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とある死志望者の日記  作者: 冬真 春
今に至るための過程
4/14

前書き 4

 課長の車に乗り、寮を出る。


「何が食べたい?」


 課長が聞いてくる。


 私は何が食べたいんだろう?考えてみる。が、何も思い付かない。


 私は好き嫌いが無い。何でも食べられる。大抵のものは美味しいと感じる。それこそ、スーパーで売っている安い肉と、ブランドがついた高級肉も私の中ではどちらも'美味しい'の部類である。食べられれば何でもいい。


 普段の食事も近くにあるコンビニで買った弁当で済ませている。自炊はとうの昔に辞めた。


 意識するとしたら、カロリーだ。あまり運動しないのに、カロリーが高いものを食べてしまっては、あっという間に太ってしまう。だから、選ぶ基準はカロリーが低くて、腹持ちの良い食べ物。


「そうですね。カロリーの高いものが食べたいです」


 思考中に浮かんできたカロリーという単語をそのまま言葉にして出す。高いものを指定したのは、この際どうなってもいいと思ったから、いつもと逆にしてみた。


「わかった。探してみる」


 課長そういって、運転を続ける。


 車での移動中、車内に会話は一切無い。あるのはカーナビから聞こえてくるテレビの音だけ。


 助手席から、流れていく外の景色を眺める。毎秒毎秒変わっていく景色を見ることは、ずっと好きだった。何も考えなくて良いから。景色を見ることだけに集中出来るから。


 数分後、課長の運転する車が入っていったのは、寮の近くにあるステーキハウスだった。


 目的地がそこだとわかった瞬間、胃もたれしそうだと思ったが顔には出さない。自分が望んだことなのだ。文句は言わない。


 店内に入り、席につく。


 お腹はあまり空いていなかったが、量が少なすぎると何か思われると思ったので、少し無理をすれば食べられるような見た目のメニューを頼む。


 料理を待っている間、会話はなかった。


 私からは会話をしようとしなかったし、課長も会話を望んでないと気を使って話し出すようなこともなかった。


 これが合コンやデート、お見合いであれば明らかに相手に良い印象を与えられないだろう。お互いを知る場なのに相手に情報を与えないのなら、そもそもの前提が間違っている。お互いがお互いをある程度知っている仲であれば、こういう雰囲気も悪くないと思えるのだろうが、私は課長と食事に来るのはまだ二回目である。まだ、表面しか知らなかった。


 どうでもいいような思考をして、時間を潰していると注文していた料理が届いた。


 アツアツの鉄板に乗った一枚のステーキ、セットのライスとスープ、そしてサラダ。


 熱いのでお気をつけください、といって店員は下がっていく。


 良かったことは、想像していたメニューよりも量が少なかったことだ。ちょうどお腹いっぱいというぐらいの量だった。


 なんなく食べきる。普通に美味しかった。


 支払いを上司にしてもらい、店を出る。


 車に乗り、会社に向かう。


 途中で交通事故に逢わないかな、とか考えたが、課長は安全運転だった。無事に会社にたどり着く。


 空いている会議室があるそうなので、そこに向かう。


 職場はまだ勤務時間だったが、職場の知り合いに逢わないか、不安だった。会ってしまうのが怖かったが、何よりめんどくさかった。既に戻れない行動を起こしてしまったのに、そういう目で見られるのが怖かった。自分でも変なプライドだなって思った。


 知り合いに会うこともなく、空いている会議室に入る。誰もいなかったので、そこら辺にあった椅子に座った。


 少しすると、課長がやって来て、その後ろから部長も入ってきた。


 改めて、自分がしてしまったことの重大さを知った。そしてまた、死ねなかったことを後悔する。


 面談までまだ少し時間が会ったので、会議室で待っていた。


 その間に、課長にした話を、部長にも話す。


 話終わると部長は、


「そんなこと考えていたなんて、全然気づかなかった」


 そう言った。


 私はそれだけ職場で誰とも深く関わっていなかったと気づいた。

 仕事仲間という立場で表面上のみで関わって来たんだな。だから、自分の心境を話せるような人がいない。そもそも、仲のいい友達にも話せていないが。なんにも知らない人になら話せていたかもしれないが、そんなあてはなかった。


 結局、他の人の目を気にしていたのだ。

 これまでの立ち位置、相手からの見えかたを変えたくなくて、本心がきつくても多少無理をしても同じように見えるように演じる。


 自分がいつから壊れていたのかわからない。元々こうだったかもしれない。


「迷惑をかけていると思わなくていいよ。こういうのも仕事の内でそれでお金を貰っているから」


 部長はそう茶化しながら言う。


 どれだけの経験を積んできたのだろう?対応に慣れていた。


 そうこうしているうちに、面談の時間がきていた。


 部屋を出て、カウンセラーが待っている部屋に入った。


 初めて会うカウンセラーは笑顔で迎え入れてくれた。


 今回の事情を少しは聞いているとのこと。


 なので、課長と、部長にした説明をまたする。


 結果としては、心情は何も変わらなかった。ただ目の前にある文章を感情を込めずに朗読するような感じである。カウンセラーもただ聞くだけ。それが仕事だから。感情の引き出し方が他より上手なだけ。


 変わったことは、私の説明が少しうまくなったことぐらい。三回目になる同じ内容の説明は、伝える順番、話す言葉、テンポが変化して、自分でも伝わりやすいな、と感じた。


 ただそれだけ。


 説明を終えて、カウンセラーと少し話をして、面談は終わった。


 もといた会議室に戻ってくる。


 そこで、これからの話をした。


 まず、大前提として今の状態では、仕事をする事は難しいので、休病……仕事をお休みするとこが望ましいとなった。


 なんて、良い会社なのだろうと思った。使えなくなった人材はポイしてしまえばいいのに、復帰まで面倒を観てくれるなんて凄いなって思った。


 会社で休病の手続きをするためには、メンタルカウンセラーのトップの許可が必要になるため、この後、メンタルカウンセラーのトップと面談を行うことになった。


 そして、休病中は原則、保護者の元で暮らさないといけないとのこと。つまり、実家で休めということである。


 私が、自殺未遂をしてしまったために、一人にしてはおけないという事で、一番良いのは、保護者に迎えに来てもらうこと。


 そのために、親に連絡しないといけなくなった。


 また、他人に迷惑をかけてしまう。


 また、自殺出来なかったことを後悔した。

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