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リオ P9

 11月 12日 (日)


 麻耶の家で昼食を頂く俺。

 今はお母様とお父様に見つめられつつ……なんとも凄まじく生きた心地がしないが、料理が美味すぎる為に箸が止まらない。


「うふふのふ。麻耶ちゃんったら、こんなカッコイイ彼氏連れて来るなんてねーっ。ねぇ、あなた」


「連れてきたのは葉月君だ。それに推測で物を話すな。まだ彼がそういう関係だとは……」


 お父様の言葉にギクリ、と背筋が凍る。

 ヤバイ、言った方がいいのか? お、お嬢様とお付き合いをさせて頂いてると……。


「もぅーっ、そうに決まってるじゃない、ねえ? 葉月くん」


「どうなんだ? 葉月君」


 一旦食事を止め、箸を置く。

 そのままゴクリ、と唾を飲みこみ息を整えつつ


「じ、実は……麻耶さんと……その、お付き合いをさせて頂いて……」


 一瞬、空気が固まるのが分かった。

 あ、あれ? ど、どうしよう。

 全身から汗が止まらん。何か……何か言ってくれ! ご両人!


「ほら……ほらほらほらほらほらほら! だから言ったじゃない! 葉月くんと麻耶ちゃんはお付き合いしてるってーっ!」


 凄まじくハイテンションになるお母様。

 一方……お父様は……


「……葉月君、どこまで行った?」


 その言葉に思わずギクリ、と全身から汗を垂れ流す俺。

 どこまでって……いや、キスはしようとしたが未遂で終わった。

 今は精々……


「手、手を……握る所まで……」


 うんうん、とお母様はにこやかな笑顔で頷く。

 そしてお父様は何やら腕を組み、考え込んでしまう。


「ちょっとーっ、あなた、何難しい顔してるのよ。いいじゃない、もう高校生なんだから……恋人の一人や二人……」


「……葉月君」


 お父様の声にいちいちビクつきつつ、「は、はい」と怯えたウサギのように返事をする。

 ヤバい、叱られる? 学生の本分は学業だから……異性交遊などまだ早いとか……


「俺も……家内とは学生の頃に出会った。そのまま……でき婚だ。わかるよな?」


 お、おおぅ、お父様、見た目はお堅いイメージなのに……やりおる。


「だから君と娘の関係を頭から否定はしない、だが私も家内もそれなりに苦労してきた。それゆえに、あまり早い段階で……いや、俺が言えた義理じゃないが……その、なんだ」


 いや、お父様の言いたい事は良くわかる。

 若年結婚だからこその苦労があるんだろう。それを娘に味わってほしくないだけだ。


「娘を……よろしく頼む」


 ……ん?


 え、今ってそういう流れだったか?!

 もっと、娘はお前にはやらん! 的な展開になるのかと……


 俺に対して、お父様もお母様も頭を下げて来る。

 な、なんだコレ。めでたくご両親に認められたのは良いが……な、なんか、とたんに腹が痛くなってきた。


 俺に……よろしく頼むって……


 出来るのか? 俺に……


 麻耶を……守る事が


「時に葉月君。君は麻耶と同じクラスだったね。成績はどのくらいなんだ?」


「ちょっ、あなた! いきなりなんて事聞くのよ……とか言いつつ私も興味深々だったりーっ」


 って、えぇ?!

 なんだ、この夫婦。

 お父様とお母様は興味深々と俺を見つめて来る。

 成績はどのくらいって……


「自慢じゃないが……麻耶は学年二位だぞ。まあ、あの子より上って事は無いだろうが……」


「もうっ、あなたったらーっ。ごめんねー? この人、麻耶ちゃんの通知表見る度にニヤニヤしてんのよーっ」


 あぁ! なんか言い辛い!

 言ってしまっていいのだろうか、貴方達の娘から、毎回毎回学年一位を奪っていると……。


「そういえば……学年一位はどんな生徒なんだ? 麻耶よりもいい成績を取るなんて許せんな」


「もうっ、何言ってるのよーっ、とか言いつつ私も興味深々だったり……ねえ、一位ってどんな人?」


 恐る恐る……挙手する俺。

 二人は呆然と食事中に手を上げる男子生徒に首を傾げていた。


「その……すみません……俺です……」


 あぁ、ごめんなさい、ごめんなさい。

 娘さんから一位を毎回奪ってすみません……でもワザとじゃ無いんです、俺にだってそれなりの理由が……。


 そっと二人の様子を伺う俺。

 二人共パクパクと魚のように口を開け閉めしていた。

 開いた口が塞がらないとはこういう事か。


 その数秒後、お父様が興奮した様子で立ち上がった!


 ひ、ひぃ! ごめんなさいごめんなさい! 許してください!


「す、すごいじゃないか! 君があの……麻耶を毎回抑えて一位に輝いている生徒だったのか!」


「ほ、ほんとに凄いわ! 貴方、麻耶ちゃんより頭いいのね?! そうなのね?!」


 途端に俺の両手をそれぞれ握りしめて来るご両親。

 な、なんだコレ。


「いや、文句無しだ。俺の目に狂いは無かった。君が麻耶と結婚してくれるなら……」


 いや、ちょっと待たれよ!

 結婚って……


「うんうん、カッコイイし頭もいいし……それに礼儀正しいし、優しそうだし……言う事無いわね!」


 ビシィ! と親指を立てて絶賛してくるお母様。

 うぉぉぅ、なんか凄い……胃の痛みが増してきた。


「葉月君、一位を取り続けるなんて相当に勉強しているんだろう? 将来は何を目指しているんだ? もしかして警察官か?」


「ちょっと、貴方、そんなワケないでしょ? きっと科学者よ! 将来は凄い有名な……ノーベル賞貰っちゃうくらいの……」


 いや、俺は……


「将来は……特に決めてません……」


 俺の言葉に、二人は黙って耳を傾けて来る。

 一位を取る理由……


 俺は……


「実は……家の両親とは別々に暮らしていて……今は妹と一緒に二人で暮らしています」


 俺が……一位を取り続ける理由は……


「それで……両親が引っ越す時、まだ中学生だった妹も一緒に連れて行こうとしたんですが……妹は嫌がりました。こっちに友達も居るし、住み慣れた土地だし……」


 二人は黙って頷き、俺の話を聞いている


「俺は高一でした。成績も中の中くらいでしたが……その時、両親に言ったんです。俺がシアを……妹をちゃんと育てると。その証拠に、成績もトップを取り続けるって……」


 あぁ、そうだ。

 俺が一位を取り続ける理由は……両親に可愛い妹を取られないようにするためだ。


「成績が落ちればすぐにでもシアを迎えに来る、と言い残して両親は引っ越しました。俺が一位を取り続ける理由は……将来の為じゃありません……ただ、妹を両親に取られたくないだけで……」


 その時、ガっと俺の肩を力強く掴んで来るお父様。

 少し涙ぐんでいる……って、なんでアンタが泣いてるんだ。


「決めたぞ。もう一度言うが、俺の目に狂いは無かった。葉月君、君になら……いや、君だからこそ、麻耶を任せられる」


 同時にお母様も、俺の肩を掴んできた。

 この二人……息合うな。流石夫婦だ。


「葉月くん……麻耶をよろしくね? よかった……これであの子のドレス姿……見れそうで……」


 いや、あの……えっと、その……



 先程までの胃の痛みは消え失せていた


 代わりにと、現れたのは俺の心臓を燃やしにかかる炎


 それに負けまいと、俺は拳を握りしめる


 覚悟とは、こういう事なのかもしれない


 その時、麻耶の笑顔が……手の温度が、俺に体を預けてくれる彼女の姿がフラッシュバックする


「麻耶さんは……俺が守ります」


 言い放った瞬間、俺は確かに生み出した


 生み出してしまった


 覚悟という名の……猛毒を



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