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5月7日その2 退魔課の中で

 階段を下りきるとそこには目をひく大きな扉があった。壁の色と同じ、少し黄ばんだ白い色をした両開きの扉には銀色の取っ手がつけられている。なんとなくその向こうに大きな空間が広がっている事を感じさせた。

 吉田さんはその扉には目もくれずに右手にあった小さなドアのドアノブを回す。そのドアには小さな札がかかっていた。その札に何と書かれているのか確認する間もなく、ドアが吉田さんによって開かれる。

 扉を開くと、そこは控え室のようになっていた。ドアに似合わず広い長方形の部屋の右手には、男子と女子のそれぞれの更衣室の扉が存在し、左手には大きなテレビが何台か置かれている。各々のテレビには柔道場のような空間が写されていた。そのいくつかでは組み手がおこなわれているのが見える。テレビの下には放送室でみかけるような機材があり、壁には市営ののフラワーパークの宣伝ポスターが貼られていた。部屋の隅には自動販売機があって、部屋の中央には大きなベンチがいくつか配置されている。

 そのベンチには資料らしき物を読んでいる男性とそれを見ていた女性が座っていた。そのうちの女性が俺たちが入ってくるのを見てこちらに顔をむける。あれ? あの人もしかして道を封鎖していた人か? よく顔を覚えていないので自信はないが、そんな気がした。

「光山さん、相川さん、こんにちは。こちらが田島勇人君です。お願いします」

「はい。田島君。光山沙織です。よろしくね」

 吉田さんと女性、改め光山さんは俺を男性が座っているベンチの正面のベンチに座るように促す。すると、隣の男性も腰を上げて俺に挨拶してくる。

「こんにちは。相川順平です。今日はよろしく」

 手を伸ばしてきた相川さんと握手すると、いよいよ本題に入った。ついに能力の登録である。どんなことをするのか分からないが、大人3人に囲まれて結構緊張してしまうじゃないか。

「それでは、一応の報告は吉田さんから受けてますが……。確認します」

 相川さんはそういうと、俺の住所氏名から始まって、俺の能力や覚醒したときの状況など、初めて吉田さんと話したときに答えた内容を俺に確認してきた。自分で自分の能力は分かりません、というのは気が引けたけど、それ以外は特に問題も無く話は進む。一通り終わったところで、相川さんがまとめるようにこう話した。

「君は自分の能力の自覚が出来ておらず、発動も出来ない。しかし、第三者からの確認によって、君に〔力〕があることは分かっている。了解です。それでは」

 そうすると、相川さんは右手を軽く振った。瞬間、俺の中で何かが動き始めた気がする。それが動ききる前に、室内なのにそよ風が巻き起こった。もしかして今のは…… 内と外、両方の異変に驚いた俺は相川さんを見つめる。相川さんは肯定するかのように深く頷いた。

「今のが私の〔力〕です。君には今から自分の〔力〕をコントロールするコツを憶えてもらいます」

「コツ?」

 オウム返しに聞き返した俺に対して再び頷くと、相川さんの説明は始まった。

 彼が言うには、自分の〔力〕をコントロールするというのは、自分の意志で発動できて、自分の意志で強さを調節できる、ということだそうだ。といっても難しいことではなく、自転車に乗るのと変わらない物らしい。感覚さえつかんでしまえば、後はその技術を磨くだけ、ということである。

「それではこれを持って。まず、意識を集中して……」

 いつの間に取り出したのか、相川さんから木刀を受け取る。え? なんで? 困ったので吉田さんに視線を向けると、吉田さんはゆっくりと微笑んだだけだった。……しょうがないか。

 そのまま木刀を握り、目を閉じ、意識を集中させて、精神を統一する。冬場、部活で精神鍛錬と言う名目で精神統一はやったことがあるので、特に苦も無く集中することが出来た。

 意識が渦巻きながら沈んでいくような、そんな感覚。周囲の雑音は意識まで届かず、定期的に聞こえる心音が、さらに俺の意識を沈めていった。そんな中、遠くから相川さんの声が聞こえる。

「そのまま、自分の〔力〕を強くイメージして」

 自分の〔力〕。どんなものなんだ? どんなもの…… そうだ。木刀に光を纏わせていた、って言われたっけ。

 右手に握っていた木刀を両手で握ると、再び深く集中する。そうして、木刀が光に包まれる様子を強くイメージしてみた。

 ……何も変わった気がしない。目を開けても、何の変化もない。目線を上げると、何かを期待するような目で見つめてくる吉田さんが居た。そんな目で見られてもなぁ。なんというかまったく、取っ掛かりすらつかめた気がしない。

「あの、だめです」

 俺の様子を冷静に注視していた相川さんにそう告げる。これ以上やっても何か変わる気はしなかった。相川さんは何故か訝しげな視線を光山さんに送る。光山さんが深く頭を下げると、相川さんは一度ため息をついて、こう言った。

「もう少し頑張ってみましょう」

 


 そうして俺はそれから1、2時間だろうか。俺は相川さんとマンツーマンで〔力〕のコントロールのための訓練を受けた。といっても、ひたすら精神統一をしていたんだけど。でも、俺は〔力〕を発動させることは出来ない。いい加減疲れてきてしまったぞ。

「この方法では無理みたいですね」

 そんな俺の様子を見て、相川さんがあきらめたように俺に告げる。この方法。ということは〔力〕をコントロールするための訓練は、他にもあるということなのだろうか。

「その前に、田島君。一つ確認をします」

「え? はい」

「君にはこれから催眠術を受けてもらいます。そうして、君が〔力〕を覚醒させた状況を再現することによって、君に〔力〕をコントロールするためのきっかけを掴んでもらいます」

 そうすると、相川さんは書類を取り出す。相川さんはその書類を俺に見せながら、催眠術は基本的に安全だけど、ごく稀にトラウマなどにより錯乱状態に陥る人がいること。また、俺は施術の目的の関係上、その可能性が高いことを説明した。

 そうして最後に、催眠術をかけられてもいいのなら、書類にサインするように求めてきた。

 ……これは親の同意もいるのだろうか。そのことを問うと、もう既に同意はもらっているという答えが返ってきた。いつの間にもらってきたのか。準備がよすぎるじゃないか。どちらにせよ、もう後は俺の意志しだいというわけか。

 しかし、そうはいっても俺は〔力〕の専門家じゃないし、向こうが提示してきた条件をひたすら呑むしかない。俺は催眠術という言葉に少しの不安と、いくらかの好奇心を感じながら、自分の名前を書類に書き込んだのであった。

「それでは光山さん」

「はい。じゃあ田島君、こっちに」

 俺がサインするのを見た相川さんから声をかけられた光山さんは、俺を先導して男子更衣室に入っていく。何のためらいも無く男子更衣室に入っていく光山さん。そして、ついていこうともしない吉田さんと相川さん。なんか、逆に入るのが恥ずかしいな。それでもそんな感情を表に出す暇も無く、俺は光山さんと密室で二人っきりになったのであった。

 密室で女性と二人っきりで催眠術。なんかエロイ感じがするが、気にしちゃだめなんだ。うん。これは訓練なんだぞ!


 

 催眠術。俺はこの約1時間人生初の催眠術を体験した。更衣室に入ると、光山さんから改めて施術に関しての説明を受けた。

 彼女によると、〔力〕というのは人の心理状態によりその強さが変化する傾向があるそうだ。そこで、俺に場合は能力が目覚めた状況を催眠術で再現することにより、俺自身が〔力〕をコントロールできるようにしよう。と、いうことらしい。

 タオルが敷かれた更衣室のベンチに寝そべりながら、俺の〔力〕の媒体と考えられているらしい木刀を握らされた。どうやら、相川さんと訓練したときに木刀を持たされたのもそういうことらしい。

 ともかく、そうして光山さんの施術は始まった。

 



 なんというか、起きても憶えている夢を見ているような感じ。五感の感覚が薄れる中、再びあの人型のUMAと相対する。

 映画を見ているように場面が流れる中、俺は相川さんに教えられた〔力〕をコントロールするためのコツ。自分の〔力〕を強くイメージすること。を実践していたわけだけど、何かつかんだような感覚を得ることは出来なかったのである。

 そうして1時間ほど経っただろうか、俺はぼんやりとした頭を振りながら、光山さんと更衣室を出た。外に出ると吉田さんが笑顔でねぎらってくれ、相川さんは光山さんに結果の報告を求めた。

「それで、結果は」

「残念ながら、失敗でした」

「そうですか。困りましたね……」

 結局、光山さんの判断で催眠術から解放された俺は〔力〕を自分の意志で発現することは出来ず、大人三人押し黙るという気まずい状況に置かれたのであった。

「えっと……」

「あ、大丈夫だよ勇人君。確かに君は〔力〕をコントロールするのは苦手みたいだけど、君に〔力〕があるのは本当だから!」

 どうにも気まずくなった俺が声を出してしまうと、あわてて吉田さんがフォローを入れてくる。コントロールも何も、自分に〔力〕があるかどうかの確証すらないわけなんだけど。そんなことを言い出せるはずも無く、対策を話し合いだした大人たちを見つめる俺がいた。

「……あの方法をお願いできますか?」

 光山さんが相川さんに頭を下げて何かお願いをする。相川さんは何故かとがめるような視線を彼女に送る。それでも光山さんが頭を下げ続ける。

 相川さんは手元の書類を見つめながら押し黙る。しばらくして、相川さんは深くため息をつくと、俺に話しかけてきた。

「田島勇人君。今から君の〔力〕を引き出すために、君にはある危険なことに挑戦してもらいたい。そのための同意をお願いできますか?」

「危険なこと?」

 危険なことって、どんなことなのだろう。電気ショックでも流すのだろうか。雰囲気からして明らかに普通じゃないことをするってことは察せるけれども。

 相川さんはもともと真剣だった表情をさらに緊張させて、こう言ったのであった。




「君にはこれから対UMA特別対策課の職員と戦ってもらいます」




少し説明が多かったかもしれません。

ついに次は戦闘シーンです。苦手ですが頑張って書いて見ます……

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