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5月4日その2 変わるもの、変わったもの

本当に長らく更新しなくてごめんなさい。

 学校の校舎は休日でも自習等の用途のために生徒に開放している。もっとも、俺はそんな優等生なことは今までしたことが無かったわけだけど。委員長は先生に話でも通して校舎を利用できるよう許可を取ったのだろう。彼女が選挙に出るわけではないのに、本当に頭が下がる。

 ペースマートで昼食の弁当を購入した後、俺は学校に帰ってきた。しかし、皆が勉強しているであろう校舎の中で昼食を食べるのも憚られたので、日陰で野球部の練習を眺めながら昼食を取ることにした。

 甲高く響く金属音と、野太い男の呼び込む声を聞いていると、なんだか眠くなってくる。

 ……あそこで必死に練習している奴らは、自分自身の事をどう考えているのだろうか。甲子園と言う舞台に上がれるのは全国で何万人といる高校球児のたった一握りの「特別」な奴らだけだ。あそこで練習しているの奴らは、自分たちが「特別」だと信じて練習しているのかな。だとしたら、奴らはなぜ自分たちが「特別」だと信じられるんだろう……

 気がつくと、うとうとしてしまっていた。何か、夢を見ていたのかもしれない。頭が寝起き独特の重さになっている。携帯を開くと、時刻はもう1時を指していた。もう委員長達が学校に来ているかもな。俺は重い頭を振り払って、校舎の方へと歩き出したのであった。


「お〜い、二人とも」

 校舎の正面玄関の前まで行くと、そこで二人の女生徒が話し込んでいた。その二人がクリスさんと委員長だと気がついた俺は片手を振りつつ声をかける。委員長は笑顔でこちらに手を振りかえしてくる。クリスさんは相変わらず無表情であったが、意外にも手を振りかえしてくれた。

 クリスさんも最近はこう、柔らかくなった感じがするな。相変わらず表情の変化は無いけれど。俺のギャグが効いた……わけないよな。最近は委員長とすごく仲がいいみたいだし、その影響が大きいのかも。

 委員長とクリスさんは職員室へと向かっていく。ああ、先生に話を通しに行くんだな。帝王が居るから俺としては避けたいところなんだが……。そんな気持ちを察したのか、委員長は俺に先に2階の講義室に向かうように伝えてくる。さすが委員長だ。俺の心を読んでいるかのような気配りの仕方である。俺はありがたく先に講義室へ向かわさせてもらうことにした。

 なんか尚に知られたらヘタレとか言われそうだが、気にしてはいけないんだ。うん。


「え〜と、ここはもっと大きい方がいいんじゃないかな?」

「そうですね……こういうのはどうでしょうか」

 あ〜。なんというか只今俺はものすごい疎外感を感じています。2階講義室ではクリスさんのビラ作りの原案の真っ最中である。美術的センス0の俺はビラに書く内容に意見を出すことは出来ても、こうしてビラの構成になってしまうと役立たずなのであります。

 何もしないというのも気まずいので、意味も無く机に広がっているプリントやノートを片付けてみる。

「あ、ごめん田島君。それ使うんだ」

「ごめん……」

 邪魔してしまってさらに気まずくなってしまった。田島君は休んでいていいよ、とかゆっくりしていてください、なんて気を使ってくる彼女たちの言葉が、逆に心に突き刺る……

 ああ、俺に美術的センスが少しでもあれば! せめて、せめてまともな絵が描ければ! ノートに描かれた俺考案の棒人間だけのビラの原案を見て、深くため息を吐いたのであった。

「よし、できた!」 

 それから一時間ほどして、教室の一角から委員長の声があがる。どうやらビラの原案が完成したみたいだ。俺は二人がビラを作っている間ずっとグラウンドを眺めていた視線を教室内へと戻す。ビラが完成して喜んでいる二人、といってもクリスさんは無表情だけれども。でも、そんな様子を眺めていると、なんだか寂しくなってくる。

「じゃあ、印刷してこようか」

 委員長がクリスさんにそう声をかけながら席を立つ。印刷。そうだ! ここで恐るべき速さで印刷を済ませて、俺の面目を取り戻してやる! ふっふっふ。これから印刷の鬼と呼ばれる予定の俺の実力を女子二人に見せつける時が来たようだな。

「じゃあ、ここは俺がやってくるよ!」

「わたしが……」

 クリスさんが声を上げようとするのを遮って、俺が委員長からビラを受けとる。俺は自分たちも行くと言い張る二人を休んでいろ、と教室に残して印刷室へと向かったのである。


 印刷室にたどり着くと、そこには既に先生が一人コピー機を使用していた。俺は先生に一声かけると、2台あるうちの先生が使っていない方のコピー機を使用することにした。

 買った当初は真っ白だったろうに、今はもう黄ばんでしまったコピー機に哀愁を感じながら操作をする。印刷する枚数は1000枚。委員長が言うには、学校が再開とすると同時に朝のホームルームで全てのクラスで配布してもらうそうだ。とりあえず、用紙は絶対足りなくなりそうだったので、印刷室の隅にある用紙の束を持ってきてから、印刷を開始する。

 崩壊直前の断末魔の叫び声のような音を上げながら、コピー機はコピーされたビラを排出し始める。大丈夫だろうか、なんか不安なんだが。しかし最初、ぎこちなくビラを排出していたコピー機は、しばらくすると小気味よくビラが出る音を響かすようになった。

 そうしているうちに先生は印刷室を出ていってしまった。コピー機に腕をつけながら、ビラが排出される様子を眺める。勢いよく印刷機から排出されたビラは、トレイに当たって軽い音をたてるとそのままトレイの底に落ちていく。

 一枚一枚排出される様子を眺めていると、ビラがトレイにたまるのはとても遅く感じる。だけど、少し目を離すといつの間にかたくさんのビラがたまってしまっている。

 やっぱり、俺って変わったのかな。 ふとビラから目線を外し、そんなことを考えてみる。俺自身は自分が変わったとは思わないけれど、このビラのように少しずつ紙が積み重なるように俺は変わっていたのかもしれない。そして、その変化がいっぱいになったから、俺には〔力〕が目覚めただろうか。

 なら、誰かに聞けば俺が変わったかどうか分かるのだろうか。でも、自分でもわからない自分のことを、他人が分かっているなんてことがあるのだろうか。

 俺はそのままぼんやりとしながら、狭い印刷室の狭い窓の外を眺めていた。途中でコピー機が赤ん坊がぐずるようなやかましい音をたてながら停止したので、俺もあやすように用紙を追加した。それ以外、何をするわけでもなくそのままぼぉっとしていると、俺の背後でドアの開く音がした。


「田島君、これ差し入れ」

「たじまくん、おつかれさまです」

 ドアを開けて入ってきたのは、委員長とクリスさんだった。委員長は俺に差し入れのジュースを渡すと、トレイに入っている用紙の枚数を確認する。そういえば、今何枚くらい印刷したのか。俺も気になったのでコピー機の操作画面を確認すると、そこにはあと600枚と言う文字が表示されていた。

 まだ半分終わってないのかよ……。俺は若干げんなりしながら、二人にもその事実を伝える。委員長はそれを聞くと、軽く相槌をうってもう一つのコピー機に手をかける。もしかして2台体制でやるのだろうか。それだと先生の邪魔になりそうだけど……

 ところが、委員長はそんな俺の予想を無視するかのように、クリスさんと世話話を始めるのであった。

 休憩かな。とりあえず委員長からもらったジュースを開けながら、二人の話に加わろうとする。二人は連休中の課題について話していた。さすが優等生だ。話している内容が違うぜ。クリスさんも、意外と言っては失礼かもしれないけど、結構ジェスチャーを交えて話をしている。まあ、表情はほとんど変化しないんだけど。

 そんなことを思った俺は、クリスさんにむかって話しかけていた。

「やっぱさ、クリスさん明るくなったよな」

「そうでしょうか?」

 俺の声がかかると同時に、委員長との話を中断しそう答えてくる。自分では気がついていないのか。俺から見ると結構変わったように思えるんだけど。

 委員長もそんな俺の意見に同調して、クリスさんが明るくなったことを強調してくる。だけど、クリスさんはただただ首を傾げるばかり。なんというか、その首を傾げる事自体が変わったといえる証拠の一つなんだけどなぁ。

 しばらく俺たちはクリスさんが変わった、という話題で盛り上がっていた。そうして印刷も終わりに近づいたころ、委員長がまとめるようにこうつぶやいた。

「やっぱさ、自分でなりたい自分に変わろうと努力しないとだめなんだよね……」

「そうですか……」

 クリスさんはやっぱりよく分かっていない感じで相槌をうっていた。もちろん、無表情だ。だけど、俺は委員長のその言葉に大きな衝撃を受けていた。なりたい自分に変わろうと努力する。言われてみれば、そんなの当たり前のことだ。だけど、今までの自分はどうだろう。俺はなりたい自分に、「特別」になろうと頑張ってきただろうか。自分は「平凡」だから、とどこかあきらめていなかっただろうか。

 そうだ。あきらめていたんだ。だから、自分が変わったと思えなかった。自分が変わろうと自分で踏み出していなかったから、自分がどこに居るか分からなかったんだ。

 もし、「特別」になろうと思うのなら、自分が「平凡」であるかどうかは重要じゃなくて。

自分が「特別」になろうとすることが重要なんだ。そう、俺は平凡でも〔力〕があるんだから。

「そうだよな委員長。自分で動かなくちゃいけないよな」

 委員長だってそうだった。彼女はクリスさんのことを避けていたじゃないか。それが今ではこんなに楽しそうに話が出来るくらい仲良くなっている。これは、きっと委員長がクリスさんと仲良くなろうとして努力した結果なんだ。

 だから、俺も……


 俺の言葉に満面の笑みで同意してくる委員長を見て、俺は密かに決意したのであった。

なんかもう吹っ切れました。スランプを脱したわけではありませんが、とりあえず書いていこうと思いました。

あと、1〜20部くらいまでまとめて修正中です。夏休み中にはまとめて更新しようと思います。

そういえばもう30部でした。なのに物語は進展してないですね……

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