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3月27日その2 何かに追われる

前二話をほんの少し変えました。ストーリーにはまったく影響ありませんが……。

 ビニール袋いっぱいに買い込んだ食料やパーティ用品を自転車の籠に積み込む。ペースマートの周りはまばらに家が建つのみで明かりが少ない。俺は、ペースマートに目を向けあまりのまぶしさにやはり目を細めると、重い荷物にふらつく自転車を抑えながら学校へと続く真っ直ぐなあぜ道へと向け始めた。

 俺が通う県立小山原高校は、田んぼの真ん中に建っている。周囲に建っているものといったら、無駄に広いとしか思えない農家の家くらいである。それ以外は二、三年前にできたらしいペースマートがあるだけで、街灯もなく真っ暗だった。一応ここは街の郊外にあたるので、中心に行けばそれなりに栄えているが……

 それでも県庁所在地としてこれはどうよ、と俺は改めて思うのであった。

「これは関東から外される日も近いかな」

と、取り留めのないことを考えつつ、自転車のライトを頼りに荒い舗装のあぜ道を行くと。


ウオオォォン……



 何処からか遠吠え、のような声が聞こえたような気がした。その声に思わずびっくりして自転車が大きくふらついてしまう。ここら辺の農家では大体の家で何かしらのペットを飼っている。たぶんその中の一匹が吠えたのだろう。あんなのでビビるなんて、情けないな俺。

自分の臆病さに少し苦笑しながら自転車をこいでいくと。



ウオォォォォォ



 また、遠吠えが聞こえた。

今度の声は妙に低く、存在感があった。また犬だろ。ちゃんと躾しろよな。なんて思いつつも何故か自転車をこぐスピードが上がる。

 無意識の内にハンドルを強くにぎりすぎていた。肩にも力が入りすぎているのにも気づき、こぎながら一度深呼吸をした。

 そうだ、そんなわけない。あの声は空耳だ、いやどこかの農家で大きい犬を飼っているのかもしれない。そこまで考えて、少し自転車のスピードを出しすぎていることに気づく。

 もう一度深呼吸して俺は自転車のスピードを緩めた。


グオォォォォォ



 また「遠吠え」が聞こえた。いや、あれは遠吠えじゃない。俺の腹の奥まで響くそれは遠吠えというよりむしろ……。いや、まさかそんなはずはない、こんなところにいるはず無いんだ。

 本能的な恐怖と、まさか、ありえないと訴える理性がぶつかって混乱しそうだった。

そんな中、もう一度「遠吠え」が聞こえる。



グオオォォォォォ



 「何か」が近づいてきている。

そこまでがおれの思考の限界だった。頭の中が真っ白になり、ペダルを強く踏みしめる。そんな中で、舗装の荒いあぜ道に車輪をとられ、転びそうになって我に返る。

 そうだ、落ち着くんだ、ここで転んだらそれこそ「終わり」だ。あと学校までまっすぐ、たったの十五分じゃないか。それまで、それまで冷静に我慢し続ければいい。そうすればみんなとパーティができるんだ。安心できるんだ、安全なんだ。それまで冷静に、落ち着いて……

 何が「終わり」なのか、何を我慢すればいいのか。俺は何も考えないようペダルをこぐことに集中し続けた。


グオオオォォォ



 今度の声はもっと近くで聞こえた。手が滑りそうになり、重い籠が俺の意志に反して自転車をひっくり返そうとする。荒い舗装のあぜ道がそれに拍車をかけていた。それを必死にハンドルを握ることで押さえつけ、俺は立ちこぎでスピードを上げる。

 体力は人並みにあると思っていたが、もう息が上がってしまっていた。気持ち悪くなんてないのに、のどから何か出そうになる。

 声はもう何度も聞こえていた。そのたびに声は大きくなり、存在感を増していく。

何かに追われている、混乱した思考の中、それだけは感じていた。背中に何かついているような気がして、何度も振り返りたくなる。だがそのたびに唇を噛みしめ、ペダルをこぐことに集中した。もういくら踏みしめてもペダルからは重さを感じなかった。

 なかなか見えない学校と、何度も転びそうになる自転車に苛立って、荷物を捨てようか、と考えたその時だった。

「うわぁ!」

 何が起きたのか分からない。もの凄い音がしたかと思うと、気がついた時には俺は田んぼに放りだされていた。

「痛ッ……!」

 頭は打ってなかったが背中が痛い。が、田起こししたばかりの田んぼに落ちたのが幸いしたのか、背中の痛みはすぐに和らいでいく。



グオオオオオオオ!!



 落ち着くとすぐに現実が襲いかかってきた。あぜ道に転がった自転車と荷物をうっちゃって、いつの間にか俺は全力で走り出していた。

 走ると背中が痛んだがどうでも良かった。真っ暗で学校がどっちか分からなくなったけれどどうでもよかった。とにかくここから逃げたかった。早く安心したかった。

 真っ暗で何度も田んぼに落ちそうになり、疲労からか足がもつれそうになる。それでも足は止めない。止められるわけがない。

 後ろからの咆哮に突き動かされるように走り続けた。後ろから声がするたびに、それはその存在感を増していく。声がするたびに背中は重くなり、のどから何か出そうになる。

「うわあぁぁぁ!」

 気がついたら叫んでいた。叫ばないと耐えられない。何かに飲み込まれそうで、自分が自分じゃなくなりそうで叫ばずにはいられない。

 心臓と肺は暴れ回っているのに体はひどく重い。それでも空気を受け付けない肺に無理矢理空気を詰め込む。

「うわぁ……はぁはぁ……んぐ……ゲホッゲホッ……くそぉぉぉ!」

 走るスピードはかなり遅くなっていた。疲労と緊張でもう限界だった。それでも逃げ続けた。足を動かし続けた。

 声の主は何だか分からない。けれど、命の危機が迫っていることはなぜか感じられた。

だけどまだ見えないそれに立ち向かおうとは思えなかった。逃げることしかできなかった。

 なぜなら〔力〕のない『平凡』な学生には、逃げることが唯一最大の武器だから。

だから俺は必死に逃げ続けたんだ。



 そして、汗と涙で体中ぐちょぐちょになり、声も枯れはて、精も根もつきかけた頃。

そいつはそんな俺をあざ笑うかのように俺の前に姿を現したんだ。


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