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瀬世界の金魚王子

作者: 辻 ミモザ

井世界の金魚姫の続編です。

 こんなはずじゃなかった。

狭い水槽から広い世界に飛び出せば素敵な仲間と知り合い、素敵な所を泳ぎまわれる、金魚姫はそう考えていた。

けれども、新しい世界は流の早い浅い川だった、水はなんだかいやな匂いがした。

らんちゅうは泳ぐのが苦手だ、ひれは飾りのようなもので動かしても前には進めず、流にのまれるように流されて、やっとゆるやかな淵にたどりついた。

 淵の水はもっと臭かった、川底は泥で濁り底が見えない、野菜くずやブリキの缶が浮いてたり、沈んでいたり、こんな汚ない所に誰かいるのだろうか金魚姫は辺りを見回した。

その時目の前を黒い小魚が通りすぎた、

「あの、ここは、」

話かけようとした瞬間だった、目の前の小魚は大きなはさみのような物につかまれて、体を激しく動かしていた。はさみの持ち主は小魚に長い筒のような口をつきたてていた、小魚の激しい動きが段々としなくなっていく。はさみが小魚を離すと、それは野菜くずのようになっていた。

金魚姫は突然次は自分がああなるのだと感じた。はさみの持ち主がこちらを見たような気がした。金魚姫は川底の泥の中に精一杯の泳ぎで潜り込んだ。

 そこはもっと臭くて、どろどろして気持ちの悪い場所だった。でも浮かぶとあのはさみが待っている、とにかくじっとしているしかなかった。

赤い色は目立った、だから石の間やブリキ缶のそれも赤いのを探して逃げこんだ。

ひらひらしたひれは見つかりやすいし早く泳げなかったが、懸命に動かしてスピードをつけた。

ぷくぷくとした瘤は泥にもぐりこんだり水草を押し分ける内に固くなっていった。

どうにか金魚姫は新しい世界で生きていけるようになった。

金魚姫の姿は回りの魚や、水生昆虫とは違ったので、みんなじろじろ見ていた。そしてこんな陰口が聞こえてきた。

「あんな目立つ色で、ばたばた泳いできっと鳥や大きな魚に見つかっちゃうよ。近くによっちゃ危ないよ。」

友達ができないのはそのせいか、めだかや小魚がおしゃべりしながらかたまって泳いでいるのがうらやましかった金魚姫は落ち込だ。新しい世界、新しい友達、こんなに難しとはあの狭い水槽の中では考えてもみなかった。

ある日、ブリキ缶の中から小魚達を見ていると、水面の上の気配を金魚姫は感じた、いつも狙われているので、感覚がとぎすまされていたのだ。鳥だ、あの子達が狙われている。その時、金魚姫は安全なブリキ缶から飛びだした。思いっきりひれをばたばたと動かした。鳥のくちばしは金魚姫におそいかかった、金魚姫はひれをぐいっと動かし缶に入り込んだ。くちばしは水だけをくわえた。

「ありがとう」「ありがとう」小魚達は喜んだ。

そして友達が増えていった。金魚姫は逃げ込む石の間や缶のあるところがくわしかった。目立つ姿で気を引き力強いひれの動きで逃げ切るのがうまっかた。小さな魚達はいつしか金魚姫の近くで生き延びられるようになった。

小魚達はいつしか、金魚姫の事をこの瀬の王子様と言うようになった。固い瘤は王冠の様で、力強いひれはマント様だった。そして、赤い色はいつのまにか、白い水面の波の様な銀色になっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 外の世界に憧れていた金魚姫ですが、憧れと現実は違うと言います通り、色々な苦労がありましたね。最後は鳥に食べられてしまうのではとハラハラしていましたが、勇気を振り絞って魚を助けた結果、王子様に…
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