リオ P14
演劇部の部室でロミオとジュリエットの映画を鑑賞。
戸城さんは号泣し、マクティは中々面白かったと頷いている。
『梢、いつまで泣いているのですカ。いい加減泣き止まないとリオが困ってまス』
まあ女生徒二人とロミジュリを見るというシチュが既に困ってしまう。
こんな事が朝霧にバレたら……
「だって……だってぇ……ロミオもジュリエットも可哀想すぎて……」
小さく溜息を吐くマクティ。
そのまま静かに戸城さんの前に立ち、頭を撫で始める。
「うぁぁぁん! マクティ!」
途端に戸城さんはマクティのお腹に抱き付いて再び大泣きしだした。
ここまで感情移入できるのも凄いな。
そんな二人を眺めていると、俺の携帯が着信を知らせてくる。
ポケットから携帯を取り出し画面を見ると、相手は早乙女だった。
「ん……ちょっと電話かけてくる」
マクティに告げつつ、部室の外に出て電話に出る。
『お、リオ。映画見たか?』
「あぁ、中々に面白かった。で、どうした?」
『いや、ちょっと戻って来てくれ。藤崎がリオの寸法図りたいって』
寸法……あぁ、衣装担当だったな、藤崎。
「分かった、すぐに戻る」
携帯を切りポケットにしまいつつ、演劇部の部室に再び戻る。
「戸城さん、マクティ、俺ちょっとクラスに戻るから。映画勉強になったよ、ありがとう」
『イエ、私も楽しめたのデ。リオのクラスのロミオとジュリエットも期待していまス』
戸城さんに抱き付かれ、ひたすら慰めているマクティ。
なんだか妹と姉って感じだな。
「ぜ、ぜんぱぃ……」
目を赤くしながらこちらに振り向く戸城さん。
グズグズと鼻を鳴らし、手で拭いながら
「が、頑張ってくださぃ……」
「お、おぅ……ありがとうね、戸城さん」
二人にお礼を言いつつ、文化棟を後にする。
進学科棟に向かい、自分の教室に戻ると女子達がキャッキャ言いながら楽しそうに作業していた。
「ぁっ、きたきたーっ、ロミオ様、寸法測らせてやー」
おおう、藤崎。
マクティと話した後だと何だか本当に藤崎はFDWか? と思えて来る。
いや、藤崎の方が普通なのだろうが。
「じゃあ服脱いで、全裸になって」
……何だと。
「いや、全裸は嫌だ。そこまで脱がなくてもお前なら見ただけで測れるんじゃないのか?」
「じゃあ上着だけ……上だけ裸になって! お願いやから! 普段女子のミニスカ見て目の保養になっとるやろ?! たまには私達にも提供してや!」
力説する藤崎に、その場にいる女子達が頷いて同意してきた。
なんなんだお前ら。俺はそこまで逞しくないぞ。帰宅部だし。
「ええからええから、脱いだ脱いだっ」
いいつつ俺の上着のボタンを外しにかかる藤崎。
いや、自分で脱ぎますぞ、藤崎さん。
「ハァ……ハァ……たまらんなぁ……グヘヘ」
ちょ! 怖っ! 藤崎怖い!
「おっと失礼、はい、ワイシャツも脱がすでー」
「い、いや、脱ぐ、脱ぐから! 分かったから何もしないでくれ!」
観念して女子達のオカズになる事にした俺。
ワイシャツを脱ぎ始めると、周りの女子達が騒ぎ始めた。
「お、おぉー……レオ君、意外といい体しよるやん。腹筋割れてるーっ」
ガリガリなだけだ。
早く寸法せよ。
「あぁ、もう大丈夫やよ。私は見るだけで測れるからー」
弄ばれた……。
もうお嫁にいけない!
「何言うとるん。レオ君は貰う方やろ? グヘヘ、ちょ、ちょっと腹筋触ってみていい?」
「別にいいけど……代わりにお前のも触らせろよ」
途端に顔を赤くする藤崎。
胸を抱えて後ずさりし、蹲ってしまう。
「れ、レオ君のスケベ……! も、もうお嫁にいけん……」
いや、何もしてないだろ。
もう服きてもいいよな……と再び制服を着直していると、千尋が話しかけてきた。
「レオ、明日から泊まり込みで作業できるらしいぞ。お前どうする? 宿泊するなら申請出しとくが」
「泊まり込み……まあ、シアに一度確認しないと。返事明日でもいいのか?」
「構わんぞ。ところで今日は朝霧の見舞いに行くのか?」
お見舞いか……。
確かに朝霧に会いたい。
でも寝てるだろうしなぁ……ロミオだったら会いに行くだろうな。
しかし昨日の今日でお邪魔するのも悪いし、大した用事があるわけでも無い。
「いや、今日は大人しく帰る。ところで千尋……お前どこまで知ってるんだ」
「何をだ? 心配するな。お前と朝霧さんが正式にお付き合いしてるなんて知らないから」
知ってるじゃないか。
情報ソースは何処だ。どっから漏れ……
その時、俺達の会話を盗み聞きしていたであろうFDWと目が合う。
わざとらしく目を反らし、吹けもしない口笛を吹こうとしながら誤魔化す藤崎。
犯人はコイツか……。
「大丈夫だ、このクラスの中ではまだ俺と早乙女と藤崎しか知らん」
おい、早乙女も知ってんのか。
まあいいか……いつかクラスの連中にはバレる事だし。
もしかしたら既に感づいている奴はいるだろう。
先日、朝霧が早退した時、かなりわざとらしく千尋が俺を選出したからな。
「今日はもう帰るか? 明日には朝霧は来るだろうし、本格的にお前達を鍛えるとか早乙女が張り切ってたからな」
俺はともかく朝霧は病み上がりだぞ。
あまり無理はさせたく無いんだが……。
「じゃあお前がフォローしてやれ。明日には台本も出来上がるとか言ってたしな。最後はハッピーエンドのロミジュリらしい」
ハッピーエンドのロミジュリか……。
あの映画を見た後だと、そんなの本当にロミジュリなのか……と思ってしまう。
だが折角の文化祭だ。戸城さんの様に泣かせてしまうのも申し訳ないか。
そこまでの完成度まで持っていければの話だが。
「まあ、じゃあ俺は帰るわ。千尋はまだ残ってくのか?」
「一応監督だしな。じゃあな、シアちゃんによろしく、お兄様」
誰がお兄様だ。
シアはお前にはやらん!
だがその時、二人の仲を反対し続けていれば、もしかしてシアと千尋もロミオとジュリエットのように……と思ってしまう。
いや、いくら何でも考えすぎだ。
千尋に兄なんて呼ばれたくはないが、もしシアが千尋の事を想っているのなら……
いつか来るであろう未来。
シアの花嫁姿を想像してしまう。
そしてその隣りにいる誰か
いつか認めなければならない
可愛い妹が他の誰かの所に行ってしまう事を