表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/36

幕間 誰かの日記帳その2

更新が遅れてすいません。

幕間です。

前回の幕間よりもさらに意味不明かもしれませんが、読んでいただけると嬉しいです。

 果たしてこれまで私は、彼にとってよい親であったのだろうか。





 その子は、私にとって初めての子だった。当時、まだ若かった私は、自分に子供ができたという事実に歓喜し、舞い上がっていた。末は博士か大臣か、なんて言葉があるけれども、私は子供が生まれる前から、この子は将来どんな偉人になるのだろうかなんて夢想したものだった。

 今思えば、とても馬鹿らしい話だと思う。だけど、当時の自分は本気で、自分の子供は才能に溢れている、なんて信じていた。いや、そう望んでいたのだろう。


 子供ができたとわかってからすぐ、その子の名前を決めることにした。まだ、男の子か女の子か分からなかったから、夫と共に男の子のときの名前と女の子のときの名前を考えた。その時も私は、自分の子供にふさわしい「特別」な名前を、と育児雑誌や命名辞典をあさるように読んでひねり出した名前をその子につけようとした。だけれども、その名前は両親や夫の反対にあって、結局男の子だったその子は、「勇人」というその時の自分からすればつまらない名前を命名されたのであった。

 本当にそのときはどうかしていたのだと思う。当時の私は、なぜ両親や夫がその名前を息子につけるのを反対したのか分からなかった。しかし、今思えば私はなんて名前を息子につけようとしたのか。恥ずかしすぎてもう思い出せないその名前は、今では自分の自己満足の塊だったとはっきりと認識できる。

 私は、息子に「特別」になって欲しかったのだ。


 息子が誕生した。体重は3456グラム、身長は52センチ。どこにも問題はないとても元気な赤ちゃんであった。

 勇人が誕生してからも、私は育児雑誌を読みあさった。読むページは姓名判断の特集から、いわゆる「天才キッズ」の特集に変わっていたが。「天才キッズの育て方」なんて特集は、ひそかにバインダーにまとめて、事あることに読みふけっていた。

 私は、勇人が何か出来るようになるたびに、それがほかの子と比べてどうなのかを確認した。はいはいが出来るのは平均より早かった。言葉をしゃべるのは平均より少し遅い。なんて比べても仕方がないことを比べて、そのたびに一喜一憂した。

 そして、勇人をベビーカーにのせて、近所のお母さんたちと自分の子供について話す。そのときは表面上では彼女たちの子供をたたえる一方で、心の中では勇人の方がもっとすごいんだから、なんて歪んだ優越感に浸っていた。

 勇人は「特別」なんだ。今はまだ小さいから皆には分からないけれど、きっとそのうち、何かすごい才能を発揮するに違いない。私はそう信じていた。それが息子を信じる心からきた思いではなく、自分の望みを押し付けただけの醜い自己満足の塊であった事に気がついていなかった私。なんて愚かだったのだろう。

 私は勇人が「特別」であって欲しかったのだ。


 勇人が幼稚園に入った。幼稚園では色々な習い事を行っていた。体操教室にピアノ教室、絵画教室や水泳教室等。今ではあまり思い出せないが、世間で言う習い事は一通りそろっていたと思う。

 でも私は勇人を習い事には入れなかった。本当に勇人に「特別」になって欲しくて、私もそう望んでいたのなら習い事に入れるべきだったのであろう。だが当時の私は、習い事に入れることで、勇人が「特別」ではなくなってしまうような、そんなよく分からない不安にかられていた。

 つまり、私は恐れていたのだ。勇人が周囲の人間によって「平凡」という絶対の刻印を押されてしまうのを。

 そして私は忘れていた。たとえ勇人が「平凡」であっても、私にとっては大切な、「特別」な息子であるということを。


 勇人が小学生になった。初めてのテストでは100点を取った。私はそれに喜んで、勇人を褒めちぎったものである。それから勇人は、テストのたびにその、丸しかない答案を嬉しそうに私に見せるようになった。

 運動会があった。徒競走では2番だった。持久走では17番だった。私は勇人のことをすごい足が速いね、なんて褒めちぎった。

 私は勇人のことを褒めるたびに優越感に浸っていた。自分の息子は「特別」なんだ。「平凡」な自分でも、こんな「特別」な子供が生めるんだ。私は勇人のためというより、自分自身のために彼のことを褒めていたのだろう。

 私は勇人は「特別」でなくてはいけないと願っていた。それが自分自身の醜い自己満足で、自分の子より下の子を見下すことでしか得られない「特別」であったとしても。


 勇人が小学生4年になってしばらくしてだろうか、彼は突然テストを見せなくなった。彼にテストを見せるように言っても、見せてくれなくなった。あるとき、私はランドセルからはみ出した彼のテストを見てしまった。……95点だった。

 私は勇人に95点のテストを見せて、すごいじゃないと褒めちぎった。でも、勇人はちっとも嬉しそうに感じていない様子で、友達は100点だと告げたのだ。

 




 私はショックだった。勇人がテストで95点とったことではなく、彼が友達と比較して自分が「平凡」であると認識し始めていることが衝撃だった。本来なら、それは成長しているといえるのだろう。自分の力量を正確に把握し始めたのだから。しかし、その時の私にとってはそれまでの自分を否定したかのような衝撃だったのである。

 私は激怒した。勇人にとって、私があんなに怒ったのは初めてだったと思う。私は自分が「平凡」と自覚し始めている勇人に、これまでの自分が、「平凡」な自分が映し出され始めているのを見て怒っていた。勇人は自分がなぜ怒られたのかよく分かっていなかったはずだ。彼から見たら、私は意味不明な言葉をわめきながら怒っていたのだから。

 それでも、勇人は謝ってきた。お母さんごめんなさい、なんて泣きべそをかきながら必死で謝ってきたのだ。彼は何で怒られたのか分かっていないだろうに。それでも自分のために、自分のためだけに勇人は必死で謝ってきてくれていた。

 それを見て私は悟った。いかにそれまでの自分が愚かだったか、と。そして申し訳なく思った。これまで歪んだ愛情で育ててしまってごめんなさい、と。最後に感謝した。こんなお母さんでも、お母さんのことを愛してくれてありがとう、と。



 それからの私は変わった。私は勇人に私の「特別」を押し付けるのではなく、勇人の好きなように、満足するように生きてくれればいいと願った。考えてみれば、それを願うのは親として当然だったのだが、未熟な私は勇人に気がつかされるまでそんなことも分からなかった。

 


 それから勇人はすぐに大きくなった。大きくなるにつれて、変な発言や、行動も増えたけれども私は彼の好きなようにさせた。大きくなるにつれて勇人は自分が「平凡」であると強く思い始めたみたいだけれども、私は何も言わなかった。

 なぜなら、「平凡」だって何か為すことが出来るから。「平凡」な私が生んだ子供が、ちょっと変だけれども、優しい子供に育ってくれたように。勇人には、自分でそれに気がついて欲しかった。




 それでも、「平凡」でもいいと思っていても、人は「特別」を求めてしまうのだろう。

 勇人が高校2年になった春。4月ももうすぐ終わりとなるその日。勇人がUMAに襲われて、〔力〕に目覚めたという電話を受けた私。私はその電話に、驚きの感情よりも、遠い昔に感じたあの「黒い」歓喜を感じてしまった。

 


 

 「平凡」だと強く自覚し、「特別」を自分の子供に求めた自分。

 「平凡」だと強く自覚し、自分は「特別」になれないとあきらめていた息子。



 私は、いや私たちは「平凡」と「特別」という呪縛から逃れられないのかもしれない。〔力〕という「特別」へのきっかけを手に入れた勇人。

 勇人、どうか許してください。「特別」になることがどんなにか苦しいことだと知っている私ですが、あなたがどんなに苦しくても、あなたに「特別」になって欲しいお母さんのことを。

かなり難しかったです。これ以上は今の状況では無理でした。ですので、修正を加えるかもしれません。

文化祭が今週末にあるので、準備が佳境に入ってきました。

ですので、更新が遅れるかもしれませんがご理解いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ