4月28日その1 こまりました
あらすじを修正しました。どう見てもこれはラブコメでないので……。
ラブコメではないですが、ファンタジーだとは思うのでこれからも見捨てないでいただけるとうれしいです。
人に物を頼むときは、その人の能力をよく考えるべきだと思う。
その日、いつもと同じように(いっても学校が始まってまだ3週間ほどしか経っていないが)にこにこと微笑みながら、教壇にたったほそちゃんは、やはりいつも変わらない柔らかい表情でこう告げた。
「今日から生徒会選挙の候補者募集が始まります。興味のある人は、私まで申し出てくださいね」
生徒会選挙。生徒たちによって学校を運営する組織のエージェントを選ぶ行事。
俺には全く持って関係ない。だが俺のクラスから誰がでるかは気になる。
とりあえず近いところで、優等生代表の委員長なんかはどうするのだろうか。
ちなみに、1年の時も俺のクラスの委員長だった彼女は、2年生になってもクラスの委員長を務めている。あだ名を変える必要がなくてありがたいことである。
「なぁ、委員長ってさ、選挙に出馬したりするの?」
朝のホームルームが終了し、ほそちゃんが職員室へ去っていったところで委員長に聞いてみる。
「あ〜クラスの委員長とか部活の部長やっている人は選挙に出れないんだって。
もしかして私に出てほしかった?」
委員長は次の授業の準備をしていた手を止めると、何やらそう聞かれるのが分かっていたような口振りで俺の質問に答えた。
「いやそうじゃないけど……」
「石川君とか出るんじゃない? 前回も書記やってたし」
みなまで言わない内に委員長に俺の聞きたいことを答えられてビックリする。
恐るべし委員長。俺の心は筒抜けか! いや、これ以上はさせんぞ!
彼女に驚いた事を悟られないよう、適当に相槌をうつ。
しかし彼女はいたずらっぽく笑うと授業の準備を再開しながら、こう言ったのである。
「何ビックリしてるの? バレバレだよ」
……委員長恐ろしい子。
「なあ、俺って何考えてるか分かりやすいか?」
「ああ、なぜそんなこと思ったかは理解できんが、いつも考えていることはバレバレだぞ。
なあ、健二」
「そう? 俺には良く分かんないけど……」
昼休み、健二の近くの人の机を勝手に拝借して、健二と尚と3人で飯を食っていた。
ちなみに3人ともお母さんの手作り弁当だ。
そこでふと箸を止め、尚にさっきのような事を聞くと、そんな答えが返ってきたのである。
どうやら俺の考えは尚にも筒抜けらしい。さすが長年の親友である。俺の事は良く分かっているようだ。
妙な感動を覚えつつ、しかしこれからは下手なこと考えないようにしようなんて思っていると。
「実はな健二。コイツ嘘をつくとき耳を触るんだぜ」
「そうなのか! 参考になるなぁ」
尚は不適な笑みを浮かべ、こちらを見ながら健二になにやら吹き込んでいた。
ちょっと待て、そんな癖があるなんて初耳である。嘘をついたことは数え切れないほどあるが、そんな癖があるなんて自覚したことは無い。と、いうかこれまで尚についた嘘は(ほとんどがほら話だが)嘘だとバレバレだったらしい。
「おい、俺にそんな癖があるなんて本当か?」
思わず身を乗り出しながら尚に詰め寄ってしまう。本当ならこれからの俺の人生にとても有益な情報になる。
「いや嘘だけど」
しかし尚は何事も無かったかのようにあっさりと否定したのである。
なんだか置いて行かれたような気分になる。尚と健二は既に再び黙々と弁当を食べ始めていた。俺は何か文句でも言いたかったが、思いつかなかったので、とりあえず弁当にやりきれないこの気持ちをぶつけたのであった。
「なあ、健二って生徒会選挙出るのか?」
3人とも弁当を平らげ、俺はなんとなく手持ちぶさたな感じになったので、健二に話しかける。
すぐ後ろの席でカードゲームをしている連中を尚と眺めていた健二は振り向くと、頷いた。
そうなんだ、なんてなんとなく感心して、俺もカードゲーム観戦に加わろうと身体を伸ばすと、付け加えたように健二が話かけてくる。
「そういえばさ、クリスさんも選挙でるらしいよ」
彼女も選挙に出るのか。まあ、あんまり興味が無かった俺は適当に返事を返し、いろいろと突っ込もうとする健二をかわしながら、佳境を迎えていたカードゲームに横槍を入れ始めるのであった。
クリスさんは当初、男子の奪い合いの対象になると予想されていたが、そうはならなかった。
それは彼女が無愛想だからである。いや、話しかければ会話は成立するし、別にいやな性格をしているわけでもない。正確に言えば、無表情であるから、男子にそれほど人気が出なかったのである。確かに容姿は飛びぬけているが、いくら話しかけても表情一つ変えない、というのは気分が悪いだろう。
そんな彼女は女子の友達も少ないようだった。それでも性格は悪くないためか、幾人かは仲のいい子ができているようである。
彼女のことで一番驚いたのは、委員長が彼女を避けていることであった。委員長はどんな人とでも仲良くできるすばらしい人間であると俺は認識しており、そんな彼女であったからこそクラスの委員長をしっかりと務めていると思ったのだが。さすがの委員長もクリスさんのようなタイプは苦手、ということらしい。
俺個人としてもクリスさんはあまり得意なタイプではなかった。しかし、クラスの皆からは俺はクリスさんの世話係のような認識をされている。
原因はもちろん、始業式の日に俺がクリスさんに命を助けられたお礼に困ったことがあったら何でも言えなんていったことにある。
さすがに俺の命を助けたことは言わなかったクリスさんだが、「お前が困ったら助けるぜ」発言はクラス、いや学年全体に波紋を呼び、ついには俺はほそちゃんにまでクリスさんをよろしくお願いしますね、なんて言われたのである。
まあ、俺としても彼女に約束した以上、なにかあったら彼女を助けるのはやぶさかではなかった。
しかし、彼女はとても優秀な人物で、学校が始まって3週間、特に困ったような思いはしていないようである。
日本語はとても上手で、聞くも話すもも自由自在。記憶力も抜群で、校内で迷ったなんて話なんかも聞いたことはなかった。もちろん、授業の様子を見る限り、成績が悪いなんて事も無いようである。
まさに「完璧」であった。
健二なんかは、あのパーフェクト生徒会長に勝るとも劣らない完璧ぶりだなんて驚いていたくらいである。
そんな彼女だったので、俺の「世話係」も名ばかりのものであったが、ついにその役目を全うする日が来てしまったんだ。
「たじまさん、わたしこまっているのですが……」
ほそちゃんが生徒会選挙の告知をした日、つまり今日の放課後。
早く部活へ行こうと慌しく準備をしていた俺に、やはり無表情で彼女はそう話しかけたのであった。