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リオ P12

 11月 13日 (月)


 本日は午前中は普通に授業、そして午後から文化祭の準備なのだが……


「朝霧サンは……風邪でお休みデスネ」


 今は午前の授業。

 一時限目の英語だ。担当教諭のクリス先生が心配そうに朝霧の机を見つめている。


「フム、皆さんも風邪には注意してクダサイ。折角ロミオとジュリエットを勝ち取ったんデスカラネ。健康第一デス」


 そのまま英語の授業を始めるクリス先生。

 だが正直、俺は授業所では無かった。朝霧に会いたい、朝霧は大丈夫だろうか、今すぐ朝霧の所にお見舞いに行きたい……などと延々と考えている。


「ではロミオ役の葉月君、答えてくだサイ」


 その時、いきなり指名されてパンダに話しかけられたトラのような顔をする俺。

 やばい、全然聞いてなかった。


「……? モシカシテ……ジュリエットが居なくて寂しいんデスカ? でもちゃんと授業は聞いて欲しいデス。先生寂しいデス」


 寂しがるクリス先生を見て、クラスの連中は俺へと一斉にブーイングしてくる。

 あぁ、五月蝿い五月蝿い。


「すみませんでした……」


 謝りつつ、再びクリス先生の授業を受け続ける。

 朝霧が居なくて寂しいが、俺はこれからも一位を取り続けなければならない。

 可愛い妹のために。


 その後、午前中の授業も無事に終わり昼休み。

 シアが作ってくれた弁当をカバンから取り出し、広げようとしていると早乙女が話しかけてきた。


「レオ、弁当一緒に食わない?」


「ん? あぁ、別にいいけど」


「よし、じゃあ屋上行くぞ」


 なんだと。屋上まで行くのか。

 今俺達三年が授業を受けている教室は、進学科棟の一階。

 屋上は三階の更に上にある。そこまで行くのは流石にダルイ。


「なんで屋上……?」


「可愛い後輩紹介してやるから。ほら、行くぞ」


 そのまま半ば強制的に連れられ、進学科棟の階段を上り始める。

 あぁ、この学校設備整ってるのに……なぜにエスカレーター無いんだ。

 足が痛い。腰も……砕けそうだ。


「お前弱すぎな。運動してるか?」


「してるように見えるか? 俺は帰宅部なんだ……」


 老人のように階段を上り、やっとこさ屋上へ。

 おおぅ、久しぶりに来たな。っていうか寒い。でも太陽が出てる分まだマシか。


「お、来てるな。オーッス、演劇部諸君」


 演劇部? あぁ、そういう事か。

 超初心者の俺のために、プロから学べという事か。


 って、シアも居る。


「兄様、なんて顔してるんですか。目が死んでますよ?」


「あぁ、ちょっと激しい運動してきたから……」


 一階から屋上まで階段を上るというハードトレーニングを……。


「後輩の前なんですから、しっかりしてください」


 ふむ。シアの外には二人の女生徒。

 タイの色からして一年二人か。

 二人ともシアを挟み、ピクニックのようにレジャーシートの上に座っていた。


「兄様、順番に紹介しますね。こちらが花瀬 光(はなせ ひかり)さん。実に兄様好みの女の子でしょう。でも手だしちゃダメですよ」


 出すワケないだろ。俺には朝霧が居るんだ。

 むむっ、でも花瀬さん……かなり美人だな。


「よろしくおねがいします、先輩」


 会釈しながら微笑んで来る花瀬さん。

 やばい、朝霧の事が無かったら……たぶん一目惚れしてしまうわ。


「それで、こちらが戸城 梢(とじょう こずえ)さん。背は小さいですが、おっぱいは大きい演劇部のエースです」


「ちょ! シア先輩何言ってんの?!」


 ふむ。あぁ、この戸城って子は見覚えあるな。

 確か先日……ピンク色のパンツを履いていた女生徒だ。


 続いて俺の紹介も始めるシア。


「この人が私の兄です、ちょっと不愛想ですが基本的に優しいので気楽に話しかけてあげてね、二人共」


 不愛想は余計ですぞ、我が妹よ。

 まあ否定は出来んが……。


「あ、あの!」


 その時、戸城さんが早速俺に話しかけてきた。

 なにやら目をキラキラと輝かせている。


「葉月先輩って……学年総合一位なんですよね?! すごいッス!」


「ぁ、あぁ、別にそう大したことじゃ……」


 いいつつ俺と早乙女もレジャーシートに座り、弁当を広げる。

 今日のメニューはウィンナーにハンバーグに卵焼き。そしてゴハンに漬物にポテトサラダ。


 ふむ、今日も妹の弁当は美味そうだ。

 いただきま……


「それでレオ、ここで俺から提案がある」


 ハンバーグを一切れ取り、食べようとする俺に話しかけてくる早乙女。

 なんだ、今から俺は弁当タイムなんだ。


「実は、雰囲気でレオと朝霧に主役を押し付けちまったからな。俺なりに責任感じてるんだ」


 別に気にしてない。と言いつつハンバーグを一口食べる。

 おおぅ、やっぱりシアの料理は美味いな。ハンバーグも手作りだから尊敬してしまう。


「で、演劇の超初心者のお前に少しでも貢献できればと思ってな。今日からここにいるメンバーでお前を完全なロミオにする」


 ……あぁ、やはりそういう事か。

 まあ俺は本当に演劇は初心者だからな。少しでも恥をかかないようにするにはいいかもしれない。


「朝霧も居たら連れてきたんだが……まあ風邪なら仕方ない。今日はお前だけ特別メニューだ。俺はクラスの仕切りの方に戻るけど……レオ、お前は彼女らと練習な」


 ……え? さ、早乙女さん、居てくれないん?

 シアが居るとはいえ、女だらけの中でロミオの練習って……。


「なんだ、不服か? 言っとくけどな、他の男にこんな可愛い後輩紹介しないぞ。光ちゃんも梢ちゃんも、我が演劇部では貴重な一年エースなんだ。しかも二人共可愛いし性格もいい、梢ちゃんに至っては胸も大きい。何が不満だ!」


「部長……セクハラっす……」


 ボソっと不満を漏らす戸城さん。

 さっきからシアといい早乙女といい……戸城さんのおっぱい押してくるな。

 確かに制服の上から見ても……大きいと分かる。


「ちょ、兄様! なに後輩の胸ジロジロ見てるんですか!」


 いや、お前等がオススメするから……

 男が見てしまうのは仕方ない!


「開き直らないでください! この子達に手だしたら……兄様、一週間ゴハン抜きですから!」


 それで済むのか。

 いや、手は出さんけども。


「ぁ、兄様、ちなみになんですが、花瀬さんも戸城さんも生徒会のメンバーですので。何か困った事があれば相談してくださいね」


 相談相手なら我がクラスに生徒会長が居るから間に合ってる。


 そのまま弁当を食べつつ、可愛い後輩達と昼休みを満喫する。

 他愛のない話をし、演劇の心得なども教えてもらう。


「緊張したら……目の前の人間は全部可愛いマンチカンだと思えばいいんです」


 戸城さんから、ありがたいアドバイス……なんだが、普通は芋とかじゃないか?

 マンチカンの大群が目の前に並んでたら、正直演劇所ではない。

 まあ、芋が並んでても不気味だが。


「所で兄様、先日ロミオとジュリエットの文庫本買っておられましたよね? どこまで読みましたか?」


「あぁ、ロミオがジュリエットに会いたい会いたいってところまで……」


「序盤なのか終盤なのか分からないんですけど……まあ、兄様の事だからまだ序盤ですね」


 流石我が妹。

 確かにまだ半分も読んでない。というか内容が詩の塊みたいだから、場面が飛び飛びで話が良くわからん。


「ロミジュリの原作は元々詩なんですよ。シェークスピアはそれを元にロミジュリを描いたんです」


 ほほぅ、シェークスピアが書いたのが原作じゃないのか。

 さらに元になった物があったとは……。


「まずはロミジュリがどんな話なのか理解するところから始めましょうか。演劇部にも映画が数本ありますから……まずはそれを見ましょう」


 映画か。まあ確かに小説が苦手な俺はそっちの方がいいかもしれない。

 話の流れは大体知っているが。


 その後、昼休みが終わると各クラス文化祭の準備へと取り掛かる。

 シアと花瀬さんは一度それぞれ教室に戻り、俺は戸城さんと共に演劇部の部室へと向かっていた。


「先輩、部活とか入らないんすか? 確か生徒全員どっかの部活には絶対に入らないといけないって……」


「あぁ、実はそれ一年だけなんだ。二、三年になれば部活入らなくても文句言われない」


「え? な、なんで?」


 ふむ、可愛い後輩に教えてしんぜよう。

 この学校の暗黙の了解という物を!


「この学校、派閥とか良くわからんシステムあるでしょ。戸城さんの場合は生徒会か。まあ、派閥には全員確実に入らなきゃいけないらしいけど……ちなみに俺は窓拭きクラブって名前の派閥に入ってる」


「ま、窓ふきっすか?」


「そう、派閥メンバー全員、たぶん互いの名前も顔も知らない。完全に全員幽霊部員状態なんだ。とりあえず席だけ置いておくだけの派閥ね」


 俺は勉強に集中したかったからな。部活も派閥というシステムも……俺にとっては邪魔なだけだ。


「それで、なんで二、三年は部活入らなくても文句言われないかって言うと……入学したての一年にいきなり派閥に入れって言っても、中々そうもいかないでしょ。右も左もわからない奴が大半なんだから。そこで部活なんだ」


「ほほう」


「まずは上級生に知り合いを作った方が派閥には入りやすい。勿論一年だけで派閥作る事も出来るけど……まあ、潰されるだろうし」


「そ、それ……なんでなんですか? 俺の友達も作ろうとしてたんですけど……まあ、結局回りから止められて辞めましたけど」


 なんだと。戸城さんの友達怖い事するな。

 理由としては結構あるけど……一番怖いのは……


「派閥って、学校側からも認められてる組織なだけに、メンバーが揃ってくると色々と恩恵があるんだ。例えば特別教室の使用を優先的に許可されるとか」


「ふむふむ」


「だからその恩恵を、万が一にでも一年だけの派閥に取られると……上級生としては面白くない。派閥っていっても烏合の衆が大半だから、嫌がらせの対象になる。だから一年だけの派閥は優先的に潰そうって事になってるんだ」


「なるほどー……」


 そんな話をしながら文化棟へと向かう俺達。

 文字通り文化部が集まる校舎だ。この二階に演劇部の部室がある。

 俺もシアに呼ばれて何回か行った事はある。


「先輩、じゃあ俺鍵借りて来るッス。先に行ってて下さい」


「おう、頼む……」


 って、戸城さん一人称「俺」なのか。

 なんか男子と話してる気分になるわ、見た目は完全に可愛い女の子なのに……。




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