11話
5月13日
朝の9時。
携帯電話のけたたましい着信音で目が覚める。
実家に帰省してからぐうたらしかしていない。
枕元に置いていた携帯電話を手に取り、耳に当てる。
「光輝!何してんだよ?」
匠海からだった。
怒りのこもった口調だ。
「おはよ。どした?」
吞気に答える。まだ寝起きなので脳内で整理ができていない。
それに匠海から電話がくる意味も分からない。
「どうしたじゃない!沙弥ちゃんに会いに行かないのかよ?訊いてんだけど。」
驚いた。
そして、『沙弥に何を話せばいいのか分からない』と話した。
「は?兄弟なんだろ?姉ちゃんからの連絡がうるさいんだよ。」
匠海の姉は沙弥の入院している病院で医師として勤務している。
確か沙弥の担当医だった気がする。
匠海の姉とは数回遊んだことのある程度なので、すっかり忘れられている、と思っていた。
「沙弥ちゃん泣いているんだよ。泣くと心臓に悪いんだよ。沙弥ちゃんは泣かないように我慢してるけどダメなんだよ。この間のこと後悔してるんだよ。」
匠海が泣きそうな声で言うもんだから、何も言い返せなかった。
しばらく沈黙が続いた。
「沙弥ちゃんを守るんじゃなかったのかよ。」
電話口の向こう側から匠海に叱られる。
匠海に言われずとも分かっている。
沙弥に会いに行かないといけないことも、守ると決めたことも。
でもいざ行動するとなると勇気が出ない。
「いろいろ大変かもしれないけど、今日中に沙弥ちゃんに会って…。」
「……分かった。」
数語挨拶を交わすと電話が切れた。
俺はベットの上で仰向けになり呟く。
「沙弥…。」
急に落ち着かなくなり部屋を見回す。
すると、机の上の白い封筒が目に入る。
ん?
こんな封筒あったっけ?
気になって開封してみる。
手紙だ。しかも沙弥の字ではないか。
お兄ちゃんへ
お仕事お疲れ様。昨日はごめんなさい。病気のことも黙っていてごめんなさい。
会って話がしたい。もう長くないかもしれないから。
21日、面談だから
これは正真正銘、沙弥が書いたもの。
その手紙を読むと俺には使命がある気がした。
そう思うと勝手に足が動く。
気付けば沙弥の病室の前にいた。




