26話
8月13日
事務所から電話があって3日が経過した。
『戻るべき』か『戻らないべき』かを選択することが俺にとっては難しい問題だった。
それでも俺一人では決心することができなかった。
事務所はいいと言ってくれていても、lemonのみんなはどう思っているか分からない。
俺は『戻ってきてほしい』と言われたことすらメンバーには言えないでいた。
だが、決断を早くしないといけない。
最終手段として匠海に相談することにした。
電話をかけるだけでかなり勇気がいった。
なぜなら、この電話が匠海の負担になっていたらどうしよう、と思ってしまうからである。
「もしもし。急にごめんな。」
『どうした?今、俺も電話しようと思ってた。』
匠海は相変わらず元気そうだった。
声がいつものように生き生きしていた。
「言われたんだ。『lemonに戻ってきてほしい』って。」
全てを伝えた。
俺の思い全てを。
悩んでいる理由全てを。
匠海は最後まで聞いてくれた。
まるで自分の事のように。
『それ、沙弥ちゃんの願い。』
「願い?」
俺はよく分からなかった。
沙弥の願い?
何も知らない俺は匠海に聞いた。
そこで初めて知った。
俺がlemonに戻れるよう、きっかけを作ってくれたのは沙弥だったということを。
その中で沙弥が悩んでいたことを知った。
俺は沙弥の悩み全てを知っているつもりだった。
だが、そうではなかった。
沙弥の悩み。
それは俺がここにいることだった。
lemonを脱退し、実家で過ごすようになった。
アルバイトを始め、これまでと生活が一変した。
当たり前などないということを改めて気付かされた。
そして何より『沙弥優先』となった。
そのことが沙弥は嫌だったのだ。
いつの間にか俺は忘れてしまっていた。
俺の原点であるlemonを。
lemonで過ごしてきた大切な日々を。
そして、思い出を。




