それでも別にいやなわけではなかった。彼女に協力するのがいやだってほど俺は彼女を嫌ってはいないし。問題は……

「それでは、行きましょうか」

 クリスさんは相変わらず無表情で俺を促す。今は朝7時。これから俺たち二人は校門に立って登校してくる生徒たちに自分たちへの投票をお願いしに行く。いわゆる、朝立ち、ってやつだ。女の子と朝立ち……男としてはなんかこう、くるものがあるのだがそれは置いといて。

「クリスさんさ。凄く言いづらいんだが……」

「どうかなさいました?」

 その無表情どうにかできないかなぁ。と言いかけて止まる。俺の問いかけに振り返った彼女の表情には、当然のように色はなかった。

「はぁ……」

 昨日の演説のことを思い出した。ゴールデンウィークの間委員長と3人で考え抜いた演説内容は完璧とはいかなくても、まあ、杉山に劣るような内容でもなかったと思う。それでも明らかに反応が違った俺たちとあいつらの演説の差はやはり表情じゃないだろうか。

 少なくとも俺は、同じ演説内容だったら無表情の人間よりかは表情豊かに語ってくれる人間の方に票を入れようと思うぞ。

「あの、たじまくん?」

「ああ、やっぱりなんでもないよ。先行っててくれるか? すぐ追いつくから」

 開けっ放しのエナメルバックをクリスさんに見せてそう言った。やっぱり彼女は何の感情も見せずに教室の外へと出て行ってしまった。……あそこまで表情変わらないと逆に尊敬の念を抱いてくるな。あれもいわゆる一つの個性ってやつか? まあ、そう考えて頑張るしかないよな。

「あとは……」

 開けっ放しのエナメルバックの底にあった真っ白な原稿用紙を取り出す。17日、2回目の演説の原稿。俺の3つ目の悩みの種である。2回目の演説は投票直前だから内容によっては逆転も狙えるわよ。とは委員長談だ。

 正直言って俺はこんなの得意じゃないんだが…… 昨日の演説はゴールデンウィーク中一緒になって考えてくれた委員長あってのものだし。本当に、委員長には助けられてばかりだな。

 あと1週間で果たしてクリスさんを当選させることが出来るだけの内容の演説を考えることが出来るのだろうか。

 昨日の演説では彼女がうちの学校に変化をもたらしてくれることを主張した。実際、彼女に出会ってから自分の周辺は劇的に変わりつつある。それが望む物であれそうじゃない物であれ。やっぱり、そういう変化を実際にもたらすあたり、彼女は普通とは違う人間なんだろうな。

 2回目の演説はクリスさんの人となりを説明しよう。とはやはり委員長談である。田島君が感じたままに彼女の素晴らしさを皆に伝えればきっと大丈夫だよ、と委員長は話してくれたが……

「クリスさんの素晴らしさ、ねぇ……」

 そもそも俺はクリスさんの後見人なのに彼女の事はまったく知らない。外国から来た転校生。容姿は飛びぬけてるのにまったく無表情。それに、春休み。彼女は天使のように羽を生やしてUMAを圧倒した。しかもその〔力〕は退魔課には登録されていない……

 謎の美少女。そう形容するのがふさわしい。俺はそんな彼女を全校生徒にどう紹介すればいいんだろう。彼女は凄い人間ですよ。UMAだって彼女にかないませんってか? ばからしい。 

「はぁ……」

 色々考えると気が重い。いつからこんなネガティブ思考になったかなぁ。とりあえず、目の前のことを一つずつ片付けていくしかない。うん、色々考えるよりかは行動したほうが気がらくだ。

 エナメルバックを片付けると俺は朝立ちに向かったクリスさんを追って教室を出たのであった。

今回は短めでした。

うむむ、うじうじ考えるとかは苦手です。


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