表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある死志望者の日記  作者: 冬真 春
今に至るための過程
10/14

前書き 10

 あれから、一ヶ月が過ぎた。


 何かをしても、何もしなくても時間は平等に流れていくことが改めてわかった。時間の流れが遅いと感じる人は時間を意識している回数が多い人だ。時間という概念を認識する感覚が短いと、前に認識した時間から、進んだ時間が短いことに失望して、時を長く感じてしまうのではないかと思う。


 何も考えなければ、時間はあっという間に過ぎていった。


 始めの頃は何も考えてなく、ただボーッとしていた。それこそ動物園にいるナマケモノよりも怠け者だったのではないだろうか。

 眠くなくなるまで寝て、お腹が空いたと感じたら、勝手に冷蔵庫をあさり何かを食べる。そしてまた、横になる。時には祖母のご飯が出来たという声でご飯を食べに行き、「風呂に入って」という祖母の命令で風呂にはいる。そして、また横になる。


 外には出なかった。週一回の通院を除いて。


 病院が嫌いだというわけでもなく、行きたいとも行きたくないとも思わず、だだ、会社で休病扱いにしてもらうために行かなければいけないという思いで母親の車の助手席に乗って移動する。


 診断までの長い待ち時間も、診断中の会話も、お薬を貰うまでの長い待ち時間も、会計までの長い待ち時間も何も思わなかった。自分が何を話していたかも覚えていない。


 死にたいとは思っているが、自分で死ぬことは出来ない。ご飯を食べて、風呂に入る。それ以外は何もしない毎日だった。


 因みに実家は祖父母と母親が住んでいる。食事や洗濯は主に祖母がしてくれていた。




 同じ毎日を過ごしているとその生活に慣れ、余裕ができてくる。


 数日たった頃、何も考えないということに慣れてしまい、何かを考えるという行動が自然に追加された。


 布団の上で仰向けになっている体を動かしたくなくて、目だけを動かす。


 開いているカーテン、窓から入ってくる光、それに照らし出される部屋に舞う埃、窓の外に見える青い空。それらの光景を久しぶりに見た気がした。


 視界が機能していると認識すると、次には皮膚に伝わる熱を理解した。汗をかいていることを知ると、無理やり腕を動かして、頭上にある扇風機を起動する。


 扇風機から発生した自分に向かってくる風が、毛布からはみ出ている皮膚にあたり、体が涼しいと感じる。


 たが、涼しいと感じることは短かった。


 扇風機が首降り状態のままだったのだ。


 一定の感覚を保って涼しいという感覚が意識に襲ってくる。その余韻はすぐに無くなり、暑いという感覚が戻ってくる。首降り状態をやめるためには、羽の後ろにある棒を上に挙げなければいけない。そこまでする気力は無かった。


 そのまま、首を降り続ける扇風機を眺めていた。


 何も考えないでいても、体の奥底から思考が浮かび上がってくる。


 羽の回転数は何RPMだろうか?羽が傾いているから、前方に風が送られているんだよな。揚力だっけ?飛行機にもにたような仕組みが使われているよな。首を振るのはどうやっているのだろう、回転の端にリミットスイッチのようななにかを配置して回転方向を切り替えているのだろうか?でも、それだと金額や面積がか大きくなるから、一定の回転で方向が変わるように何種類かのリンク機構が使われているんだろうな。そういえば、バーチャルで彼女と遊ぶゲームの体験版に扇風機になれるモードがあったような気がする。あれの本編やったこと無いんだよな。やろうとも思わないけど。


 調べればすぐに出てくるような内容も調べずに思い浮かんだまま思考を出す。


 時間はあっという間に過ぎていく。


 扇風機に飽きれば、部屋のなかにある他のもの、外の景色、空気に目を向けた。


 それから数日が過ぎた。


 意識を向けるものがなくなったのか、意識を向けることに飽きたのかわからないが、いつの間にか自分自身に意識を向けていた。自問自答を繰り返す。


 なぜ自殺をしようとしてしまったのか、何がしたかったのか、これからどうしていくのか、これからどうしたいのか、等。


 なぜ自殺をしようとしてしまったのか、それは生きる意味がわからなくなったから。

 何がしたかったのか、それは誰にも迷惑をかけないようにして自殺したかった。

 これからどうしていくのか、それはわからない。死ねないなら生きていくしかない。

 これからどうしたいのか。それは早く死にたい。


 結局、早く死にたい。でも、自殺は出来ない。それなら、生きていくしかない。その為には、お金が必要である。それを手にいれるには労働力を提供するしか手段を持っていない。今は何もしたくない。何もしないなら死ぬしかない。というように永遠とループをしていた。


 その思考すらも面倒と感じると、意識は隣のへやから聞こえてくるニュースの声に意識を向けた。流れてくるニュースの中で、誰かが殺されたや、崖から転落して死んでしまった、学校のいじめで自殺などの死に関わるニュースばかりに気が向いた。


 なぜ、私よりも早く死んでしまうのか。ずるい。という怒りや変わってあげたいなという願いも浮かび上がっていく。


 そんなことを思っても何も変わらないが。




 誰かが言っていた。この世は全てゲームだと。


 親による勝手なキャラクターメイキング。生まれた瞬間に決まる資産や環境による、パラメーターの成長度合い。親や周囲の環境による、膨大な数の決められたサブクエストや、メインクエスト。


 行動は自由でも、出来ることが決められている。裕福な家庭ほど出来る行動は多い、貧乏な家庭ほど出来ることは少ない。


 結局は金だと、金さえあれば大抵何でも出来ると。


 そこで、想像する。もし今の自分がお金持ちだったらと、そうすれば現状を打破できるかと。


 答えは否である。何でも出来るは、何でもしようと思う、とは全くの別物だと思う。自分に足りないのは、何かをしようとするやる気。何もしなくても生きていける。それこそ法律で最低限度の生活は守られているからだ。


 そんなことを思った。


 生まれた頃から、あらゆるものが恵まれていれば今とは何が変わっていたかもしれない。でもそれは、「たられば」の世界の話である。自分が生きているのは「今」の世界。架空の世界を想像してもそれは、時間を潰すためにしかならない。


 今を変えるには何かをしなければならない、だが、今を変えるためのやる気がない。


 今が一番楽だから、今の生活を変えられない。ぬるま湯のお風呂に浸かっていると出たくなくなるような気持ちだ。気持ちいいから抜け出せない。始めから熱いお湯であれば、足を入れただけですぐ出てしまうのに。


 なんだかんだいって今の生活が楽なのだ。


 会社に行かなくてもいい。家事をしなくても良い、何もしなくて良い。


 何も成長しない代わりに、常に楽が手にはいる。楽しくはないが。


 そんなことに一ヶ月たってやっと気づいた。


 結局、自分から動き出すしかない。待っていても何も始まらない。とある女子高生が「待ってても来ない人には待たない。自分から行くの」と言っていた。


 最も時間が経っていればその考えすらも消えていたはず。完全なニートになっていたかもしれない。まあ、実家は裕福ではないから、散財して行く宛が無くなっていたかもしれないが。


 さしあたっては何をしようか?


 まずはとても簡単なことから始めよう。いきなり無理してもすぐに体を壊してしまう。生活リズムはバラバラだから、それを整えることから始めよう。


 自分のしたいことは何か?


 今すぐで良いから死にたいと思う。それだけは変わらない。でも、自殺は出来ない。じゃあ、どうするか。自分から死にやすい場所にいって、死ぬのを待つしかない。部屋のなかにいると死ぬ可能性はゼロに近い。それこそ台風や地震でしか死ねないだろうか。


 だから、外に出よう。今じゃなくても良いから、必ず外に出よう。会いたいのは無差別殺人をしてくれる人。動機は「かっとなってやった、別に誰でも良かった、後悔はしていない」辺りが無難だろう。是非とも会いたい。


 そして、ふと思ったのが日記を書くこと。書く内容は何でも良い。何行でも良い。絶対なのは毎日書くこと。日記を書くことを日課にする事。じゃないと日記と言えないしね。


 今のメインクエストは誰かや何かによって死ねること。期限は寿命。


 死ねないから生きているのではなく、死ぬために生きてみよう。そう思った。


 日記は死んだあとに誰かにこの思いを伝える手段にしようか。


 恐らくだが、誰かによって殺されることは無いだろうと思う。だって、日本は安全だし、そもそも、自分も安全に配慮して行動しているから。自分から死にに行くことは出来ない。だって怖いから。


 だから、裏のメインクエストは生きたいと思えるものを見つけること。それは、結婚したから死ねなくなったでも良いし、人生をかけてやりたいことを見つけたでも良いし。何でも良い。


 願わくばそれを見つけて、それまでに書いた日記がこの暗い感情を伝える手段ではなく。黒歴史として自分自身で誰かに伝えられたら良いなと思う。


 これから先の未来なんてわからないけど、当たり前だけど、死ぬまで生きてみようと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ