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麻耶 P2

 11月 10日 (金)


 一階女子トイレの中で叫ぶ私。

 悔しい。悔しくて堪らない。なんで一度も、あの男に勝てないのか。


「バカ……バカバカ……なんで私……こんな頭悪いの?」


 壁に頭を打ち付ける。

 こんな悪い頭など持っていても意味が無い。

 あの男に勝てない頭なんて……。


「おーい、麻耶ー?」


 外からノックしながら話しかけて来る女子。

 私の数少ない友人の一人、藤崎 瑠衣だ。ちなみに学年十位。


 鍵を開け、中へと招く私。

 そのまま瑠衣の豊満な胸へと抱き付いた。


「うぅぅぅぅ、瑠衣……ダメだった……私、また負けた……」


「うんうん、でも麻耶も頑張ったよ。今日の帰りは私が奢るからさ、美味しいシュークリームでも……」


「……食べる……」


 そのまま力いっぱい抱きしめる私。

 あぁ、柔らかい。瑠衣には勉強で勝ってるけど、顔もスタイルも敵う気がしない。


「そんな事ないけどなぁー? スタイルはともかく、麻耶は可愛いと思うで?」


「スタイルは……ともかく……」


 自分のまな板を見つめる私。

 物の見事に膨らみが無い。女として重要なパーツが。


「まあまあ、ほら、そんな気ぃ落とさんで。次はぁ……冬の期末テストで勝負だ!」


 クリスマスの前に行われるテストだ。

 正直、冬の期末はそこまで難しい内容じゃない。普通に授業を受けていれば誰でも満点取れるレベルだ。


「いやいや、無理やって。そんな事出来るの麻耶とリオ君だけやって……」


「そうよ……あの男も出来るって所が問題なのよ。はぁー……もうどんな手を使ってでも……一回くらいは一位取りたい……」


「ほほぅ? どんな手をも?」


 ニタリ、と笑う瑠衣。

 ぁ、これは良くない事を考えている顔だ。逃げなければ。


「まあまあ、待ちぃ。知ってる? リオ君の……好みのタ・イ・プ……」


「は、はぁ? なんの話……」


「だからぁ……リオ君はどんな女の子が好みかって話。前にさ……男子と話してる所聞いちゃったんよ。そしたら……ゴニョゴニョ……」


 ……え?

 私?! 私が好みのタイプ?!


「そうみたい。麻耶と口利けなくて寂しい~って言ってたよー?」


 それは嘘だ。あの男の口からそんな……


「あの男あの男って……会話もした事あらへんのに……」


「な、無いけど……ムカつくのよ! 学年一位で、しかも妹は超絶美女……あの男も顔も悪くないし、運動も出来ないわけじゃないし、さりげなく優しいし、笑顔は爽やかだし、男子にも人気あるし……」


「え、えっと……もしもーし?」


「身長は高すぎず低すぎずだし、物静かだけど暗いってワケじゃ無いし、さりげなく優しいし……」


「それさっきも言ったよ? って言うか……何気に見すぎじゃない? もしかして麻耶……」


 ぁ、私何言って……違う!

 あぁ、なんか恥ずかしい……別に観察してるわけじゃない!


 そう、これは憎しみゆえ……つい見てしまうだけで……。


「ふーん? まあいいや……それで話戻すけど、リオ君は麻耶の事が気になって仕方ないみたいだよー? だから……」


「は?! 気になる?! あの男……学年一位で妹も美人で……顔も悪くないし、さりげなく優しいし……」


「いや、もうそれいいから。それでさ、次の期末テスト……どんな手をも使って一位取りたいんだよねー?」


 ん? ま、まあ……卒業する前に一度くらいは……。


「こういうのはどう? ゴニョゴニョ……ゴニョーニョニョ……」


「……は、はいぃぃ?!」




 ※




 放課後、震える手で下駄箱に手を伸ばす私。

 ちなみに私の下駄箱では無い。この下駄箱には……あの男の靴が入っている。


「ほら、がんばって」


「うぅ……」


 隣りには瑠衣。そっと昼休みにしたためた手紙を、隙間から投函する。

 手紙の内容は……いわゆる恋文、ラブ……ラブレター。


「はい、じゃあ明日の放課後が楽しみやね。リオ君やったら絶対来てくれると思うよ」


「うぅぅうぅぅ、わ、私は……こんな手段使ってまで勝ちたいわけじゃ……」


「今さら何言うとるん。下駄箱、鍵掛かっとるから……もう回収できへんよ?」


 じ……っと下駄箱を見つめる。

 去年、不審者が侵入して上履きを盗んだ事件が発生したらしく、下駄箱には一つ一つに鍵が付けられたのだ。なので今更後悔しても遅い。もうこの手紙は、あの男に読まれる事は確定しているのだ。


「ほら、じゃあシュークリーム食べに行こ? 約束通り奢ったるから」


「うぅ……お腹一杯たべてやる……」


 そのまま学校を後にし、駅前の洋菓子店へと赴く。

 店内には、私達が通う高校の生徒達もチラホラといる。


「いらっしゃいませー。二名様で宜しいですか?」


 店員に頷きつつ、テーブルへと着く私達。

 メニューを手渡され、とりあえずココアとシュークリームを注文。


「はぁ……」


 思わず溜息が出る。

 今更後悔しても遅い。もう賽は投げられたのだから。


「ほらほら、明日はちゃんと……先生に怒られない程度にお化粧してくるんやよ? ぁ、学校で私がしてあげよっか?」


「うん……頼む……って! べ、別に私は断られたって問題ない……」


「それじゃあ作戦失敗じゃん……ちゃーんと、リオ君の気を引かないとねー? 勉強が手に付かないくらい」


 そう、作戦とはそういう事だ。

 私自身が、あの男の気を引いて勉強をさせなくする。

 そして私が冬の期末で一位を取るのだ。


「まあ、そのまま普通に付き合っちゃってもいいと思うけど」


「は、はぁ?! いやよ! 誰があんな男と……そりゃ確かに? 顔は悪くないし、笑顔は爽やかだし、さりげなく優しいし……」


「はいはい。もうそれはいいから……ぁ、それはそうと、文化祭の演目……無事にロミジュリに決定だって。まあ進学科だしね。当然っちゃ当然だけど……」


 文化祭の演目。今回のテストはその争奪戦だったのだ。

 うちの高校には十の科がある。進学科の外に情報技術科、工業科、商業科、農業科等々。

 科ごとに総合点で一位から十位まで決め、順番に文化祭での演目を選択できるというシステムだ。


 ちなみに毎回、大抵一番人気はロミジュリ。超有名な恋愛悲劇だ。

 しかしロミジュリを公演出来るのは三年のみ。つまり、他の科の三年も今回のテストはかなり気合を入れていく。

 進学科だから余裕だと思っていると足元をすくわれてしまうのだ。


「折角だからさぁ……麻耶がジュリエット役すれば? それでリオ君がぁ……」


「む、無理……っていうか、瑠衣は知ってるでしょ? 私が凄まじく演技とか下手くそだって……」


 瑠衣とは中学から同じだが、毎年行われる文化祭の劇で私はいつもセリフは棒読みだ。


「緊張でガチガチになって……まるでロボットみたいに……って、ぁ……ごめ……」


「いいんやよ、そんなんで謝らんといてやー」


 この子、瑠衣はFDWだ。

 人権を与えられたAI。つまりは機械の体に作り物の心。


 でも私は瑠衣の事を作り物なんて考えた事は無い。いつでも普通の友達として接してきた。

 瑠衣の事をロボットなんて……私は考えた事……


「いいんやって、だってロボットやもん。いくら人権与えられた言うても……な」


「わ、私は……えと……その……」




「お待たせしましたーっ、ココア二つにサツマイモシュークリーム二つですー」


 店員が私達の前に注文した物を並べていく。

 それを目で追いながら、私は瑠衣の目を見つめた。


 人間と変わらない瞳


 美味しそうにシュークリームを頬張る姿


「ほーら、いつまで……しょぼくれた顔してんの。食べんのなら私が貰うで?」


「……うん……いただきます……」



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