13話
5月20日
「今度遊びに来てよ」
『うん。またね』
病院の外のベンチに座り匠海と電話をしていた。
匠海は毎日のように忙しい中、電話をかけてくれる。
そのおかげもあってか、1人ではないんだ、と思うことができる。
『光輝君?』
後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
女性の声だ。
「葵さん」
葵さんとは、匠海の姉のこと。
沙弥の担当医でもある。
とはいえ、あまり話したことがない。
『久しぶりだね。ちょっといいかな。』
「いいですよ」と言い、席をあける。
『最近会ったけどねー』
「えっ?会いました?」
俺には全く心当たりがなかった。
しかも最近。
それなら、なおさら分からない。
『光輝君の最後のライブに行ったの。』
「そうなんですね。連絡してくれたら会えてましたよ」
『本気なの?脱退。」
「どうして知ってるんですか?」
今日の朝はまだニュースになっていなかった。
そのため不思議に思った。
『さっきニュースになってた。』
今回のことで事務所がジタバタして報告が遅くなったのであろう。
「本気です。沙弥の傍にいるために。」
力強く答えた。
こうでもしないといつか後悔してしまうと思った。
『光輝君の思いが聞けて良かった。支えてあげてね。』
「はい。」
『また明日の面談の時に。』
そういうと葵さんは仕事に戻っていった。
この広い空の下、深くため息をついた。




