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リオ P23

 本日は俺の誕生日。

 今年で俺も十八歳だ。これで堂々と十八禁のあれやこれやが堂々と見れる。


「兄様……いやらしい」


「いや、俺はどちらかというとグロッキーな映画を想像してたんだが……シアは何を想像したんだ。是非教えてほしい」


「○○や○○○。それと○○○○ー○とかですかね」


 ぎゃぁぁぁ!

 俺のシアが! 妹が! 伏字ばっかで何言ってるか分からんけども!


【注意:何が入るか想像してみよう!(ごめんなさい、もうしません)】


 なんかこの注意書き……どこかで見たような気がする。

 まあ気のせいだろう。


「ところで兄様、何かお土産持っていこうと思うんですが……」


「あぁ、そうか……んー、何がいいかな……」


 家にあるものでお土産として持っていける物と言えば……


 ・お菓子

 ・塩辛

 ・アボガド

 ・ユッケ

 ・たい焼き

 ・ウサギのぬいぐるみ(未開封)


 なんだ、このラインナップ。

 明らかに、コレを持っていけと言わんばかりの「うさぎのぬいぐるみ」が……。


 確かに朝霧母は可愛い物が大好きみたいだが……玄関開けたらデカイぬいぐるみあったし。

 しかし家庭にお邪魔する時のお土産がぬいぐるみって……。


「いいじゃないですか。喜ばれる物をもっていった方がいいと思いますけど……」


「まあ、そうなんだろうけど……じゃあ朝霧父にも何か無いか?」


 んー……とガサゴソ台所の棚を漁り始める我が妹。

 出てくるのはガラクタばかり。


「ぁ、兄様、朝霧さんのお父様はお酒は飲むんでしょうか?」


 どうだろう。

 そうえいば料理は辛口が多かった気がする。


「なら飲む可能性は高いですね。これたぶん父さんが隠してたブランデーだと思いますが……これでどうですか?」


 いや、親父が悲しむんじゃ……見るからに高そうな酒だぞ。


「別に構わないですよ。折角こっちに帰ってきたのに、娘に会いもせずに帰る父親の物なんて」


 うおぅ! も、もしかしてシアさん怒ってる?!

 まあ藤崎の義体……早く弄り回したくて仕方ないって顔してたしな。親父。


「じゃあ、お酒とヌイグルミをお土産に……あとお菓子も持っていきましょう。ご飯およばれするんですから……たい焼きは重いですよね……」


「あぁ、あと塩辛にユッケ……それにアボガドなんて以ての外だ」


 なんか酒のツマミに偏ってる気がする。

 まあ気にしないでおこう。


 準備を終え、荷物を持ち徒歩で駅へと向かう。

 朝霧邸は、ここから三つ先の駅で降りて……そこから徒歩十分程だ。


「楽しみですね、朝霧先輩のお父さん、料理得意なんですよね」


「あぁ、前に食べた時は絶品だったな……思いだすだけでヨダレが止まらん」


 あのお父さん……なんであんなに料理美味いんだ。

 もしかして過去にコックでもしていたんだろうか。



 ※



 そんなこんなで朝霧邸へと到着。

 多少強引な展開だが気にしない。よくある事だ。


「可愛いお家ですね……ぁ、ワンちゃんも居ますよ!」


 玄関の前で鎮座しているマルチーズを見て興奮気味のシア。

 だがすまん、そのワンちゃん……マルチーズは……


『お、きたきた、まっとったでー! シアちゃん、レオ君―っ』


「……え?」


 喋る犬を前にして呆然と立ち尽くすシア。

 べ、べつに今の時代喋る犬なんて珍しくないじゃないか!

 その辺の看板だって喋るんだぞ!


「バウリ○ガルでも装備してるんですか? このワンちゃん……」


『残念ながら装備してへんな。私私、藤崎や。ちょっと事情があって犬の義体に入ってるけど気にせんといて』


 いや、気にするなって言われても無理だろ。

 事情を知ってる俺ですら、凄まじい違和感を感じる。


『ぁ、シアちゃん抱っこしてやーっ、ドア怖いねん』


「は、はい、分かりました、朝霧先輩……」


 マルチーズ朝霧を抱っこするシア。

 そのまま俺が玄関の扉を開けて中へ。するとパタパタと朝霧母が出迎えてくれる。


「あらあらあらー、ようこそー……って、ん?」


 ぁ、シアを見て驚いてるな、朝霧母……。

 まあ無理も無いか……我が妹は可愛いすぎる。


『どんだけ兄バカなん。レオ君』


 五月蝿い犬! 


 俺とマルチーズ藤崎がコントを繰り広げる中、シアは丁寧にお辞儀しつつ挨拶。

 つられて俺もマルチーズ藤崎もお辞儀する。


「すみません、急にお邪魔してしまって……」


「いえいえー……その子、リオ君の妹さん? 可愛い子ね~。もしかしてハーフ?」


 あ、はい……そうなんです、と言いつつ出されたスリッパに履き替えリビングへ。

 そこには既に料理が並べられていた。おおぅ、お父さん……また凄い張り切ったな。


「ようこそ我が家へ。お、リオ君の妹さん可愛いな。初めまして、麻耶の父です。いつも娘がお世話になってます」


「ぁ、いえ、こちらこそ……朝霧先輩にはお世話に……」


 ふむ。シアは何処でも礼儀正しいな。

 お兄さん安心したぞ。


「ぁ、兄様、お土産を……」


「あぁ、お父さん、これつまらない物ですが……」



 いいつつ紙袋からウサギのぬいぐるみ、ブランデー、お菓子を出す。

 ぬいぐるみは勿論、朝霧母へと。


「わー! 可愛い~! もう今日はこの子と寝るー!」


 朝霧母は大喜びだ!

 よかったよかった……さて、次はブランデーをお父様に……


「こ、これは……リオ君、これ……かなり高いお酒だろう、受け取れないよ」


「いえいえ、いつまでも棚の奥にしまってる親父が悪いんで……飲んで下さい」


「お父さんのか……ノルウェーのお酒……」


 ノルウェーと聞いて朝霧母が微かに反応する。

 ぁ、気付いたかな……俺とシアが……かつて貴方達と同じ高校の同級生だった男の子供だって……。


 朝霧母は首を傾げながら、もしかして、と思ったんだろう。

 恐る恐る、俺に親父の名前を聞いてくる。


「親父は……えっと、本名はハラルド・ナンセン……です」


 それを聞いた瞬間、朝霧夫婦の表情が一変する。

 顔を見合わせ、俺達の顔をマジマジと観察してきれた。


「ハラルド君の子供……?! 噓……こんなことって……」


「な、なんてこった……」


 親父からその辺りの事情を聴いている俺は二人の反応の意味がよくわかる。

 何せクラスメイトだったというだけでも驚きそうなのに、朝霧母にとっては命の恩人なのだ。うちの親父は。


 朝霧夫妻は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 その表情を見て、麻耶も首を傾げている。


「どうしたの? 二人共……」


 麻耶の声で我に戻る二人。

 朝霧母は目を拭いつつ、ウサギのぬいぐるみを抱きしめた。


「ささ、座って座って、今日はリオ君の誕生日なんだから! リオ君は上座に座りなさい!」


 え、えぇ?! そ、そこはお父さんの席でしょう!



 ※



 テーブルの上には、いつかの時のように所せましと料理が並んでいた。

 しかし今回は……お父さん更に張り切ってしまったようで、テーブルの中央には七面鳥が。


「ま、まじか。俺初めて見たわ……」


「私もです……」


 シアと二人で七面鳥を見つめる。

 こ、こんな高級な料理……お高いんでしょう?!


「そんなことないから。遠慮してたら損するぞ」


 七面鳥をフォークとナイフで切り分け、俺とシアの皿に盛りつけてくれるお父さん。


 おぉ……凄くいい匂いする。


『おおー、流石オッサンや。犬の嗅覚センサー敏感すぎて……さっきからヨダレが止まらんで』


 麻耶の膝に鎮座するマルチーズ藤崎。

 まだかまだかとソワソワしている。


「おい藤崎、その犬の義体……人間の飯食っても大丈夫なのか?」


『大丈夫や、間違って百円玉飲みこんでも溶かせるくらいや』


 どんな消化器官してんだ。

 そんな高性能な義体が学校の物置にあるものか?


『あったんやから仕方ないやん。ぁー、おっさん、はよ、はよ、お腹空いたわ、先に乾杯しよ!』


「ん? あぁ、じゃあ……リオ君から何か一言貰おうか」


 七面鳥を切り分けていたお父さんは手を止め、グラスを持ち俺に振ってきた。

 一言か……何を言おうか。

 まあ普通にお礼いいつつ……


「え、えっと……今日はこのような誕生日会を開いて頂きありがとうございます。思えば今まで誕生日パーティーは大抵シアと二人きりでやっててちょっと寂しいなぁーとか思ってたんですけどそれでも可愛い我が妹に祝ってもらえて俺はなんて幸せ者なんだと思いつつ自分がシアの兄として生まれてきて本当によかったと神に感謝する毎日です、それで実は最近シアの部屋で人気アイドルグループの裸同然の写真集を見つけてしまいまして困惑気味であります。しかもそのアイドルグループはシアとそんなに歳の変わらない男の子のグループでして、シアは同年代の裸が見たいのかーと少し心配しております、なんせ藤崎も俺の裸を見せろと迫ってきたことがありまして、その時に味わった恐怖と言ったらもう昔見たホラー映画……ぁ、テレビの中に女の子が吸い込まれる奴なんですけど、あれを見た時と同じくらい藤崎の迫ってくる姿は怖かったといいますか……ぁ、でも今はマルチーズ藤崎だしそんなに怖くはないんですが、むしろ愛くるしくて抱っこしてあげたいって思うくらいでして、俺こう見えても犬とか結構好きなんで。あぁ、それと先日……」


『長-ぃっ! 長い!! 長すぎるわ! 一言や言うとるやろ!』


 むぅ、まだ一時間は喋れるぞ。


『あかん! 切り分けた七面鳥冷めてまうやろ! おっさん、もうリオ君は良いわ! 乾杯や!』


 まあ仕方ない。藤崎の言う通り料理が冷めてしまえば一貫の終わりだ。

 と、朝霧父に注目する。

 するとお父さんは何故か大粒の涙を流して泣いていた。


 な、なんだ……一体何があったんだ!


「うぅ……麻耶も……同年代アイドルの裸同然の雑誌を……」


「ちょ! 父さん?! 私の部屋入ったの?!」


 なんてこった! ガサ入れしなければ!

 そんな写真見るくらいだったら俺の裸を見れ! 


「ぁ、うん……じゃあそれで……」


 おおぅ、なんか麻耶たん素直で可愛い。

 ウフフ、いい子だなぁ……


『って、いつまで待たせるんや! もう私がやる! 乾杯……って……』


 当然犬の前足でグラスが掴める筈が無い。

 悲しそうな顔をするマルチーズ藤崎。そんな藤崎に、俺はそっとグラスを寄せた。


「藤崎、今のやりとりはお前のツッコミを待ってたんだ。ほら、乾杯。あと言い忘れてたけど……今日麻耶を守ってくれてありがとう、お前は最高の友人だ」


『り、リオ君……あんた……いい奴やなぁ……』


 チョン、と前足でグラスと乾杯。

 それを皮切りに皆それぞれ乾杯していく。


 さて……七面鳥を頂こう。

 初めて食べるんだ……味わって食べないと……


 切り分けられた七面鳥に齧り付く。

 むむっ! なんだコレ、ナンダこれ、ナンダコレ!


 本当にナンダコレ! 美味すぎる……なんか、風味というか……香りが凄い。


「何クンクン匂い嗅いでるんですか、兄様。失礼ですよ」


「ぁ、いや……なんか凄い良い匂いしないか、この七面鳥……」


 なんというか……レモンっぽい……いや、でも酸味なんて無いし……


「ハーブですよ。レモンの皮のみじん切りでしょうか……」


 シアは恐る恐る朝霧父に尋ねる。

 あぁ、初対面では結構怖いよな、朝霧父。俺はもう気さくな人だと知っているからいいが。


「良くわかったね、レモンはちょっとしか入れてないのに……詰め物はリンゴにサツマイモにセロリに……あとはパセリか。リンゴとサツマイモは角切りで……」


 むむぅ、朝霧父の料理解説にシアは夢中だ!

 そして俺は食べるのに夢中だ。


『ぁ、レオくん、餃子! 餃子食うてみ! めちゃ美味いで!』


 餃子……? あぁ、ほんとだ。餃子がある!


『美味いでー、ほっぺが落ちるでー』


 そんなにか。どれ……と餃子を一個取り、マルチーズ藤崎の口元に。

 勢いよく齧り付くマルチーズ藤崎。だが口からボロボロ零れてるぞ。


『うまぁ……流石やオッサン……ぁ、リオ君、唐揚げも頂戴なー、私オッサンの唐揚げ大好きなん』


 おおぅ、俺も好きだぞ、と次は唐揚げをマルチーズ藤崎にあげようとすると、麻耶が頬を膨らませているのに気が付いた。


「ま、麻耶さん? どったの?」


「別に……」


『……? ぁっ! レオ君、アーンや! 麻耶にもアーンしたり!』


 アーンって……いや、別に俺は犬にエサを与えていただけであって……アーンをしていたつもりは無いが。


『酷いわー、さっき最高の友人言うとったやん』


 まあ仕方ない。麻耶が怒った顔も可愛いが、俺はやっぱり笑っている顔の方が好きだ。


『無視か』


 毒付くマルチーズ藤崎の頭を撫でつつ、麻耶の口元へと唐揚げを運ぶ。


「麻耶、あーん」


「……ぁ、あーん……」


 顔を赤くしながら唐揚げに齧り付く麻耶。

 うへへ、可愛い……!

 たんとおたべ!


『なんかレオ君……いい笑顔しながら餌付けしおるな。ほら、私達の事はいいからレオ君食べな。おっさんの料理美味いからすぐに無くなってしまうで』


 うむ。

 しかし見事に和、洋、中……揃ってるな。

 天ぷらに味噌汁、オムライスにターキー、餃子に唐揚げ……。

 まあ焼き餃子は中華料理じゃないとか漫画でやってたが……俺にとっては中華料理だ!




 ※




「リオ君……ちょっといい?」


 朝霧父の料理で腹が膨れだした頃、麻耶からご指名があり、そっと盛り上がるリビングから抜け出す俺達。

 ちなみにマルチーズ藤崎は朝霧母が抱きしめている。

 懐かしい~ とか言ってたが……麻耶の家は犬飼ってた事あるのか?


「無いけど……お母さんぬいぐるみ沢山もってるから、マルチーズのもあるんじゃない?」


 あぁ、それは有り得る。

 そうえいば麻耶はそういう趣味無いのか?

 可愛い物を集めるとか……


「私はあんまり……父さんの影響で剣道やってるくらいかな……」


「えっ、今もやってるのか? 剣道……」


「一応……。近所に道場があって……。日下部さん家」


 誰だ、日下部さん。


 そのまま麻耶と共に二階のテラスへ。

 おおう、涼しい。

 リビングは熱気が凄くて暑かったからな。


「リオ君、ついに明日だね、ロミジュリ……」


「あぁ、そうだな……」


 明日か。

 この楽しかった文化祭の準備も……もう終わりか。

 文化祭が終われば皆本格的に将来に向かって動き出す。

 俺も……


「なあ、麻耶……ちょっといいか。進路の事なんだけど……」


「え? うん」


 親父の言葉が繰り返し頭の中で響いている。


『彼女を守りたいなら力が必要だ』


 そうだ、確かにそうだ。


 でも俺は……麻耶から離れたくない……


 ずっと麻耶と一緒に居たい……


「リオ君?」


 麻耶の声で我に戻る。


「あぁ、その……俺……」



 朝霧母を助けた親父


 親父は毒を手にしようともしなかった、と言っていたが……


 もう親父は飲んでいたのかもしれない


 今、俺が飲もうとしているように……




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