リオ P1
※この小説は、アンリ様主催《うれしたのし秋の恋》企画参加作品です
※この物語はフィクションです
暗い空間
彼女が眠る棺桶を覗き、俺は叫ぶように言い放った
悲劇で終わらせない
俺と彼女は決して悲劇で終わってはならない
さあ、覚悟を決めろ
この毒を、お前は飲めるか?
※
2180年 11月 10日 (金)
流石に十一月にもなると朝は寒い。
家の玄関を出た瞬間、まるで冬の女神が俺の目の前を横切ったかのような冷たい風が吹いた。
ちなみに季節的には秋だ。まだ雪も降っていないし、家の近くに生えている紅葉も綺麗に見える。
「それにしては寒い……」
息を吐くと白い。
まるで煙草でも吸っているようだ。勿論高校生の俺は煙草など吸っていない。
そんな事をして謹慎処分でも食らえば高校生活が終わってしまう。
「兄様、マフラーを」
寒そうにガタガタ震える俺の隣り。
同じ高校のブレザーを着た女子高生が、俺の首にマフラーを巻いてくれる。
「あぁ……サンクス」
「違いますよ、そこは”Thanks”です」
その女子高生は金髪でショートボブ。瞳の色はブルー。
どっからどう見ても欧米人のように見えるが、正真正銘の日本人で、俺と血を分けた実の妹である。
そんな妹の格好を見て、俺は正直震えが止まらない。
何故にミニスカートなのか。
「……? 兄様……私の太ももが気になるんですか? 昨日膝枕で耳かきしてあげたじゃないですか」
「いや、大変に気持ちよかった。でも今はそういう意味で見てたんじゃない。シア……寒くないの?」
ちなみにシアとは妹の名前。漢字では無くカタカナでシア。
更に言うと俺の名前もカタカナでリオ。しかしクラスの連中にはレオと呼ばれている。
「兄様、オシャレは我慢なんですよ。兄様も脱いでみたら如何ですか?」
「ごめんこうむる。寒いのは嫌いだ」
言いながら歩きだす。正面から冷たい風が襲ってくるが問題ない。
妹が巻いてくれたマフラーが暖かい。
ちなみにシアとオソロだ。赤い手編みのマフラー。
「似合ってますよ、徹夜で編んだかいがありましたね」
「お前……ちゃんとテスト期間中勉強してたんだろうな……」
そう、昨日まで我が高校は実力テストが開催されていた。
しかもただのテストでは無い。これから行われる文化祭で重要な事柄が決定するテストだ。
「心配されなくても大丈夫ですよ。私、こう見えて真面目なので」
「どう見ても真面目にしか見えないぞ」
妹は金髪だ。だから良く勘違いされる。遊んでいる女子高生だと。
そんな妹は今の高校に入学した当初、良く嫌がらせを受けていた。
俗に言う虐めと言うヤツだ。
「……そんな顔しないで下さい。今はもう大丈夫ですよ。生徒会長が助けてくれますから」
「アイツ……お前に色目使ってないだろうな」
一年の頃に虐めに遭っていたシアを助けたのは、現生徒会長である花京院 千尋。
俺と同じ進学科の生徒であり、入学早々最大の派閥である生徒会にスカウトされた有望株だ。
そんな花京院 千尋はシアの虐めを知り、自分の派閥へと無理やり入れさせた。
それからパッタリとシアへの虐めは無くなり、虐めていた女子生徒達はすっかり大人しくなってしまった。
「生徒会長……怒ってましたよ、兄さんが生徒会に入らないからって」
そう、俺はそんな花京院 千尋とは親友でありライバルだ。
何せ妹を助けて頂いたのだから、兄としては感謝してもしきれない。
そして何故にライバルなのかと言うと……。
「学年一位の成績で生徒会にも入らずフラフラしてるなんて……許せないって激オコでした」
「フラフラしてないだろ。ちゃんと勉強してる。というか生徒会なんて入ったら成績落ちるだろ」
学年一位。
それが唯一の俺の自慢できる事柄だ。
これを死守する為に、俺はこれまで血反吐を吐きながら勉強してきた。
実際に血反吐は吐いてないないが。
高校へ続く道のりを歩き続ける。
相変わらずシアのスカートは寒そうだ。気になって仕方がない。
「兄様……中が気になるんですか? 見ます?」
スカートを摘まんで挑発してくる我が妹。
いかん、こんな子に育てた覚えはない。ここはガツンと言わねば。
「見せてくれ。非常に気になる」
途端にシアは顔を赤くし、スカートを抑えながら引いて行く。
「……じょ、冗談ですよ……本気にしないでください……っ」
そのまま小走りで先に行ってしまうシア。
妹の羞恥心を弄ぶ兄に怒ってしまったようだ。
「可愛い奴め……」
※
徒歩にして約二十分。ようやく学校へと到着した。
正門を潜ると、友人達が追い越しながら挨拶をしていく。主にシアへ。
「シアちゃーん、おはー!」
「おはようございます」
一年の頃虐められていたシアも、今では大人気。
この学校の最大の派閥である生徒会に所属している事もあるが、一番の原因は部活だろう。
シアは演劇部に所属している。当然の様にヒロイン役を任せられ、その演技で生徒達を魅了しているのだ。
「相変わらず大人気だな、シア。兄様は鼻が高いぞ」
「いえいえ。それに今年限りかもしれませんよ。今年の一年はとても可愛い子が入ってきましたから……」
と、その時後ろからパタパタと駆け寄ってくる足音が。
またシアのファンだろうか。
「シア先輩! お、おはようございます……っ」
「あ、おはよう、梢ちゃん。光ちゃんは? 一緒じゃないの?」
「光の奴、寝坊して……今日は俺だけッス! じゃ! 俺日直なんで!」
パタパタと走り去っていく女子生徒。タイの色からして一年か。
「演劇部の後輩か? シア」
「はい、今年入ってきた一年の子です。可愛いでしょう? あの子なら主役でも全然……」
その時、可愛い後輩はスカートを気にしてないのか、チラっとピンクの生地が見えてしまった。
目を反らす事もせず、堂々とまっすぐに見つめる俺。
「兄様のスケベ」
「いや、男子には必要なんだ。勉強で疲れた目の保養に最高の……」
今日も一日頑張ろう、とガッツポーズと取る俺の脇腹に、シアの肘鉄が突き刺さった。
進学科棟の玄関へと入り、シアと別れる。
シアは二年、俺は三年。当然だが下駄箱の場所が違う。
「さて……緊張の一瞬だ」
玄関の壁際に張り出されている物があった。
昨日まで行われていたテストの順位だ。教師陣は大忙しだったことだろう。
学年別に分けられている順位表。
三年生のが貼られている前に立ち、ゆっくりと一位の名前を確認。
一位 葉月 リオ 799点
ほ、と胸を撫で下ろす。
何とか一位を死守できた様だ。これならば文化祭の”アレ”も問題無いだろう。
「ぬぁぁぁぁ! なんで……なんでよ!」
と、その時……誰かが叫んでいるような声が聞こえてきた。
どうやら、この先にあるトイレの中で叫んでいる様だ。
一体何事だ。
「また朝霧だぜ……一位をレオに取られたから……」
朝霧……朝霧 麻耶か?
ぁ、そういえば……
二位 朝霧 麻耶 798点
うわぁ……俺と一点差か。
ちなみに朝霧と俺は常に一位と二位を独占状態。
それがあってか、朝霧は俺と口を聞いてくれない。
嫌われてるな、俺。
朝霧……結構可愛いのに。
ぶっちゃけ……ドストライクなのに。