16話
『お兄ちゃん、ごめんなさい。』
「いきなりどうしたんだよ…」
突然謝られても状況がよく理解できないし、なぜ謝られているのか分からない。
『脱退したのって、沙弥のせいだよね…』
「えっ、」
驚いた。
まさか沙弥が知っているとは思っていなかった。
ニュースになっているから知っててもおかしくはない。
それに、知っていることが普通なのかもしれない。
とはいえ、沙弥が自分自身を責めている原因となっているかもしれない、と思うと胸がえぐられるような思いになった。
「思ったんだよ。沙弥を一人にさせて、この仕事やってる意味あるのかなって。」
『お兄ちゃんがいたから元気になれた人、たくさんいるよ』
沙弥があまりに早く答えるもんだから、それだけ思いが強いんだと思うことを悟った。
「沙弥も守れないのにたくさんの人を笑顔になんてできない」
下を向いていた俺の顔を覗き込んで沙弥が聞いてきた。
『後悔しない?』
俺はまだはっきり言える程、決心が固まっていなかった。
「分からない…。だから後悔しないように生きなくちゃね。」
『お兄ちゃん、ありがとう』
「治ったらライブ連れてってあげるよ。」
『やったー!いいの?』
沙弥の顔がパッと明るくなった。
今までの中で最高の笑顔が沙弥の顔に浮かんでいた。




