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4月29日その1 朝の出来事

どんなに俺の周囲が、俺の立場が変わっても、俺は「平凡」その事実は変わらない。




何か、いやな夢をみた気がした。

目覚まし時計のベルの音が聞こえる。でも体も頭も重くて動きたくない。

とにかく眠くて、機械的なベルの音が耳から入ってただ抜けていってしまう。

それでも主人の意志を無視して鳴り続ける目覚ましが俺の意識を無理矢理引っ張り上げていく。

意識がはっきりしてくるとともに、先ほどから鳴り続けているベルが、とてもうざったい物に感じてくる。止めなければ。

そう思ってベルに急かされるように身体を起こそうとした瞬間、

「っ! いってぇ〜」

全身に激痛が走ったのであった。うわぁ、やっぱりか……

朝からげんなりとしてしまう。これじゃあ部活なんてできねぇよ。

そんなことを考えている内にも、ベルは無情に朝を告げ続ける。

今度はゆっくりと、身体が痛くないよう慎重におきあがると、俺はやっとベルを止めたのであった。

昨日、俺はクリスさんと別れてすぐに部活に向かった。

剣道場に着いた時には既に部活は始まっていた。あらかじめ西山に伝えておいたこともあり、部員達には特に何も言われなかった。

さらに、帝王はまだ剣道場にいなかったので、怒られずに済むかと思ったのだけれど……

俺から少し遅れて現れた帝王は、俺を見つけると開口一番、

「外周走ってこい」

なんて言いやがったんだ。奴の「外周走ってこい」とはつまり、部活終わるまで走ってろ。ということであり、俺は部員たちの同情の視線を受けながら剣道場の外に出ると、結局部活が終わるまで約2時間、走り続けたのであった。

おかげで今筋肉痛で死にそうである。一応昨日の夜湿布を貼ったのだが、効果はなかったようだ。

帝王、交通事故とかに逢わないかな、なんて勝手な事を考えながらゆっくり、ゆっくり制服に着替える。

少しづつ身体を動かしている内に、少しは痛みがましになる。

どうにかして部活をサボれないか考えながら、俺は寝起きよりかは速いスピードで階下の食卓兼リビングへ向かったのだった。

「おはよ〜」

下に行くともう親は二人とも朝食を食べていた。俺は二人に挨拶をすると、ゆっくりと朝食の準備を始める。

「なあ、何か身体の動きが変だぞ、どうした?」

食パンをほおばりながら新聞を読んでいた父さんが話しかけてくる。

親には昨日帝王にしごかれたことは言っていない。と、いうか気まずくて言えるわけなかった。

「ああ、部活激しくて……」

なんとなくはぐらかしながら答えてしまう。だけど父さんは、たいして気にしてなかったのか、そうかなんて相槌をうつと、また新聞に顔を埋めてしまった。

「あんた、軟弱なんじゃないの?」

冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。テーブルにあった食パンにジャムとマーガリンを塗り始めたところで、テレビのニュースを見ていた母さんがからかうように話しかけてきた。

「母さんもあれやればこうなるって!」

軟弱なんていわれてちょっとむっとしてしまう。ろくに運動してない専業主婦が2時間ぶっ続けで走ったら次の日動けないだろう。

それに比べたら俺の方がましに違いない。

なんて、喧嘩腰になってしまったが、母さんははいはいなんて両手を振って

「このニュースみたいに学校に耐えられなくなって家出なんてしないでよ」

なんてまたからかってきたのであった。

「そりゃ都会の出来事だろ……」

さすがに毒気を抜かれて食パンをほおばる。テレビでは、若者の家出、失踪が社会問題になってきていると報じられていた。それをなんとなく流し見しながら朝食を片付ける。

俺は朝食が片付くと母さんに冷やかされながらも、一縷の望みを託して全身に再び湿布を貼った。

ニュースの内容が毎朝恒例のUMAについての話題になったところで、登校の準備を済ませた俺は、全身を痛みと不自然な清涼感に包まれながら、家を出て学校へ向かったのである。



学校に着くと、筋肉痛は思ったよりましになっていた。どうやら湿布と自転車をこいだのが効をそうしたらしい。俺は周囲にメンソールの香りをふりまきつつ、なんとなくスキップしながら俺は教室へ向かうのであった。

「よう、今日も元気に変人だな」

「おはよう勇人。……なんか臭いけどどうしたんだ?」

教室に入ると、もう健二と尚が来ていた。二人に挨拶をすると、俺も席に着く。

だけれども、筋肉痛が気になってどうもじっとしてられない。動いたら痛いとは分かっているのだが、動かさないと良くならないとも分かっていた。

ついに我慢できなくなった俺は、朝のホームルームまで、事情を知った尚に馬鹿にされ、健二に同情の目で見られながら、教室の後ろでストレッチをしようと決めたのである。

「たじまさん、きのうのおはなしのつづきがしたいのですが」

教室の後ろでストレッチという奇行にクラスメイトの皆は、俺がいないかのように朝の時間を友人たちと過ごしていた。

しかし、さすがもう既にクラスの皆に鉄仮面の女王として知られるクリスさんである。彼女は教室に現れると、俺の奇行もなんのその、まったく気にしてない様子で話しかけてきたのであった。

「あ〜、うん生徒会長に、立候補、した、んだよな」

床に腰を下ろし、両足を広げ、左足から伸ばし始める。もともと身体は柔らかい方ではないが、今日は筋肉痛のおかげでさらに伸びなかった。

立ったままクリスさんは俺を見下ろすようにさらに話しかける。

「はい。それで、せいとかいちょうとはどのようなことをするのですか?」

「あ〜……」

クリスさんの言葉を適当に聞き流しながらストレッチを続ける。

しばらくゆっくりと伸ばし続けているうちに痛みは楽になる。もしかしたら意外と部活には影響しないかもな……

「……は?」

今、何か信じられないせりふを聞いた気がする。俺は思わずストレッチをやめ、クリスさんの彫刻のような顔を下からまじまじと見つめてしまうのであった。

あ、スカートの中が見えそう。突然気恥ずかしくなった俺は立ち上がると、クリスさんの方を見ないように話しかける。

「なあ、今なんて言った?」

俺はとりあえず彼女が何て言ったかもう一度確認したかった。

生徒会選挙に出る人物にあるまじき発言をクリスさんが言い放った気がする。

クリスさんは立ち上がった俺にゆっくりと視線を合わせる。彼女は先ほどと変わらない調子でやっぱり、

「せいとかいちょうとはどのようなことをするのですか」

と言ったのであった。

第16話にしてやっと主人公の両親が出ました。

こんな小説ですがご意見ご感想いただけるとうれしいです。

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