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9話
「光輝、どうした?」
匠海が不思議そうに応答する。
電話の向こう側から他のメンバーの声が聞こえる。
「沙弥に言われたんだよね…。」
沙弥に言われたこと全てを打ち明けた。
匠海なら何かを知っている、と思った。
「知ってるよ。沙弥ちゃんから電話があった。『どうしよう』って言ってた。沙弥ちゃんからの相談が最近多いんだ。どうかしたのかな?」
やはり知っていた。
今日のことも、最近のこと。
兄である俺ですら知らなかったことも。
俺は沙弥の一番の理解者ではなかった。
沙弥の一番の理解者は匠海だった。
悔しかった。
悔しいの一言に尽きる。
一緒に暮らす時間の短かった俺は沙弥にとって『優しい男子』という存在だったのかもしれない。
それに離れて暮らすようになってから、ろくに連絡も取り合っていない。
だから年に数回帰ってきた時が兄妹の大切な時間だった。
それに対して沙弥を本当の妹のように可愛がる匠海を、俺より近い存在だと思っていたのだろう。
もうこれから後悔しても意味はない。過ぎ去った過去は取り戻せないから。
だからこそ、沙弥の傍にずっと居ようと決心したのだ。