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21話
俺にとって一番辛いことは沙弥の辛い顔を見ている時。
沙弥が泣いているときは俺も泣きたくなる。
最近は沙弥の笑顔でも苦しくなったりする。
沙弥の嗤う回数は明らかに減った。
その笑顔も作り笑顔だし、俺を安心させるための道具としか思っていないだろう。
俺はその笑顔に苦しめられている。
だが、それは沙弥が考えてくれていることだから俺は何も言えない
いろいろと考えていたら病院に到着した。
本来ならば走ってはいけない病院の廊下を小走りで進む。
一秒でもはやく沙弥に会いたかった。
扉をぐいと開けて中に入る。
「沙弥、頑張れよ。」
無理矢理笑顔を作って笑って見せる。
俺が沙弥にしてやれることはこれくらいしかない。
ただ安心させることだけ。
『うん。大丈夫だよ。』
沙弥は『大丈夫』とは言うけど、どこからどう見ても大丈夫そうには見えない。
沙弥の手は震えていた。
それに笑顔はなかった。
辛いに決まっている。
これから移植手術なのだから。
それも心臓の。
俺は沙弥の前で何もできなかった。
俺は無力だった。




