32話
『光輝、頑張ろうな。』
長椅子に座って考え事をしていた俺の隣に匠海が座り、『元気出しなよ』と言うかのように背中を軽くたたく。
「ありがとう。最初、頑張ってね。」
『もちろんさ!光輝こそ間違えんなよ。』
俺に元気を出させようという明るい口調だったが、そう言われるともっと緊張してミスをしてしまいそうで怖さがより一層増した。
俺はこんな性格だから、何事にも勇気が出せないのだ。
分かってはいる。
それに、この性格のせいで多大な迷惑をかけていることだって重々承知している。
それでも直すことができない。
それが悔しいのだ。
『無理すんなよ。俺は光輝を応援するって決めたんだから。一人じゃないよ。』
「ありがとな。」
俺は匠海の笑顔に救われた。
心がふわっと飛んでいくような気持になった。
不安も困難も匠海となら乗り越えていける気がした。
開演15分前。
メンバーが集まってきた。
匠海の掛け声で円陣を組む。
一人一人がこのライブへの決意などを言っていく中、俺は心ここにあらずの状態だった。
そして円陣が終わると、みんなが所定の位置へ向かった。
俺は影からメンバーを見守った。
その時、俺は独りぽっちのような気持ちになった。




