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22話
『お兄ちゃんが暗い顔しないでよ。一番怖いのは沙弥なんだから。』
気付けば暗い顔をしていたみたいだ。
「そうだな。ごめん。」
俺は謝っていた。
暗い顔のまま。
俺は沙弥を逆に心配させてしまっていた。
『もっと笑ってよ。お兄ちゃんらしくない。』
笑えるはずなどなかった。
俺も怖いのだから。
考えたくもないが、手術中何かあったらどうしようと考えてしまう。
だが、一番怖いのは沙弥だ。
手術はスタート地点でしかない。
今後リハビリと戦っていくのは沙弥だし、俺よりたくさんの困難にぶつかっていくかもしれない。
いくらそうだとしても俺も怖いということに変わりはない。
沙弥を支えていく自信なんて俺にはない。
笑顔にする自信もない。
そんな思いが俺を恐怖へと陥れている原因であろう。
『沙弥は大丈夫だから。行ってくるね。』
「あぁ。頑張れよ。」
俺は震えている沙弥の手をギュッと握った。
力強く。
他に俺は何もすることができなかった。




