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5月7日その4 vs霧山さん

更新が非常に遅れてしまって申し訳ありません。

 衝撃は続く。二度、三度。反射的に顔を下げて両手で頭をかばいながら後退する。部屋の端ぎりぎりまで後退してやっと衝撃は収まった。

 プロテクターのおかげで痛みは残らないが、衝撃でふらつく頭を上げて霧島さんの方を確認する。床には白くて丸い物体が転がっていた。霧島さんは先ほどと同じく、何の構えもみせずに部屋の中央に立っている。ただし、先ほどまでの柔らかい表情は消え去り、少しも俺から目線を外そうとしないが。

 UMAに襲われた経験があるからだろうか。予想外に冷静に立て直すことが出来た。ほぼ間違いなくさっきの衝撃は霧島さんの〔力〕に違いない。

 どんな〔力〕かはまだ分からない。そもそも人の〔力〕についての知識が俺にはない。どの程度の範囲でどんな攻撃をできるのか分からない以上、様子を見るのがいいかもしれない。

 俺も霧島さんから目線を外さずに木刀を構えなおす。しばらくそのままにらみ合う。彼が仕掛けてこないのを見て目線を霧島さんから外さないようにしながら、床の白い物体に意識をやる。

「野球ボール?」

 床に転がっていたのは野球ボールだった。といってもプロなどで使われるような硬球でなく、アマチュア野球で使われる軟球。霧山さんの〔力〕はこいつを使うのか。そういえば霧山さんの足元には買い物籠があった。そいつに入っていたんだな。

 ……普通に考えればこいつをぶつけて攻撃してきたんだよな。投げてきたのか、文字通り飛ばしてきたのか、は分からないが。

 しかしこいつは投げれば牽制として使えるかもしれない。そう感じてゆっくりとしゃがみながら左手でボールに手を伸ばす。そのまま手にとって右手の木刀と持ちかえる。

 手に取った感触は予想したよりも硬い感じだった。コイツは中に芯が入っている準硬式球かもしれない。好都合だ。顔を狙って投げればいい牽制になる。

 一気に近づいてボールを投げつけて木刀で殴りかかる。単純でバレバレだが、とりあえずやってみる価値はある。

 霧山さんは相変わらず仕掛けてこようとしない。俺が仕掛けてくるまで待つ、ということなのだろうか。それとも仕掛けることが出来ないのか。

 霧山さんまでの距離は目測で普通の歩幅で20歩ほど。突きなら5歩くらいのところに踏み込めれば攻撃は届く。……問題は牽制のタイミングか。本当は霧山さんの攻撃範囲が分かってからの方がいいが、仕掛けてこない以上こちらから行くしかない。

「……よし!」

 いつの間にか汗まみれになっていた両手に力を込め、霧山さんを見据える。彼は床に転がったボールを拾うそぶりすら見せない。一声気合を入れると、俺は部屋の中心に向かって強く踏み込んだ。

 



 瞬間、視界が白で覆われる。



「うぐっ!」

 床に転がっていたボールがいきなり浮き上がって俺の顔へと突っ込んでくる。反射的に下げた頭にぶつかり、再び鉄が入ったような感覚を味わう。

 思わず床についてしまった右手をばねにして、飛び上がるように霧山さんへと近づく。右手に持っていたはずのボールはさっきの攻撃で落としてしまったようだ。

 行動に思考が追いつかない。いつの間にか地面に四肢をつけていた俺はそれを認識する間もなく真横へ飛びのく。そのまま身体は前転するように部屋の中心へと近づいた。

 


 自分でも信じられなかった。なぜ自分はこんな動きが出来ているのか。どうして自分は霧山さんの攻撃をかわすことが出来るのだろう。

 気がつくとまた、身体をひねるようにして白い物体から身をかわしていた。一緒にひねられた頭が4つ同時に飛んでくるボールを認識する。三つをしゃがんで、一つを木刀をかざしてかわす。

 ボコッ! という鈍い音がすると同時に、手に響くような痺れがはしる。その痺れによって、ようやく思考が行動に追いついた。

 めのまえにボールがせまっている。

 正面から飛んできたそれをかがんでかわす。今度は右、間髪いれず左。今度は認識しているのに体が追いつかない。鈍い音と共にいくつものボールが身体に食い込む。

 身体に入っていた空気が一気に押し出される。痛いのか、力が入らないのか。とにかく我慢できない感覚が全身を襲う。その感覚に耐え切れず四肢を地面に着いてしまった。しかし、霧山さんの攻撃は容赦なく俺の体を襲ってくる。

 攻撃から逃げたかったのか、一度落ち着きたかったのか。もはや当然の行動のように俺は後退する。手加減しているのか、俺が後退している間は攻撃が飛んでこなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 再び壁の辺りまで下がると、自分の息があがってしまっていたことに気がつく。息を整えながら、霧山さんを見据えると、彼は身構えるかのようにあたりに転がったボールを浮き上がらせてきた。

 前進すれば攻撃するってことか。もう一度、もう一度さっきの動きが出来れば霧山さんに近づけるかもしれない。

 先ほどの動きをイメージするように部屋全体を見回す。そうして霧山さんに視線を集中させると、足を一歩、踏み出した。










 どれほどの時間が経っただろうか。

「ガッ、ハッ、はぁ、はぁ、はぁ」

 もはや天国とすら思える部屋の隅。壁に背をもたれさせながら俺は何度目かも分からぬ休憩を取っていた。足を一歩でも踏み出せばまた雨あられのようにボールが襲い掛かってくる。どのくらいの時間が経ったが分からないが、この戦いが始まっていやというほど思い知らされていた。

 どうしても近づけない。もう少しで木刀が届く、分かっているのにあと少しで攻撃に耐え切れずに後退してしまう。剣道部で鍛えられてるはずなのに。やはり、俺がこんなことをするのは無謀だったのか。

 そう思うと、何だか急に体の力が抜けた。霧山さんから外れなかった目の焦点が外れ、ぼんやりと彼とその周りの空間を捉える。霧山さんの周りには俺を威嚇するようにボールがふわふわと浮いていた。

 荒い呼吸に定まらない焦点。身体は熱く、まるでまどろんでいるよう。ぼぉっとしながら、どうすればいいのか考える。

 牽制のボールは霧山さんに当たる前に空中で静止させられた。おそらく木刀を投げても、止められてしまう。木刀ではじくなんてもってのほか。手がしびれて攻撃するどころではない。攻撃をかわし続けてもある一線でかわしきれなくなる。

 一瞬でもいい。霧山さんに致命的な隙を作ることが出来れば、木刀の一撃を浴びせられる。一撃でも当てられれば、こちらのペースに持ち込めるんじゃないか。こんな戦闘の経験なんて皆無だが、そんな風に思った。

 どうすればいい。どうすれば致命的な隙を作れる? 牽制攻撃は無意味。大声を上げる? いや、大声程度では足りない。そもそも、嵐のような攻撃の中大声なんて上げられない。霧山さんにある程度近づいた上で、彼の攻撃の中でもできるような行為……

 そんな行為なんてあるのか? 思いつかない。たとえそんな物があったとしても、普通の人間には無理だ。……普通の人間? 再び、正面の霧山さんに集中する。彼は壁に寄りかかっている俺に攻撃を加えることはなく、ボールを周囲に浮かべながらこちらを見据えていた。

 彼の周りにあるボールを浮かべているのは何だ? 彼の〔力〕だ。俺は何でここにいる?

 そこまで考えて、頭の中で何かが繋がった気がした。そうだ。俺の〔力〕は木刀に光を纏わせるもの。限界まで近づいて、一気に木刀に光を纏わせる。そうすれば目がくらんで隙が出来るかもしれない。

 問題は、俺は〔力〕の発動方法が分からないことだ。どうすれば。どうすれば発動できる?

 木刀を杖のようにして立ち上がる。呼吸はさっきよりましだが、まだ落ち着かない。俺が立ち上がったのを見て、霧山さんは少し表情を険しくした。


 目を閉じて精神を集中する。火照った身体のせいか、落ちていくように精神が収束する。そのまま落ちていってしまわないよう、気を保ちながら自分の〔力〕。木刀に光を纏わせるようなイメージを作り上げる。

 ……何も変わらない。もう一度。もう一度。

 繰り返しても何も変わらない。この方法は何度も試してだめと分かってはいたが、俺の知識のほかの方法がない以上、これしかやることがなかった。

 もう一度、もう一度。繰り返すたびに呼吸が荒くなっていく。焦燥感が身体を蝕んで気持ち悪くなってくる。意識が落ちていってしまいそう。気持ち悪い。もう一度。気持ち悪い。もう一度。ああ、落ちていってしまいそう。

 ………………落ちちゃだめだ! 思わず意識を失いそうになるくらい意識が落ち込みそうになる。ああ、気持ち悪い。




 そのまま、落ちていってしまえばいい。




 誰かの声がする。落ちていけだって? 冗談じゃない。そんなことは、そんなことはいけない。理由は分からないが、落ちてしまってはだめな気がする。




 落ちていってしまえ、落ちるんだ。




 うるさい。誰だお前は。人の気も知らないで。勝手に命令するんじゃない。ああ、気持ち悪い。




 さあ、落ちるんだ。落ちるんだ!



 いい加減にしてくれ! やめてくれ! 勝手にしゃべるな! 

「ええと、田島君?」

「うるさい!」

 視線がぐっと前方に集中する。

 右足で地面を蹴って飛び上がるように前進。左から球三つ。飛び込んで前転する。

 右と正面数5つ。前転から立ち上がって左前にステップ。

 左右から4つずつ。両足に力を込めて加速する。

 頭と上半身を狙って3方向から5つ。足からスライディングして立ち上がる。

 いつの間にか正面にきていた人と目が合った。距離6歩半。左手の木刀に右手もかける。

 籠の中から球が浮き上がる。一瞬で球に取り囲まれる。数は数え切れない。


 君は、何を望んだんだい。


「黙れぇぇぇ!」

 一気に視界が歪む。頭がいろんな物でいっぱいになって、それで気持ち悪くなって……

 俺は足を踏み出して、踏み出したまま足がつくことなく落ちていった。

 

 

戦闘シーンは難しいですね。臨場感とか、テンポとか上手くいかないです。

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