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とある死志望者の日記  作者: 冬真 春
今に至るための過程
5/14

前書き 5

 スマフォを取り出し、連絡先を探す。表示されたのは母親の連絡先。そこに'今時間ある?電話していい?'とメッセージを送る。


 詳しくは覚えていないが、母親は恐らく仕事中だろう。もしかしたら返信が帰ってこないかもしれない。


 実家は遠い場所にある。飛行機を使って3時間以上かかるから、今日は迎えにこれないかもしれない。


 メッセージも久しぶりに送った。この件がなければ、あと半年は連絡しなかったかもしれない。


 課長たちに親にメッセージを送ったこと、もしかしたら、仕事中で返信が来ないかもということ、実家が遠いので、今日は来れないかもしれないということ、それに派生して父親はいないということ、を伝えた。


 正式には父親だった人は生きている。私が小学生の時に離婚しただけである。


 課長たちはそれを聞くと、保護者が来れなかったときは、誰の家に泊める?ということを笑いながら話していた。


 優しいのか、慣れているのか、演じているのかわからない。


 私はそうなるなら、母親が来てくれることを願った。

 事情を知る人を増やしたくなかったことが一番大きかった。


 少し待つと、スマフォが震えた。


 画面を見ると、'どしたの?電話していいよ'とメッセージが帰ってきた。


 その事を課長たちに伝えると、課長は言いにくいんだったら、私が伝えようか?といってくれたが、それは断った。


 そこまで、配慮されたくなかったし、なにより、自分で言わないといけないような気がしたから。


 スマフォで母親に電話をかける。


 直ぐに母親は電話にでた。


「もしもし」

「もしもし。どうしたの?」

「あのね……えっと……その…………」


 やっぱり声がでない。言い出しにくい。


 椅子に座っていて、斜め下を向いたまま、目だけを動かして周りをみる。


 こちらを心配して、「代わろうか?」と声に出さずに伝えてくる課長や笑っているのか、微笑んでいるのか、よく分からない表情の部長がいた。


 逃げられないなと思った。


 スマフォを少し離して、深く息を吸う。


 そして、その息を吐き出すように、伝えた。


「自殺しようとしたの。できなかったけど」


 やっぱり少し早口になってしまった。


 スマフォ越しに戸惑っている声が聞こえた。


 これから、今後のことやここに来てもらうことを伝えなければいけない。ただ、今の状態で伝わるかわからなかった。


 だから、課長に話してもらうことにした。


「もしもし、今から色々と聞いてもらわないといけないことがあるから、上司に代わるね」


 そう言って、返事を聞かずに課長にスマフォを渡した。


「もしもし・・」


 課長は話し始めた。


 息子さんが今日、ちょっと変だったこと、それが、自殺をしようとしていたこと、休病をしてもらうことになったこと、休病中は実家で療養しなければいけないこと、自殺の事を考えて一人にはできないこと、その為にこちらに来てほしいということ。


 そのようなことを話していた。


「・・はい。はい。わかりました。よろしくお願いします。では失礼します」


 課長は私にスマフォを返した。


 通話終了のボタンをタップする。


 そして、電話の内容が伝えられた。


 母親は今日、飛行機の最終便を使ってこちらに来るとのこと、そこで少しお話をして、ホテルに一泊して、明日の朝、飛行機で実家に帰って貰うこと、実家で療養をしてもらうこと。


 飛行機は20時に空港に到着する。

 現在時刻は14時だった。


 これからしないといけないことは、実家に帰るために荷物をまとめること、メンタルカウンセラーのトップとお話しすること。それから、母親に会いに行くこと。


 メンタル面談は16時に行われるということで、先に寮に帰って、荷物をまとめることになった。


 部長と別れる。


 部長は「なんでも相談に乗るから、何かあったら言ってね。彼女ができたとか、事故を起こしてしまったでも何でもいいよ」と、言ってくれた。


 そうして、課長の車にのって、寮に戻る。


 帰りの車内でも会話は無かった。




 寮に着き、部屋に戻る前に寮長に挨拶をすることになった、これからの事を説明するためにである。


 寮長にはよくお世話になっている。主に自分宛に送られてくる荷物の受け取りで。やはり、いつ、どのタイミングでも、必ず受け取ってくれる人がいるというのは便利なものだ。再配達を依頼する手間がかからない。この点では、寮生活は便利だと感じている。


 寮長へは課長が説明した。


 休養することになったこと、その間に部屋はそのままにしておくということで、その他もろもろなど。


 説明も終わり、部屋に向かう。


 課長は「時間は沢山あるから、ゆっくり準備しておいでロビーで待ってる」といって、ロビーある椅子にすわっていた。


 部屋に入ると、早速準備に取りかかる。といっても持ち帰るのは衣類のみ、それも三日分ぐらいでいいと思った。


 どうせ帰っても、何もする気はない。死んでいるように動かないだけと思っていた。


 部屋のなかにある、デスクトップパソコンやVR機器、家庭用ゲーム筐体などには目を向けず、衣類と、スマホ、充電器、印鑑などのこれから先、手続きで必要そうなものを鞄に積めていく。


 詰め終わり返る準備が出来た。


 これから暫くここには帰ってこないので、今しなければ大変なことを探す。


 そして冷蔵庫を開く。そこにはおととい買っていた卵10個入りのパックが一つだけ入っていた。


 私はもう自炊をやめている。食事は基本コンビニ弁当だけである。 そして、食べたいと思ったときに買いに行くので、お菓子やその他食品は置いていない。


 あればあるだけ食べてしまうのだ。


 最近はゆで卵を食べていた。茹でるだけは自炊とはいわない。


 卵パックを取り出す。課長にあげることにした。要らないなら捨てればいい。


 鞄を持って部屋を出る。部屋を出てすぐ近くにあるブレーカーを切る。そして、部屋に向かって心のなかで「いってきます」と言った。





 ロビーに行くと、課長が椅子に座って待っていた。こちらに気づいたのか目があった。


「準備もう終わったの?」

「はい。終わりました。それで、この卵要らないんですけど、入りますか?」

「じゃあ、もらうよ。必要になったら言ってね。返すから」

「いや、もう必要ないですよ。使ってください」

「わかった。じゃあ行こうか」


 そんな会話をして、出る準備をする。

 そして、寮長に部屋の鍵を渡すために寮長の元へ向かう。


 そして、寮長に鍵を渡した。


「はい。確認しました。じゃあ、お大事に。部屋はそのままにしておくから、また来たら一言私に言ってください。そしたら、鍵を渡します」

「はい。ありがとうごさいます」


 そして、課長の車に向かう。必要なものを詰めた鞄は大きかったのでトランクに入れさせてもらった。


 寮を出発した。目的地はメンタルカウンセラーのトップがいる診療所である。

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