異世界に召喚されて隷属の首輪つけられてるけど私は元気です
異世界だ。魔王だ勇者だ。森の中だ。太陽が二つもある。
一つくらい落っこちれば良いのに。
二言目には愚痴が出そうになるが出ない。物理的に出ない。
何故なら、私の首に『隷属の首輪』という首輪が嵌っているから。
私がこのトンチキ異世界に召喚されて3日目。
学校指定の緑の芋ジャージ上下に便所サンダルというだっさい格好かつ、黒髪オサゲ黒縁眼鏡でインしてしまった勇者こと私、ミズキ。
最初はひゃっはーーー勇者様だぜーーー!世界救っちゃうぜひゃっはーーー!
とか思いましたよ。ミズキさんもお年頃ですからね。
ええ。17歳ですよ。まだまだ青い春を楽しんでるお年頃なんですよ。
「……」
チラリと横を見れば、こんな状況にした元凶である第3王子こと金髪燃えちまえ禿げろ青目取れろ溶けてしまえなアミョン王子。
アミョンてなんだよ言いづらいよ。
自分の名前を言い間違えるか舌を噛み切らないかなー。噛み切れば良いのになー。
短い金髪の後ろ毛を刈りそろえたお坊ちゃまヘッドに、
白地を基調とした金の刺繍。青のマント。脇に差した剣といい、『物語の王子様』を形にしたたらこうですよねって形でいらっしゃる。
ちなみに身長はちっさい。
別に人間として生きる上で小さいことは問題じゃないのだが、あえていおう。
小さい。
156㎝の私と同じか若干低い上に、彼はシークレットブーツ着用である。
恨みつらみのせいで小さく見えているのかもしれない。
だがあえていおう。
ドチビであると。
「何だ貴様。下賤なる異世界人の癖にこちらを見るなどと…」
ギロリと青目をこちらに寄越すアミョン様。
釣り目がちの目のふちを金の睫毛がバッサバッサしてて、もぎ取ってやろうかその眉毛と思うが、私の意思に反して言葉は出ないし、首を振るのみだ。
「アミョン様、黒髪黒目の者に近づいてはなりません。
奴等は魔物と同じ。魔力の高さ故に凶暴であり、狡猾。
我らのような純粋なるストットル人のように聖なる目的などを理解できぬ生き物なのですよ」
「……」
うっせぇ禿げろ似非聖職者ぁぁぁ!
私の多くあるらしい魔力とやらでその白ロンゲが段々うっすくなってく呪いを完成させてやるからな!!若作りしがやって!
20代かと思ったらあんた30代らしいじゃないか!
女子高校生からした30代男性をなんていうか知っているか!
おっさんて言うんだよ!加齢臭はまだですか!奴にダメージを!
聖職者の衣装なのだろう、緑地に金で鳥のマークが胸元に描かれた足までの一枚布。
給食当番が着るスモッグの豪華版のような衣装の上から紫のロングマフラーのような布を両肩に下げ、白い杖を操る聖職者ことイーステル。
白いロン毛は推定180㎝程の彼の背中まであるストレートヘアだ。
細目だが綺麗な緑目と相まって、爽やかなイケメン風なのだが。
こいつ、私のお尻撫でまくってるからね!
聖職者はRPGでは治療魔法が使える設定が多い。
ご多分に漏れず、この一見爽やかな白ロン毛も治療魔法が得意な為について来たわけなのだが、こいつ治療の度に尻を撫でる撫でる。
聖職者じゃなくて性色者かよ!
「私の好みはもっと凹凸のある美女なのですが、旅に出てしまったからには仕方ありません。貴方で我慢しましょう」
すんな!
いや、違う。綺麗なお姉さんを(お金の力で)喜ばせて来い!
こっちに来るな!
そう叫びたいが、下手な抵抗をすれば燃えてきそうなタイプっぽい。
お尻撫で撫ではストレス発散的な、動物テラピー的な接触のつもりらしいので、
凄く嫌だが我慢だ。
私はブルブル震える右手の剣を握りしめる。
おお、素晴らしい。言うことを聞かなかった右手がぎゅっと握ってパッと離す位は出来そうだぞ。
離すと漏れなく私の足をザックリやってしまうので離さないけどね。
このまま奴らに攻撃出来ればいいのだが、隷属の首輪さん舐めたらいかんのだ。
ここで唐突☆ミズキちゃんの3分クッキング―。
今日のメニューはこちら。簡単な隷属の仕方!これであなたも奴隷ハーレム☆
①新鮮な魔力者を用意します
②隷属の首輪を嵌めます
③名前を名乗らせます(本名じゃないと駄目だよ☆)
④主となる者と隷属する者の血液を垂らして真言を唱え『契約』します
*隷属の首輪を嵌められた相手は基本的に主の命令は絶対だよ!
3番までの手順で大体の魔力を奪われてたりするわけなんだけど、真言で更に弱らせて
契約しやすくするという。
普通は罪を犯した奴隷だとか、魔力が多いが暴れまわる龍とかを捕える際に使われる道具らしい。
こいつら普通に異世界に来た女の子に使ってるけどな!!
来たっていうかそれすらもこいつらの策略で召喚されたのだ。
そうそれは聞くも涙、語るも涙な――――
『ちょっとちょっとっ。さっきっから痛いのよ。
アンタ馬鹿力なんだからもっと優しく触りなさいよっ』
私が回想シーンに浸ろうとすると、右手から私にしか聞こえない声が聞こえる。
正確には私が掴んで離せない伝説の聖剣様からだ。
白銀に輝く刀身。蛇が絡みついたかのような赤く燃える焔の模様。
中心に光る宝玉も赤く、全体的に常に淡い青光を放つ。
支える柄は刀身が映える黄金。絡みつく葉の模様は刀を収める鞘にも描かれ、一つの芸術のようだ。
男性が持つために作られたのであろう意匠。
実際、刀から聞こえる不思議な声もかなり低音の男性の声だ。
千年の昔からあるという伝説の聖剣―――パトリシア。
まぁ、パーちゃんたら、作った人の意向ガン無視だよね。
低音格好良い!って思ってからの落差。どう聞いてもオカマボイスだもん。
『パーちゃんはやめなさいパーちゃんは。頭がパーみたいじゃないのそれじゃ。
アタシはパトリシアよ!』
ぷんぷんと怒ったような声が聞こえる。
彼にとってオカマ云々はどうでも良いらしい。
王子や聖職者野郎に聞こえたらどうするんだろうか。
まあ、奴等に聞こえないのは1日試して分かっているので、無駄な心配なんだけども。
『オカマっていうか、剣なんて性別なんてあってないものだもの。
持ち主が望むように作られていくのが聖剣の定めよ』
肩をすくめる彼のため息が聞こえそうだ。
何だか苦労してそうだなぁ。パーちゃん。
『そうね。苦労はしてるわねぇ。あと、パーちゃんはやめなさい。
アタシのことは、パットかパティって呼んで頂戴』
緑ジャージの横でふふんっと鼻を鳴らす伝説の剣。
正直、芋ジャージに便所サンダル、マント羽織っただけの眼鏡芋子な私に
おしゃれ星人っぽいパトリシアは合わない。合わなすぎる。
でも、抜けてしまったのだ。伝説の剣。ひょいっとやっちまったんだ。
魔力が強い勇者を召喚して伝説の剣を抜こうぜキャンペーンに見事当選おめでとう。
これから君には王子様達と魔物討伐に出かけて貰うよ。
きゃあ素敵! 帰っていいですか。
もっと根性出せよーー。抜けようとするなよーー!
パティが頑張っててくれれば私はこんな目に合わずにだな!王様も息子たんがすいません的なあれで帰してくれそうだったのにな!
『眠かったのよね』
寝るなよ!伝説の剣!頑張れよ!お前はやれば出来る子だろ!
っていうか寝るのかよ!剣なのに!
私がそんなツッコミをしている間に森の向こうからガサガサと音がし始める。
なになになになに熊!?
獣!? 龍とかドラゴンとか火を噴く系のくる――!?
私の脳内パニックを他所に、私の身体はスッと動いて冷静に森に向かって剣を構えている。
伝説の剣様の実力発揮だ。
「おい、異世界の女!『俺の盾になれっ』」
「……ハイ」
王子の言葉にコクリと首が勝手に頷く。私の目のハイライトはゼロだぜこの野郎。
3日前に召喚されて首輪を嵌められ伝説の剣を抜き、
2日前に旅の準備と称したセクハラ紛いの身体検査を受け、
今日、旅立ったわけで。
戦闘経験ゼロ!
ひゃっはー!頼もしいねッ膝がガックガク揺れるよ!
ちび王子と似非聖職者は私の後ろで様子を伺っているので、当てにならない。
というか、奴らは私が喰われている間に逃げようとかそういうこと平気でしかねない。
当てになるのは伝説のパトリシア様のみである。
あのね。すいません、パティさん。
私最近インドアだったんであんまり動かれるとですね、明日、筋肉痛で辛いので。
『大丈夫よー。若いんだから』
大丈夫ってなんだ。私の身体ぞ。これ私の身体ぞ。
本体は私ぞ。
貴様は私がいなきゃあれだぞ。その辺に刺さったまま錆びることも出来るのだぞ。
「……っ!」
いやぁぁ待ってそんなにお股開かないのぉぉ。
関節!関節がぁぁ!ごめんなさい生意気言ってすいませんごめんなさい痛いですごめんなさい。
ぐにぃっと広がる股の広さ。
最近ではありえないレベルの可動域である。
穿いててよかった芋ジャージ!
これがミニスカートとかであってみなさい。もれなくパンチラ。むしろ全チラ。
パンモロである。
『アンタのパンモロなんて誰が……ああ、あの変態が喜ぶかしら?』
やめたげてよぉ。私のお肌が鳥肌になっちゃってるじゃないの。
そんなこと言われるとこのお尻を突き出したようなポーズがめっちゃ恥かしいことになるわ!
何が悲しくて美形男子の前でこんなのしなきゃならんのか。
ガサガサガサガサ。
『来るわねぇ』
うぇぇぇうわぁぁ来るなぁぁ来るなぁぁッ!
ブンブン振り回したい気持ちを抑えて見つめる先。
ガサッと音を立てて現れたのは、青い髪とピンク髪。
「あれれぇ? あーちゃん、怖い顔してどしたのー?」
青髪青目のたれ目男子がへにょっとした口調でそう言う。
その背中には弓矢が担がれ、右手に兎のような生き物を持ち歩いていた。
木こりのような格好なのに紫地の上着は胸元が大きく開いていて、綺麗な鎖骨が良く見える。
チャラリと鳴るネックレスは銀色に光り、耳元にもキラキラしたピアス。
弓矢が打ちやすいように斜めに作られている胸当てやベルトにいくつかあるナイフなどが無ければホストかと思うような顔立ちだ。
「お前か。ウニュイ。驚かすな」
ホッとしたように軽く口元を緩める金髪ちび王子。
青髪青目なホストはウニュイという仲間である。たぶん、仲間。初めまして。
目が合って速攻逸らされたけど宜しくする気はねぇよこんにゃろうって態度ですか。そうですか。
帰って良いかなー。
この勇者って職、ブラックすぎるわぁー。もっと待遇良い物じゃないの勇者。
あ、隷属の首輪ってますから違いますね。さーせん。
しっかし、王子と聖職者が二人して何もない森の中で突っ立ってるから、脳内容量でもパンクして
処理速度が落ちたのかと思ったけど、仲間の集合待ちだったらしい。
『言ってる事分からないけど、要するに馬鹿にしてるのよね』
まぁ、そうともいう。
「まあ。アミョン王子ったらエミリアを待っててくださったんですね!
エミリア嬉しいですわ!」
ピンク髪の方はツインテールを揺らしながら場違いな程ゴテゴテしたドレスのまま、
アミョン王子様の胸元に飛び込んだ。
もとい、彼の頭を抱え込むような姿勢になりかけたものの、中腰姿勢で王子にへばりついている。
目算で王子よりも赤いドレスのエミリア譲の方が10㎝位背が高いように見えるのに
涙ぐましい努力である。
『ヒールも殆ど無い靴を選んでいるようだしねぇ』
余程王子が好きなんだねぇとばかりの私とパティ。
そんなほのぼのする私たちに、エミリア嬢は蕩けるような笑みからこちらを上から下まで見て、半眼になり睨みつけてきている。
特に胸元ガン見だ。
焼ける。
このままだとエメラルド色の目をしたレーザービームにささやかなおっぱいを焼かれてしまう。
何故そうと言い切れるかと言えば、エミリア譲が私の乳部を見てから
チラリと自分の胸部を見直し、殺気を3倍位膨らませてこちらを見直したからである。
あ、貴方のおっぱいはきっと大きくなるから―――!
むしろ、お隣の王子がどうにかしてくれるから―――!こっち見ないで!やめて!
ツルペタも需要あるよきっと!
盾兼剣士をやらされた私こと奴隷勇者。
私にだけ聞こえるオカマ口調な伝説の剣、パトリシア。
回復役の変態聖職者。
一応魔法剣士な俺様ちび王子様。
シーフな王子の乳兄弟様。
自称天才魔術師、自称王子の婚約者様。
こんなポンコツパーティが、本当に世界を救っちゃうなんてのは、
この時誰もしらない。