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4月8日その6 帰りましょ

そういえば最近女子に助けられるって多いな……

それって男としてどうなんだろうか。そんなことを考えながら駐輪場に向かう。

自転車にまたがって校門に向かうと、そこでは自転車に乗った尚が待ってくれていた。

「さっきクリスさんが女子と集団で出て行ったが大丈夫だったのか、勇人?」

尚が心配ともからかいとも判断がつかない微妙な表情で話しかけてくる。

「まあな、一応大丈夫だった」

俺もおそらく微妙な表情で答えているのだと思う。

俺たちはなんとなく自転車を一緒に発進させると、街の中心へと続く長い長いあぜ道を進み始めるのであった。

いつもは自転車をこぎながら尚との会話が弾むのに、今日の俺たちは無言だった。

あぜ道を並進しながら進んでいく。

俺はなんとなく尚の方を向かないようにしながら、あたりを見回してみた。

本当に何も無かった。周りの田んぼにはまだ何も植わっておらず、遠くには裾野が広い山が見えた。

「なぁ、山が綺麗に見えるぞ」

俺はなんとなく尚に話しかける。

尚は正面に向けていた視線を俺の方に向けて、遠くに視線を向けると、適当な感じに相槌を打つ。

そうすると、尚は再び視線を正面に向けた。

俺も正面を見ると、少しずつ近づいている中心街の建物と、無駄に大きい県庁が見えた。

「なぁ、勇人。お前ここら辺でUMAに襲われたのか?」

しばらくぼぉっと自転車をこいでいると、突然尚が話しかけてきた。

尚の方を見るが、奴は正面を向いたままだった。

俺も再び正面を見ると、ゆっくりと奴の問いに答える。

「どうかな、暗かったし。それにここら何も無いからどこで襲われたのかなんてわかんねぇよ」

奴はそれを聞くとゆっくりと自転車のスピードを緩め始めた。

俺もそれにあわせてスピードを緩める。

尚は両手を籠にかけて、あごがハンドルに乗りそうになるくらい下げる。

まったくもってだらしなく自転車をこぎ始めている。まったくけしからん奴である。

しかし、結局俺も尚と同じような格好で自転車をこぎ始めた。

尚は視線だけこちらに向けながら俺に話しかけてくる。

「なぁ、何であの子はここにいたんだろうな……」

やはり尚はクリスさんのことが気になるようだ。

確かにここいらには何にも無い。

クリスさんが偶然田んぼの真ん中にいて、俺がUMAに襲われていたのを助けた。

というのは、偶然にしては出来すぎだと思う。

それでも、俺は命を助けてくれた恩があるからだろうか、尚ほどにはクリスさんの事は気にならなかった。

「……そんな理由考えたってしかたないぜ。とにかく俺は助けられたんだから、それでいいじゃないか」

尚の方へ顔を向け、身体を起こしながらそう諭す。

「何でお前はそんな楽観的なんだよ……」

尚も呆れた顔をしながら身体を起こす。

「まあ、クリスさんが犯罪を犯したところを見たというわけでなし、そんな気にするなよ」

尚より先に身体を起こした俺は、もう話は終わりだ、とばかりに自転車を急に加速させる。

尚はどこか納得しないような顔をしながら、俺についてきたのであった。



しばらくすると中心通りに自転車が入っていく。

駅を基点としたその通りは、車もまばらで歩行者も少ない。

それでも歩道と車道は綺麗に舗装されていた。

人が五人並んでも余裕で通れそうな歩道を尚と自転車をこいでいく。道端には大きなケヤキの木が植えてあり、それによってできた日陰が自転車をこいできた身体に心地よかった。

「なぁ、どっか寄ってくか? 飯食いたいし」

尚が唐突に話しかけてきた。

「どこか、ってどこよ?」

思わず反射的にそう返してしまう。

小山原市は北関東の県の県庁所在地であるものの、新幹線が通っておらず、高校生が楽しめそうな娯楽施設が少ないことで地元民の間では有名だった。

「ヨッコモールにでも行くか?」

尚は悩む様子も無く、そういわれることを予想していたかのように、即答した。

ヨッコモール。5年ほど前に街の中心にあった自動車工場の跡地に出来たたくさんのお店が集まったモール。

ゲームセンターや市内唯一の映画館があることもあり、市内の高校生の憩いの場でもあった。

「そこしか行くとこないだろ。……そうだなじゃあ、行くか」

月初めということもあり、懐が暖かかった俺は尚の提案に賛成し、二人ヨッコモールへと自転車を向けるのだった。



「じゃあな」

フードコートで腹を満たし、ゲーセンで散財して楽しんだ俺たちは夕方になってきたこともあり、別れてそれぞれの家へと向かう。

住宅が並ぶ中を一人、自転車でこいでいった。道には歩行者はおらず、車も通らない。

なんとなく道を独り占めした気になって車道の真ん中を自転車で進んでいく。

住宅の間から夕日が差し込んで、なかなか幻想的だった。

夕日に照らされて自転車を一人こぐ高校生……

なんとなくポエミーな気分になりながら家路につく。

この角を曲がれば自宅だ、というところで初めて歩行者に出会った。

春先なのに真っ黒なコートと黒いシルクハットというとても暑そうな格好をしたそいつは道の真ん中を歩いていた。

目の前から自転車が来るというのに、そいつは避けようともしない。

仕方が無いので避けていくと、すれ違いざまにそいつに声をかけられた気がした。




「君は、何を望んだんだい?」





確かにそう聞こえた。何だ、と思って振り向いたけれど、そこには誰もいない。

なんだか気味悪かったけれど、気のせいだろうと思ってそのまま家へ入っていく。

だって俺は何かを誰かに望んだ覚えなんて無い。

だからあんな質問をされる理由なんて無いんだ。

そう思いながらも、俺の脳裏には春休みに鬼に殺されかけたこと、そしてあの天使クリスさんの〔力〕のことがぐるぐる回って離れなかった。




2008年4月8日。

高校2年生になったその日、俺の周りは急激に変化し始める。

その日、「平凡」な学生の俺の運命は果たして「特別」な物に変わったのだろうか……




4月8日はこれで終了です。

連休中の更新はこれで最後です。

これからは2〜3日に一度の更新を目標に執筆していこうと思います。


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