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14話
面談室は殺風景な部屋だった。
机と椅子、ホワイトボードが置かれているだけだ。
椅子には沙弥と俺が座っている。
『お待たせしました。』
葵さんが扉をぐいと開き、室内に入って言った。
昨日の葵さんとは全くの別人に見えた。
『橘沙弥さんとそのお兄さんですね。担当医の三澄葵です。』
沙弥と俺の顔をざっと見るなり笑顔で言った。
「はい…。あの。」
『今後の治療についての説明でしたよね。』
葵さん?
いや、葵先生の口調は優しく、不安を和らげてくれているようだった。
自分の命に真正面から立ち向かっていく沙弥の姿は、尊敬しなければいけないな、と思う。
それに対して俺は、何もできずにいた。
話を聞いてもまったく耳に入ってこない。
「お兄さん?」
急に呼ばれて驚く。
「お兄ちゃん?」
沙弥が俺の顔を覗き込む。
「お願いします。」
俺は何の話をしていたのか、全く分からなかった。
その場しのぎのために、ただ「お願いします」とだけ言った。
先生の話を聞いていなかったわけではない。
むしろ聞いていた。
そして正面から命と向き合おうとしていた。
それなのに。。。
胸がギューッと絞めつけられて痛かった。




