4月29日その8 深夜の出来事
更新が遅れてすいません。
ぼくのゆめはたいまかにはいって、せかいをすくうことです。
あさひようちえん ばらぐみ たじま ゆうと
「あ……れ?」
意識が覚醒すると、俺はどこか知らない場所にいた。どうにも頭が重くてぼぉっとする。俺はベッドに寝かせられていて、目線の先には、しみが多い天井があった。鼻をつくような消毒液のにおいがする。ゆっくりと身体を起こして、周囲の様子を確認しようとした。だが、ベッドの周りは少し黄ばんだ白いカーテンで覆われていて、周りの様子が分からない。
そのまましばらく呆けていた俺だったが、だんだん頭が回ってくる。どうやら、ここは病院のようだ。よく、分からないがUMAからは助かったみたいだ。現状は把握できたが、誰もいないので不安になっていると、足音とともに、声が近づいてきた。
「……と言うことですので」
「分かりました。色々とすいません」
「息子がご迷惑をかけました」
いえいえ、なんて声が聞こえると同時に、耳障りな音をたてて、カーテンが開いた。病室の大部屋。カーテンの向こうには、俺の両親と、恰幅のいいおじさんが立っていた。
「ああ、目が覚めたのか」
俺が目をさましていると確認すると同時に、父さんが声をかけてくる。母さんも、大丈夫だったかとか、色々声をかけてきた。後ろの恰幅のいいおじさんが、医者を呼びに行きますね、なんて言って、いなくなってから、俺は両親に現状の確認をとるのであった。
「俺、どうなったんだ?」
「ああ、あんた〔力〕に目覚めたんだと」
「は?」
母さんが言うには、近くで警戒活動をしていた退魔課の人がUMAに襲われている俺を発見したそうだ。それで助けようとしたら、俺が突然木刀に光を纏わせてUMAを消滅させたらしい。俺はそのまま気絶してしまったので、救急車で病院に搬送された、ということだそうだ。
「それであのおじさんは退魔課の人だって。あんたに話があるみたいよ」
俺自身にはまったく自覚がないのだが、どうやら俺は〔力〕を手に入れたらしい。UMAに襲われていた時の記憶は、最初を除けばほとんど曖昧なのだが。〔力〕を手に入れると、世界が一変する、とかテレビでやっていたので拍子抜けである。まあでも、実際に体験するとこんなもんかもしれない。
どうにも雲をつかむような感覚の中、両親としばらく俺の〔力〕について話していると、退魔課のおじさんが、医者を連れてやってきた。医者はいくつか俺に質問をすると、おじさんに会釈してすぐ帰ってしまった。
「それじゃあ、田島勇人君、だよね。僕は退魔課の吉田です」
おじさんに名刺を渡され、彼が柔らかい表情で話を始めると、両親も彼に会釈して大部屋の外に出て行ってしまった。それをなんとなく目で追ってしまう俺だったが、おじさんが話を続けるので俺も彼と目を合わせた。
「君は〔力〕に目覚めた、というわけだけど……それ以前から〔力〕に目覚めていたわけじゃないよね」
もちろんそんなことは無い。俺は今までに一度だって〔力〕を発現させたことはなかった。これからもそうだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。俺がおじさんの問いを否定するのを見て、彼は笑みを浮かべたまま話を続ける。
「それじゃあ、君は自分の〔力〕がどんなものか分かるかい?」
残念ながら分からない。実際のところ、俺が〔力〕を手に入れたことすら俺にとっては曖昧なところなのである。それなのに、お前の〔力〕はなんだ、なんて言われても困ってしまう。彼は俺の答えを聞くと、2、3度頷いてまた口を開く。
「だったら君の〔力〕の確認をしなくてはいけないね……」
「確認、ですか」
「うん、え〜とこの書類の上の方、緑の枠で囲まれたところに記入してくれるかな?」
おじさんはベッド備え付けの机にボールペンと紙を置く。渡された書類には、異能力者登録申請書、と一番上に書いてあった。少し目線を下にやると、登録者情報と緑の枠で囲まれたところがあった。ここに書けばいいんだな。俺はボールペンを手に取ると、書類に指定されたとおりに住所、氏名、職業などを書いていった。
「うん、ちょっと貸してくれるかな……これでよしっと。ええと、後日君の家に〔力〕の登録に関する手紙がいくと思うから」
おじさんは俺から書類を渡されると、ボールペンで何やら書類に書き込んでいく。それが終わると彼はにっこりと笑いながらそういったのであった。何か、軽い感じだがこれでいいのだろうか。俺が曖昧なまま頷くと、おじさんはそれじゃ、なんていって病室の外に出て行こうとする。
でも彼は思い出したように戻ってくると、笑顔のまま、
「まだ正式に登録してないから、君が〔力〕を使うと犯罪になっちゃうよ、気をつけてね」
なんて恐ろしいことを口にしたのだった。……俺まだ自分の〔力〕の発動方法すら知らないんですけど。暴発とかしたらどうなるんですか〜。そんな俺の心の叫びを知ってか知らずか、おじさんは笑顔のまま病室を出て行ってしまった。本当にこれでいいのかなぁ。
「疲れたなぁ……」
深夜遅く、自室のベッドでうつぶせになって思わずそんなことをつぶやいた。あれからすぐ、特に身体に異常はなかった俺は父さんの車で自宅に帰った。自転車は退魔課の人が運んでおいてくれたらしい。あとでお礼言いなさいよ、と母さんがとてもうるさかった。ともかく、慌しく自宅に帰った俺は、慌しく夕食をとり、風呂に入り、学校の準備をしてやっと、横になれたのであった。
「〔力〕、か……」
仰向けになって天井に手を伸ばす。就寝灯しかついていない部屋は薄暗い。黒く塗りつぶされた自分の手は、何か変わったようには思えなかった。俺は〔力〕を手に入れたんだよな。なぜかどうしようもなく不安になってしまう。実はこれまでの出来事が全て夢だった、とかドッキリだった、とかしょうも無いことが頭に浮かぶ。
「〔力〕よ、目覚めろ……なんて」
馬鹿だと思っていてもやっぱりつぶやいてしまう。言葉にしても、頭で念じても、何も、本当に何の変化も起きなかった。そのまま手を伸ばし続ける。そうしていると、それまで出会った「非日常」な出来事が頭をよぎった。
春休み、鬼の姿をしたUMAに襲われたこと。あの時は本当に死ぬかと思った。でもクリスさんに助けられたんだよな。あの、「天使」の姿は本当に綺麗だった。その後倒れたままだった俺に、ちからはないのですか、なんて聞かれてびっくりしたけど。
――でも、俺は〔力〕を手に入れた。もう、倒れているだけじゃない。
今日、退魔課の人たちの活動を目撃したこと。あの二人は本当にすごかった。身の丈を超える化け物を相手に一歩も引かずに戦っていたんだから。それに周囲を光で包むあの〔力〕。あんな〔力〕を持っているなんてどんな人間なのだろうか。あの時は本当に圧倒されて、見ていることしか出来なかったな。
――でも、俺は〔力〕を手に入れた。もう、見ているだけじゃない。
今日、UMAに襲われたこと。その時、俺に〔力〕が目覚めた、らしい。実際あの時は気が動転して途中から何がなんだか分からなくなっちまったけど。しっかりと覚えているのは、自転車で叫びながら公園に逃げたところくらいまでかな。その後は……まあ、いいか。
――なぜなら、俺には〔力〕があるから。もう、逃げているだけじゃない。
さっきまでは自分の〔力〕なんて信じられなかったのに。どうしてだろう、こうして「非日常」な出来事を思い浮かべていると、自分に〔力〕があると強く信じることができた。天井に伸ばしたままの手を強く握り締める。握り締めたこぶしは、とても力強いものに感じられた。
手を下ろして横になる。上に伸ばし続けた手は、血が通わなくなって冷たかった。しばらく、目をとじたまま横になる。そうしていると、高校での自分の姿が頭をよぎっていく。
成績は真ん中ぐらい。運動も飛びぬけて出来るわけではない。部活は人並みに以上に頑張っていると思うが、それは帝王の存在が大きいからだろう。クラスでは変人で通っているらしいが、それだって別に何がすごいというわけでもない。クリスさんの後見人だって、彼女に頼まれなければやろうだなんて思わなかった。
――つまりは、つまりは結局のところ、〔力〕があっても俺は……
どうしてか、それ以上考えるのがどうしようもなく怖くなった。俺は布団を頭までかぶると、そのまま丸くなって眠りについたのであった。
やっと、テストが終わりました。これからは、修正を加えつつこれまで通りに更新できそうです。
あとあらすじ修正しました。