瞳に映る、君と文字
テンプレってなんだ。
「・・・ふーん」
「ふーんて!それだけ!?私がいないとレベルアップもクラスアップもできないのよ!?」
「・・・うん。ごめん、レベルアップって何?」
そこからだった。
親もいなければ師に教わったわけでもない13歳の盗賊では、世の理に疎いのも仕方がないことだった。
牢屋の中の女神神官は表情を崩すと鉄格子から手を伸ばした。
「手、ちょうだい。見て上げるから。多分説明するより早いし。」
トリックは深く考えずに手を差し出した。
何かあっても関節を外して逃げれる自信があった。
「どれどれ・・・あら、随分経験値が貯まってるのね。これなら一気にレベル3まで上げれるわ。
解放されるのは・・・観察眼と隠遁術。鑑定眼まであと少しね。
じゃあ、上げるわよ。
レベル3だと、本当は金貨20枚は必要なんだけどなぁ・・・」
少女がぶつぶつと何かを唱え始めると、その体が淡い光を纏い始める。
トリックは一瞬身構えたが、危険を感じなかったのでそのまま様子を見る。
すると光が少女の腕からトリックの腕を伝わっていく。
「目が・・・!?」
痛みはない。
それどころか温かい湯に包まれているかの様に心地よい。
光が、蝋燭の火が消える様に収束すると、トリックの視界には見慣れない文字が浮かんでいた。
「・・・読めない・・・」
「そこからか・・・。そうよね。こんな山奥にいたら文字なんか学ばないわよね・・・。
右下にあるそれは、ステータスって描いてあるの。
左目を一秒閉じると次に進んで、右目を一秒閉じると前に戻るわ。
上下は視線を変えるのと同じ感じね。」
「なんか数字がでた・・・」
「数字は読めるのね。」
「儲けが分かるようにね。俺、ちっちゃいし非力だから、騙されないように。」
「数字はいくつくらい?」
「えーと、上から
88/88
50/50
9
10
13
22
23
40
かな。」
「へー、盗賊のレベル3ってそんな感じなのね。
魔力は高め、素早さは格別に高いわ。
あとは低めね。」
「魔力?」
「魔法を扱う力ね。そこの1番下にスキルがあるんだけど、強力なスキルを覚える前に文字を覚えないと・・・」
「あ、なんかでた。」
「観察眼かしらね。」
「うん。148.40だって。なんだろ?」
「私は観察眼もってないからなぁ・・・。」
一瞬の間のあと、少女の顔がサッと青くなった。
それが少女の身長、体重の値と一致したからである。
「と、とにかく、こうやって色々な人の能力を開花させるのが私の仕事なの。
多分、今頃神殿は大騒ぎよ・・・」
トリックは目をシパシパさせながらあたりを見回す。
右目に様々な数字が現れては消えていく。
「凄い・・・」
そうか、お頭はこれで盗賊王にクラスアップする気なんだ。
いや、それどころか、盗賊団自体が比べものにならなくなる程強力になる。
「この調子であなたが強くなったらここから連れ出せる?」
「無理だよ。バレたら殺されちゃうし!」
トリックは即答する。
裏切り者には死を。
それが盗賊団・骸の掟である。
「それに行く宛もないし。君は家に帰れても、俺は住処を失うんだから。」
「・・・じゃあ、ウチにくれば?」
トリックは暗い表情で俯いた。
「お頭は一度狙った獲物は絶対逃がさない。夜も眠れないようになる生き方はゴメンだよ。
悪いけど・・・・・」
トリックの頭を占めていたのは恐怖。
ただそれだけだった。
沈黙が続く。
ーーお頭は、この子が同じ大きさの宝石より価値があると言ってたーー。
トリックは考える。
絶対に不可能だと思っていた。
だから諦めていた。
さっきまでは。
でも、この力を使いこなせれば、もう悪夢にうなされる生活をしなくて良いのなら。
また人生をしきり直せるのなら。
物陰と夜の闇と決別し、太陽の下で生きれるなら。
ポツリと、池に石を投げる様に少女が尋ねた。
「私はグレース。貴方、名前は・・?」
「本当の名前は知らない・・・トリックって呼ばれてる。」
これが、二人の出会いであった。