前書き 7
私はSNSにプライベートを晒すことはしていない。この世のなかどこから情報が漏れて、何があるかわからないから。そして、自分の顔が好きではないから。
だから許可もなく、一度もアップロードしたら二度と消えることはない環境に自分の顔写真を乗せられたことにとてもイラついた。
すぐさま、投稿を消して貰うようにメッセージを送った。
それからというもの、彼女に対しての態度が素っ気なくなっていた。
もしかしたら、この事がなく、このまま続いていればいつか好きになっていたかもしれない。たった一回の失敗で自分はこうなってしまうのかと自分でも驚いた。やはり、人付き合いが苦手なのかな?
メッセージのやり取りも、自分からはしない。返信も簡単に。
そうやって三日ほど経ったある日、ついに彼女に
「私はあなたのことが嫌いです」
と、一言送った。
今までは、好きでも嫌いでもなく、ただ、成り行きに身を任せてやり取りをしていたが、明確に意思を示したことは初めてだった。
彼女からの返信は、
「ははは、うん。知ってた」
と言う呆気ないものだった。
その言葉の奥に何を感じているかはわからない。色々、悩んだ末に送ったのかもしれないし、複数いる関係の一つが切れただけように何も思わなかったかもしれない。
ただ、それ以上やり取りはしなかったので、その時の心境は私にはわからない。
因みに、その時から数ヶ月経った年末の実家に帰省した日に、修学旅行で彼女からの貰った、私の母親へのプレゼントを渡したことを彼女に伝えたら、
「喜んでもらえてよかった」
という返信が帰ってきた。ただそれだけ。
その話をトップにすると、四日間は付き合ったうちに入らないと言われた。私もそう思う。
「その彼女が変だっただけだよ、だから、次は大丈夫なはず」
「もしかしたら私はそういう変な女性ばかりに好かれるんですかね?ダメ女キャプチャーみないな」
そういうと、トップと、後ろで話を聞いていた女性二人が笑った。
そこまで面白いことを言ったかなと疑問に思う。少なくとも私は真面目に答えてる。
私は女性を本気で好きになったことが無い。付き合っている人たちを見ると、羨ましいと思うがそこまで良いものなのかなぁとも思ってしまう。そもそも、高校の一件以来、高校でも会社に入っても女性との繋がりがない。出会いがない。
じゃあ、行動しろよ!合コンとか行けよ!となるのだが、そこまでして彼女が欲しいとは思わない。人を好きになると言う嬉しさや楽しさを知らないからかもしれないが、結局の所、一人でいるのが楽なのである。そして、女性と友達以上恋人未満的な関係まで持っていくのがめんどくさいと思ってしまう。
だから、結局、現状維持で一人身なのだ。満足はしているが。
そのあとも色々と話をする。そして話も終わり、課長と変わってほしいと言われ、部屋を出て、課長と交代する。
課長を待っている間、窓から見える景色を眺める。
少し待っていると、課長も出てきた。書類が出来上がるまで、少し時間がかかるとのことで、もう少し待つ。
そして、受付の人がやって来て書類の入った封筒を私に渡す。
貰った書類は、休病届けを出すために必要なものと言われた。実家で療養して、そこで、心療内科に行き、診断、治療をしてもらい回復に勤めてもらうことになるとのこと。
ありがとうございました、とお礼を言って診療所を出る。
会社の方で色々と手続きをするために、一度会社に戻ることになった。
そして、会社に着く。
時間は定時を過ぎた所だった。
駐車場は、喫煙所に近く、職場の知り合いがよくその喫煙所を使っているので、会わないように早くこの場所から移動したかった。
たが、それは叶わなかった。通路からその知り合いが喫煙所に向かって歩いて来ていた。
私はまだ駐車場にいて、喫煙所と通路から少し離れているので、知り合いがこちらを向かないように祈った。
知り合いがこちらを向く。目があう。
私はいつも通りに会釈をした。知り合いも頭を少し下げる。そして、そのまま喫煙所に向かった。
知り合いといっても、用事がないと話さないような関係だった。だから、心配してこちらに来るということがなくて良かったが、それでも、私がこの場にいたことは職場に伝わってしまう。
改めてめんどくさいと思った。これを起こしてるのは自分だけど。
表情に出さず、待合室に向かう。
少しすると、課長と部長、そして上司がやって来てこれからの事を話す。
まず、私がしないといけないことは、保護者のいる家、つまり実家に帰って療養をすること。そして、早い段階で、心療内科に行って診断を受けること。そこで仕事ができる状態ではない、という診断が出れば、会社の方で正式に休病申請が通るということになる。
それまでは有給で対応することになった。幸い、私は有給をあまり取っていなかったので、有給消化にちょうどよかった。なんなら、一ヶ月まるまる有給で過ごすことも出来た。仕事の関係上それはできないけど。
上司からは、仕事に関しては心配しなくて良いと言われた。私は優秀な人材がいっぱい居ますから、と返事をする。
むしろ職場で一番不出来なのが私で、そんな私が居なくなったら、もっと効率が良くなるんじゃないか?私が居なくなった方、職場も楽になるんじゃないか?と思うぐらいには、心がすさんでいた。
今日のこれからの行動は、まず、空港に向かい母親と会う。それから、ホテルを取ってもらったという事でそこに向かい、母親と一泊する。そして、翌日の始発の飛行機で実家に帰るという手はずになっている。
という事で、また課長の車に乗り、空港に向かうことになった。