おくりもの
豊か国と貧し国がありました。
新年のあいさつに、ネズミ隊長と隊員が行くことになっています。
ネズミ隊長には、心配なことがありました。
去年はじめに行ったはずのイノシシ隊と隊員が、帰ってこなかったのです。
その前の年に行ったイヌ隊は、帰ってきたというのに。
イヌ隊長に聞いても、「とくに変わったこともなかったワン?」と知りません。
さかのぼれば、そのさらに前の年に行ったトリ隊は、帰ってこず、
その前の年に行ったサル隊は、帰ってきて、
その前の年のヒツジ隊は帰ってこなくて……と、バラバラでした。
どうして帰ってこないんだっチュ?
行って、帰ってこられるかなあっチュ?
ネズミ隊長は、不安で眠れられませんでした。
朝日がのぼって、いよいよ貧し国へ出発の時です。
もう会えなくなるかもしれないと、ネズミ隊長は別れを惜しみ、送り出しにきてくれたイヌ隊長の前で泣き出しました。
「行かないわけにはいかないだろう? 向こうの王様が新しい王様に代わったと聞くワン。だからそれも兼ねて、君が我が豊か国の代表としてしっかりとあいさつに行かないと!」
「そうだけど……」
「元気と勇気を出すのだよ君。そうだワン、よく考えてごらん。ヒツジ、サル、トリ、イヌ、イノシシ。帰ってこない・くる、が、交互になっているじゃないかワン。去年のイノシシ隊は帰ってこなかったから、今年の君は帰ってこられるんじゃないかな」
「そうなのかな」
「きっとそうだワン」
ふと、イヌ隊長は思い出して言いました。
「そういえば王様が言ってたワン。シシャは……何とか」
「覚えてないっチュか?」
「忘れたなあ。何だったかなあ。こんど王様に聞いておくワン」
「うん。じゃあ、行ってくるね。ありがとうっチュ」
わずかに元気と勇気が出て、ネズミ隊は出発しました。
王様が、おいしいと言ってやまない特上のチーズを持って。
豊か国から貧し国への、おくりものでした。
そして数か月。
とうとう、ネズミ隊は帰ってきませんでした。
あれれ? 何でだワン?
イヌ隊長はふしぎに思って、王様にたずねに行きました。
王様は言います。
「こんな言葉を知っているかな?」
「どんなでしょうかワン?」
「シシャはシシャとなって、かえってくる」
「ああ、思い出しましたワン。聞いたことは、ありましたワン……」
でも、どういうこと? イヌ隊長は悩みます。
「シシャは使者と、あともうひとつ」
王様は、ぺろりと舌で口のまわりをなめまわします。
「なんと、そういうことでしたかワン!」
イヌ隊長は、ネズミ隊が哀れでたまりませんでした。
夏になった頃――。
貧し国では、ネコ王の誕生日で焼肉パーティーが開かれていました。
年にいちどのぜいたくだと、ごちそうもテーブルいっぱいに並べられています。
ネズミのステーキ、ネズミのから揚げ、ネズミのシチュー、ネズミのオムライス、ネズミのスープ、ネズミのチーズフォンデュ。
ネコ王とお妃さま、王子やお姫さま、家来たちに、ネコの国民は、みんなでなかよく食べました。
ああネコでよかったニャあ。人間だったら食べられないところだったニャ。
おいしいニャ、今年から王になって、よかったニャ。去年までの王様は、人間だったものニャ。
でもネコではない人間の家来たちや国民は、食べられないので不満そうに言いました。
「来年は食べられるのかな」
王様は大笑いで答えます。
「来年は君たちに、最高級の肉が、おくられてくるよ」
モー。
ご読了ありがとうございました。
後書きは後ほどブログで。
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-289.html
今年もよろしくお願いします。