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4月29日その2 午前中の出来事

「クリスさん、冗談だよな?」

あ〜、クリスさんって意外とお茶目なんだなぁ。いくら外国からの転校生だからって、まさか何にも知らずに生徒会長に立候補したなんて事はないよな。

きっと彼女なりの冗談に違いない。

俺はそう結論づけて、彼女に「一応」確認をとったのだが……

「……いえ、じょうだんではありません」

俺の言葉の意味を噛み砕いていたのだろうか。彼女は、顔の筋肉を少しも動かさず何秒か黙ると、見事に俺の予想をぶち砕いてくれたのであった。

オーマイゴットああかみよ! あなたが使わした天使くりすさんは何ということをしでかしたのであろうか。

生徒会会長の意味も知らず立候補する。ある意味伝説だが、それにかかわってしまっている俺にとっては堕天使がもたらした災厄に過ぎない。

ほそちゃんに頼んで立候補を取り消してもらおう。うん、それがいい。幸運なことに選挙の公示は来週の月曜なんだ。今のうちならまだ何も問題にならないだろう。

よし、そのためにはこの堕天使を説得しなきゃな。俺は自分でも分かる引きつった表情で、目の前の堕天使に自らの行いを取りやめるよう、交渉たたかいを挑むのであった。




「終わった……」

俺の高校生活は終わった。もう学校に来ることもないだろう。

「平凡」な俺が堕天使に挑むなんて無謀だった。

信じていた者にも裏切られた。

心に深い傷を負った俺は、昼休みの喧騒を尻目に学校を後にするのであった。

さようなら、みんな。

うららかな春の陽気が、逆に心に沁みた……

「で、何が終わったんだ?」

昼休みが始まり、現実逃避をしていた俺に、尚が話しかけてくる。

机に突っ伏し、高校を辞めた後の生活を夢想していた俺は、現実に帰ってくると、

「後見人、替わってくれ!」

尚に懇願したのであった。

結局俺は、クリスさんの後見人として生徒会選挙に出ることになっちまった。

クリスさんは、俺の必死の説得にもかかわらず、私は選挙に出なくてはいけないのです。の一点張り。

最後の希望であったほそちゃん。彼に朝のホームルームが終わった瞬間、事情を話そうと思っていたんだけど……

だけどそれが甘かった。奴はホームルームが始まるなり、笑顔で、

「クリスさんが田島君を後見人に生徒会長に立候補しました。みなさん、応援していきましょうね」

なんてオフレコ情報を暴露しやがったのである。クラスは大騒ぎであった。

あの完璧会長に挑む人間が現れた、それはもちろん大ニュースである。

俺も部外者だったらどんなにか楽しめたことだろうに……

クラスがお祭り騒ぎになっているのを笑顔で収めていたほそちゃん。でも俺にはその笑顔は悪魔の薄ら笑いにしか見えなかった。

俺は一応ホームルームの後、ほそちゃんに事情を話した。だけれども彼は柔らかく微笑んで、

「彼女の意志を尊重しましょう」

なんて言って、クラスメイトに質問攻めにあい始めた俺を尻目に悠々と職員室へ行っちまいやがったのである。

「やだ、そんな面倒くさいこと出来るか。まあ、選挙期待してるからな」

時は進み、昼休み。尚は、そんな俺の懇願を一刀両断したどころか、さらに俺を追い込んでいくのであった。

俺はどうしたらいいんだ。俺は、周囲の皆によってどんどんのっぴきならない状況へと追い込まれていると感じていた。

「やるしかないか……」

尚、健二といういつものメンバーと昼飯を食った俺は、一人決意を固める。

いや、本当はやりたくない。だけどここまで来てしまったらもう後には引けないじゃないか。

それに、今までこういうイベントにはかかわってこなかったんだ。失敗しても一発やらかす、というのも面白いかもしれないな。

半分やけになって決意を固めた俺は、隣で静かに読書していたクリスさんに声をかけた。

「クリスさん、作戦会議だ!」



「早速だがクリスさん、何で立候補しようと思った?」

作戦会議を行う事を決めた俺は、クリスさんを強引に講義室あききょうしつに連れ込んでいた。

……なんかそこはかとなくエロい響きだが、気にしない。俺はもう決めたんだ。どんな恥をかこうともクリスさんを当選させてやると!

と、一人盛り上がっていた俺を尻目に彼女は静かに俺の問いに答える。

「せんきょにでろ、といわれたので」

「誰に!」

反射的に大きな声で叫んでしまう。まさか誰かに言われたから選挙に出ようと思ったとは……

昨日、勝手にクリスさんの思いとやらに感激した奴はだれだろう?

……俺じゃん。

彼女は、俺の大きな声にも驚いた様子はなく、

「すぎやまようすけさんです」

静かに俺をこんな状況に追い込んだ悪魔の名前を告げたのであった。

杉山陽介。うちの高校の現生徒会長。別名完璧会長パーフェクトマン

別名が示す通り、テストではいつも学年トップクラス、所属するサッカー部ではエースストライカーで県の選抜選手。容姿端麗で、素行も優秀。性格も良し。と、まったく非の付け所の無い人間なのである。

まさかあの会長がクリスさんに立候補を薦めたとは……

くそ、完璧会長め、面識はないが今度会ったら覚えてろよ。

「そもそもだ。なんで会長に立候補を薦められたんだ?」

少し冷静になると、疑問がわいてきた。会長とクリスさんに面識なんてあったのか。同じクラスで過ごしている俺が見た限り、そんなそぶりは無かったはずだが……

それにたとえ面識があったとしても、どうして外国から来たばかりの彼女に生徒会長の立候補など薦めたのだろう。

基本良い人間で通っている会長がそんなことをするなんて……

クリスさんは彫刻のようにしばらく黙ると、ゆっくりと口を開く。

「それは……」

「それは?」

身を乗り出して彼女の答えを待つ。

鉄仮面の女王が立候補を決意した理由が今、明らかになる!

なんてことを考えていたことは、彼女には秘密だ。

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