ある日 森の中 暴食の王に 出会った。
テンプレって難しい。
日が落ちるーー。
盗賊団は闇夜に動くーー。
とは言ったものの、情報と作戦、そして出撃の合図が無ければ烏合の衆である。
そんな時盗賊達はーー怠ける。
酒を呑むもの、自慢話をするもの、食うもの、寝るもの、様々だが武器の手入れをしたりするものはいない。
盗賊は怠け者である。
怠けたいが故に盗賊になったのだ。
金、酒、女。
これに尽きる。
トリックは広場の喧騒を早々に抜け、牢屋に食事を運ぶ所だった。
女神神官グレースの食事は料理長ナイブスが作る。
トレーに乗った鹿肉のステーキに目を奪われつつ、トリックはグレースのいる鉄格子の前まできた。
だが牢屋からは物音一つしない。
「グレース・・・?」
トリックは背筋が凍る。
グレースの監視はアサルトじきじきに命令されたものだ。
逃亡は勿論、病気などの不具合でも起こそうものならしこたま殴られる。
しかし心配は杞憂に終わった。
鉄格子の向こうから可愛らしい寝息が聞こえてきたのだ。
「・・・結構図太いね・・・」
敢えて起こすこともない。
トリックはそっと食器を鉄格子の内側に置き、牢屋を後にした。
この時点でトリックには二つ選択肢があった。
一つは表に出、隠遁術を試すこと。
もう一つは書物を探す事。
惰眠を貪るという第三の選択肢を少年とは思えぬ鋼の意志で圧殺し、トリックは表にでることにした。
ステータスを開く。
88/88
40/50
これが、体力と魔力を示す数値のようだ。
魔力ポイントは時間と共に回復するようだが、あれからかなり時間が経っているのに全快していないのはなにかあるのだろうか。
聞ける人間はグレースしかいない。
外回りをした後に、グレースにアレコレ尋ねてみよう、とトリックは決めた。
この森は深い。
盗賊が根城に選ぶほど。
空には2つの満月。
まるで覗き込まれているようだ。
だが月の光は樹々に遮られ、森は濃紺と暗闇しか映さない。
アジトから10分ほど歩いてから
トリックは観察眼を発動させた。
「おお・・・!!」
思わず感嘆の声が漏れた。
浮かび上がる文字が目印に、と思っていたのだが、観察眼は対象の輪郭までも白く囲ってくれていた。
その白枠の中に数値が出る。
読めない部分は木の名称だろうか。
おそらく数値は高さだ。
と、木々の隙間をのそのそと移動する白枠がいた。
トリックの背筋が凍る。
体長3メートルはあろう丸みを帯びた巨大。
隠遁術!!
とっさにスキルを発動させる。
37/50
発動に2ポイント失ったようだがそこまで気にしていられなかった。
トリックは隠遁術を盲目的に信じ、一目散に逃げ出した。
影の正体は主ーー。
森を支配する暴食の王。
トリックの判断は的確だった。
暴食の王に相対し、生き延びたものはいない。
いや、たった一人。
盗賊頭、アサルトを除いて。
肩で息をしながら、トリックは考えていた。
暴食の王が現れたら、アジトに籠るのが鉄則だ。
だからこそ。
グレースを連れて逃げる千載一遇のチャンスなのではないかーー。