1話
「俺、今日でグループ脱退する」
突然の報告でメンバーを困らせてしまった。
これまで同じ未来を目指してきた俺、光輝の脱退は、メンバーにとって悲しい出来事であったに違いない。
メンバーに伝えたのは今日だが、心の中でしばらく前から決めていたことだ。
今後のことは事務所と話し合い、既に決定している。
グループとしての活動は楽しかった。
メンバーと過ごした日々は宝物。
正直脱退などしたくもなかった。
ずっと皆と歌っていたかった。
しかし、現実はそんな単純なものではなかった。
俺は5年前からグループで活動するようになった。
そのグループの名前は lemon
秋・匠海・真宙・祐稀と俺の5人で活動してきた。
この5人だったからこそ、どんな高い壁も突破することができた。
脱退を選んだのには理由がある。
俺のただ1人の家族、中学生の妹、沙弥のためだ。
俺と沙弥には両親がいない。沙弥は親戚に育てられている。沙弥の傍に俺がいるはずだが、遠く離れて暮らしている。
沙弥の心に寄り添えるのは今しかないと思った。
沙弥は重い病気を患っている。
その大切なことをつい先日知った。
沙弥がその病気を患ったのは小学5年生の頃。
親戚も沙弥自身も俺にはずっと黙っていた。きっと、俺の仕事を心配しての対応だったのだろう。
昨年、実家へ帰った時は元気そうだった。
買い物へ一緒に行ったり、沙弥の好きなお好み焼きを食べに行ったりした。
たまに咳き込んでいる様子もあったが、至って普通だった。
先日、親戚から電話がかかってきた。
そこで沙弥の病気のことを知った。
その翌日はライブだった。
そのため、動揺を隠していようと心掛けた。
しかしリハーサルでミスを連発し、メンバーや関係者に迷惑をかけてしまった。
ライブ本番はミスなく成功したものの、心の底から思う良いパフォーマンスをすることはできなかった。
このままではメンバーにも応援してくれているファンの方々にも示しがつかない、と思った。
だから、苦渋の決断を選ばざるを得ず、脱退を決意した。