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とある死志望者の日記  作者: 冬真 春
今に至るための過程
1/14

前書き 1

 二十歳になって10カ月が過ぎた、ある月曜日の午前0時、ふと自殺しようと思った。


 昨日、久しぶりに友達と映画を観に行って、楽しいと思ったからだろうか?また、明日から会社に行かなければいけないと思ったからか?理由はわからない。ただ、そう思ってしまった。


 前回、自殺しようとした時に使った、スーパーで買った安物の包丁を押し入れから出して、上着を脱ぎ、上半身裸になって、ベットに横たわる。


 前回は首の頸動脈を狙ったが、振り下ろせなかったので、今回は腹部を刺そうと思った。


 枕に巻いていたタオルを剥がし、口に加える、刺したと時に声を挙げないようにだ。流石に差して直ぐに死ねるとは思ってない。大量出血で死ぬまでには時間がかかる。それまでに、他の部屋の人に気付かれなければいいだけだ。


 包丁を逆さに両手で持つ。そして、へその左側辺りに包丁の先端を当てる。指す場所を間違えないようにするために。


 包丁を上に上げ、目を瞑る。あとは、振り下ろすだけ。


 そこでどうしても想像してしまう。振り下ろした後の事を。

 腹部に包丁を刺す。包丁が入ってくるのを拒むような骨も筋肉も無い。するりと入っていくだろう。そして、その痛みが全身を走る。ここで終わりではない。刺した包丁を抜かなければ出血のスピードが上がらない。刺すだけでも死ぬほど痛いはずなのに、抜かなければならない。そして包丁を抜くと、包丁が刺さっていた穴から血が噴き出す。まだ終わりではない。そこから、意識が無くなるまでの間、声を挙げないように耐えなければならない。そうして、ようやく死を迎えることが出来る。


 一連を流れが頭のなかを周り、呼吸は荒くなり、心臓の鼓動が早くなる。全身が熱くなり、手はじんわりと汗をかく。


 どうしても振り下ろせない。


 両手をゆっくりと降ろし、包丁をベットの端に置いて、口に咥えていたタオルで手汗をふく。そして、包丁を両手で持ち、構える。


 どうしても振り下ろせない。


 そうやって同じ事を繰り返す。


 今までさんざん流されて生きてきた。流される事を選んで生きてきた。将来の夢も、将来の姿も見えない、高校は家が近いからという理由で工業高校を選んだ、大学進学は考えていなく、就職先は適当に、福利厚生と賃金が良さそうなところを選んだ。


 それから2年と少し、その会社で働いてきた。

 なんとなく会社にいって、その日の仕事をして、帰ってきて、ご飯を食べて、次の日に必要なことを用意して、時間があればパソコンをつけて、ゲームをする。たまに同僚や、友達と遊んだり、飯を食いにいく。そんな毎日。


 ただ、良い未来が見えなかった。このまま生きていっても、何になるのかと。このまま年をとって、良い人と巡りあって、結婚したり、子供が生まれたり、自分の会社での立場が上になったり、頭髪の無い部分が増えたり、そうやって生きていって何になるのかと。結局死ぬだけじゃないか。なら、今死んでも何も変わらないのではないかと思ったのが始まりだった。


 初めて自殺を考えたのは、二ヶ月ほど前の日曜日である。


 私用の帰り、電車の中で窓から景色を眺めている時に、自殺しようと思ってしまった。

 原因はわからない。最近の業務がきつかったから、疲労がたまっていたのかもしれない。その日見に行った映画が、人生や死について触れた作品だったから自殺という死の方法を思い付いてしまったのかもしれない。


 ただ、思ってしまったことは止められない。


 最寄り駅に着き、近所のスーパーで包丁を買う。


 そのまま自宅に帰って来た。


 刺殺を選んだのには理由がある。


 選択肢として、刺殺、首吊り、呼吸困難による窒息死の三つがあったが、首吊りは縄を吊れるような頑丈な場所がなかったこと、呼吸困難による窒息死については、睡眠薬をてにいれる手段が思いつかなかったから、すぐ手にはいる包丁を使った刺殺を選んだ。


 結局は刺す勇気がなかったから出来なかったが。



 二回目の今回は、月曜日だから出来ると思っていた。

 会社に行きたくなければ、死ぬしかない。

 死なないのなら、会社にいくしかない。

 この二択を自分に提示した。


 その上で、自殺の動作を行った瞬間、死ぬしかないという選択肢しか残ってないので、死ねると思っていた。


 上司に相談する、同僚に相談する、無断で欠席するなどの選択肢ははなから頭の中になかった。


 包丁を構え、想像する、包丁を降ろし、手を拭きまた構える。という動作を永遠と繰り返していたとき、頭元においていた、携帯が鳴り出した。


 5時を知らせるアラームである。


 今回も死ねなかった。

 

 包丁をお腹の上に横に乗せ、手を離す。


 そうして、意識を無くした。

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