効果は抜群だ
最高の息抜きを見つけてしまった
ウェンスターマーク効果というものを知っているだろうか?
簡単に説明するならば幼い頃から一緒にいた男女同士では性的感情が失われていくという心理現象である。
兄は妹には性的感情を持たず、姉は弟に性的感情を持たない。置き換えてみればとても当たり前のように聞こえるが果たしてそれはどうだろう?
二次元のように幼少期からずっと一緒に遊んでいた男女がいたとしよう。
そう。これはあくまで仮設だ……そのような夢のような事実が現実に起こるのは稀有であり、選ばれた存在といってもいいだろう。
では話に戻るが――――本当に性的感情を持たないのだろうか?
「よし、話しを聞いてみるか……」
青年は『ウェンスターマーク効果』というスマホの画面を閉じ、ある人物に連絡を入れる。
耳元で鳴り響くこと3コール……
『もしもし、琴美だよ』
「もしもし、俺だ」
『え?まさか!……いや、そんな――――本当に生きていたなんて……ッ』
まるで生き別れた家族だったかのような反応が返ってくるが、これはいつものことなのでスルー。
「琴ちゃんさ、俺に性的感情持ったことある?」
『私のことを〝琴ちゃん〟と呼ぶのはお母さんとお姉ちゃんと陽太だけ……おかしい。男性のように低い声音でもなく、私のように透き通った声をしているわけでもない。…………でも、画面に出ているのは『陽ちゃん』。しかもこんな突拍子のない発言……ま、まさか!陽ちゃん!?』
「珍しく俺に辿り着くまで早かったな、今日は〝なんか良いことでもあったのかい〟?」
『陽ちゃんから電話来たよ?それとお弁当にだし巻き卵が入ってた』
「いつものことじゃねぇか……んで、琴ちゃん?話しを戻していいか?」
『いいよー』
「俺に性的感情を持ったことある?」
『え、あるでしょ?陽ちゃんはないわけ?』
「……あるんだよなぁ」
『というか。新学期早々に何かあったのかと思ったらまたいつもの〝病気〟だったのね……。お隣さんとか目の前さんとかに迷惑かけてないでしょうね?他の人にそんなこと聞いたらセクハラだからね』
「それはない。俺友達にしかこんなの聞かないし、この『ウェンスターマーク効果』ってのは琴ちゃんくらいにしか聞けないんだよ」
『まーた意味不明なこと調べてる……。その気になったら調べ尽くすのと、思ったことを声にだすの止めなさいっていってるでしょ?そんなんじゃ友達できんよ?』
「大丈夫だって。俺のクラスって基本的に友達作りに来ている人たちじゃないから」
『あぁ……なんだっけ〝情報収集整理〟だっけ?どうしてよ?』
「目の前のスパコン囲って流れる情報をひたすらに集めて整理して報告する。今のご時世一人は必ず会社に必要になるスーパーなポジだ。分かった?誰とも喋る時間なんてないんだよね」
本来であるなら機械でやらなければならないことを人間がやる。
世界の情報を持つコンピューターには容量が足りない……というよりも読み取ることが出来ない作業。
情報収集整理科――――それは数字だけではなく、感情を取り込んで計算する仕事だ。
大変な仕事だから月給も高い。それは情報を収集出来ても整理出来る人間がいないことからきていて世界中で価値がある唯一の職業といっても過言ではないだろう。
莫大な金額を払ってでも働いて欲しいと思ってもらえる職業なのだ。
『それで?こうやって私を息抜きに使ってる……ということですかね?』
「いや。これは単純に知りたくなったからだけど?〝なんたらの効果〟とか〝なんたらの定理〟とか〝なんたらの法則〟とか……過去の偉人が創ったルールってぶっ壊したいじゃない。ありもしないはずのことが世の中に蔓延っていると俺以外の情報収集整理の人が大変だからね」
『はいはいサイコサイコ。こんな真昼間から電話出てる私も大概だけど、陽ちゃんってまだ授業あるでしょ?サボっていいの?』
「もう課題は終わった。あとは部屋にあるPCで出来るし夜にでもやればいいでしょ。全寮制っていっても俺の科は特別扱い受けてるし、なんなら俺も特別扱いされてるし。取り合えず大丈夫だろ。はい、QED」
『全然証明出来てないから……。私だってやることあるんだかね?ちゃんと電話するときは電話するってメッセージ頂戴。もう時間だから切るからね?――――絶対に人前でボロだしたらダメだよ?』
「…………いや、友達いねぇし」
画面に映る四人の名前。
何とも寂しいことに母親と琴美母と琴美と琴美姉と登録してあるのみだ……
「まぁ、学校で話すこともあんまりないだろうし……。俺は俺のことを終わらせるか」
本人が知っていても知らないことはある。
あれだけ自慢気に琴美に言っていた〝情報収集整理〟科の重大さに……
彼は知らないのだ。
いち早く終わって室内から外に出ていくときに見られていることに。
部屋までの道のりをつけられていることに。
職業専門学校の〝学生〟だからと言って会社に引き込まれないということはないのだ――――




